20 得体が知れない
昨晩、取引相手の名前を言いそびれたことに気づき、夕食の席で、その話をしたらサキ姉から小一時間ほど説教を受けた。
どうやら、原初の魔導巨兵『月弓』を見たかったようだ。
まー僕たちとの取引に、姫様が直接顔を見せることはあり得ないだろう、シルビルードと僕らがいるバーディガン王国は戦争中なのだ。
そんな場所へのこのこと、数少ない原初の魔導巨兵の契約者でもあるグレース・シルビルードが顔を見せたら、僕は彼女の人格を疑う。
来るのは代理人だろう。
逆に本人に来られても、それ以上の厄介ごとを引き連れて来そうで、対応に困る。
ようやくサキ姉から解放されて、夕食の後片付けをする。
兄弟の中で、唯一マシンドールに乗れない僕は、みんなと比べて仕事量が少ない。
食事の準備なんかもそうだが、自分が出来そうなことには積極的に手を挙げる。
第六魔導巨兵工房には、僕たち兄弟しか住んでいない。
サキ姉はマシンドールの研究。
ルークは、『黒小鬼』に乗ってレアンと一緒にダンジョン探索。
キキは、音魔法を使って情報を集めている。
ララは、錬金術でモノ作り。
僕は……たまにサキ姉とララの助手をする程度、やることがないので退屈なのだ。
いま僕が片付けている食器も、粘土と魔物の骨を使って、ララが錬金術で作ったものだ。
食器を洗うのに使う石鹸もそうだし、僕が左腕につけている腕時計もララが作った。
この世界には、時間がある。
時間というものがあることは知っていたが、その便利さを知ったのは、ララが首輪を喰い千切り、時計を作れるようになってからだ。
1日は二四時間で、一週間は七日、一月は三十日、一年は十二月あり、三百六十日ある。
シルビルードが、バーディガン王国に進軍してから、もうすぐ一月経つんだよな。
倉庫にある食材を確認して、朝食の献立を考えながら部屋へと戻った。
✿
新星暦一二八三年七月三日。
僕たちは、シルビルードの第四王女グレース・シルビルードと取引するために、再び第六魔導巨兵工房の外に出た。
向かうは、前回と同じ森林都市アムズメリア。
バーディガン王国とシルビルードは、絶賛戦争中である。
職人連合立ち合いのもと、取引はアムズメリア近郊の森で行われる。
出発して、五日目の朝には、アムズメリアの町を囲む城壁を視認できる距離まで来た。
品物の受け渡しをする七月十日までは、この辺りで野宿する。
僕ら六人は、博士から様々なことを仕込まれた。
野宿もそのひとつだ。
体験したのは野宿というよりは生き残りをかけたサバイバル、森の一番深いダンジョンに置き去りにされて、そこから、魔物から逃げ続けて外に出るといった生存訓練だ。
お陰で僕たち六人は、逃げることと隠れることに関しては超一流と呼べるほどの技術を身に着けた。
ルークとレアンが、テントを張り終えるのを見計らって、昼食の準備をはじめる。
食べ盛りの五人が、匂いに釣られてやって来た。
「そうだサキ、少し前にオーガの心臓を探しているって言ってなかった」
「ええ、探しているわ。急にどうしたのよ……もしかしてくれるの?それなら、喜んで貰うわよ」
三男のレアンは、年上だろうと、みんな同じように話をする。
「どのくらい必要なのさ」
「多ければ多いほど嬉しいけど、そうねー、百個くらい欲しいわ」
「百個も獲れるかな、オーガが湧くダンジョンの場所が分かったんだ」
「オーガが湧くダンジョンだって、なるほど、俺たちに話すことが出来たということは、条件が整ったのか」
サキ姉とレアンの話に、ルークが交ざる。
託されたモノについては、口外禁止だが、条件さえ揃えば、少しだけ兄弟だけには話すことが出来る。
条件はそれぞれ違い、レアンはオーガの沸くダンジョンのことを話す条件が揃ったのだろう。
「そういうこと、おいらがドワーフから託されたモノは、ダンジョンについての知識だ。そのなかでみんなに話していいのが、一番近くにあるダンジョンの情報。これは、知識を託された際に決まったルールだ。
リュカ以外は、ルールを守ることの大事さが分かっているだろう。リュカ以外はね」
昼食の準備をしながら、名前を呼んだレアンを見る。いつもと何かが違うような、背が伸びたとか?レアンを見てそんな印象を受けた。
「なんだよ、話したのは一度だけだろう」
「リュカは、託されたモノを軽く考え過ぎなんだって」
今日のレアンは、いつも以上にしつこい。僕がまたルールを破って、託されたモノについて話すと思っているのだろう。
信用無いなーと思いながら、博士はいないし、別に話したところで問題ないだろうと思うところもある。
う……レアンの言う通りか。
託されたモノについては、僕と兄弟で考え方に大きな違いがある。
「リュカってさ、つい喋っちゃいそうだろう。だから、その前に聞いておきたいんだ。カーネギー・アルダンには、おいらたちに、どこまで話していいって言われたんだ」
レアンは養父のことを、ドワーフと呼ぶ、カーネギー・アルダンと呼ぶのは珍しい。
「僕が教えてもいいと言われたのは、マシンドールオリジンが眠るダンジョンを知っているってことだけだよ、本当にそれだけ。あと、ダンジョンに行くときは、必ず一人で行けって言われたような」
話した後に後悔する。
この話をしてしまえば、僕は一人で、原初の魔導巨兵が眠るダンジョンに挑まなくてはいけなくなる。逃げ足なら自信はあるが、それだけじゃどうにもならないと思うんだ。
なぜ、兄弟がここまで、博士の言いつけを守るのか不思議だ。
破ったからといって、何が起こるわけじゃない、単なる口約束なのに。
「でもさ、そんなに博士……カーネギー・アルダンとの約束を守ることは大事なのかな。恐らく博士とは、二度と会うことがないんだよ、律儀に守る必要はないんじゃないの」
「だめだ」「ダメよ」「だめ」「だめだからね」
「リュカ兄ちゃん……それは絶対だめなの」
五人の雰囲気が変わる。夢うつつであるような、宙を彷徨う視線。
一分少しそんな時間が続いた。
それから暫くして五人は元に戻った。
ただ、僕と何の話をしていたのか、五人の記憶からは抜け落ちている。
「あれ、あたしたち何の話をしていたんだっけ」
「オーガのダンジョンをどうするかって話しだろう」
キキの言葉にルークが答える。
魔法……だったのか?
僕は、またひとつカーネギー・アルダンの正体について疑問を抱いた。
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