18 アルチザンギルド 2
職人連合にとって、魔導巨兵設計者は、最高位の職人である。
サキ姉が、魔導巨兵設計者だと承認されたなら、ローガスの言葉は、魔導巨兵設計者である姉の言葉を否定したことになり、職人連合の職員にとって、最上級の職人に唾を吐く行為は許されないだろう。
彼もそのことに思い至ったのか、一気に顔色が悪くなった。
「少々、お待ちください」
ようやく吐き出したローガスの言葉は、弱々しく。額に大粒の汗を浮かべたまま部屋の外へと出ていった。
暫くして、身なりのよい、ローガスよりも年配の男が入ってくる。
「部下が大変失礼いたしました。私はこのアムズメリアのアルチザンギルドで責任者をしております。リーゼッツ・マートンと申します」
「いえいえ、私のような若輩者では、侮られるのも仕方がありませんわ。はじめましてサキ・アルダンと申します。今回は、魔導巨兵設計者の申請にまいりました」
サキ姉の嫌味を含んだ言葉を、リーゼッツさんはさらりと聞き流す。
「魔導巨兵設計者ですか、申請が通れば、百八十三年ぶりに人族からマシンドールデザイナーが生まれることになります。そうそう、作品を持って来たと聞いたのですが、未登録のマシンドールでしょうか」
「ええ、ご指摘の通りですわ。戦時中ですので、所属不明のマシンドールで町に近付くのは、無用な混乱を招くと思いまして、森の中に置いてきましたの」
「賢明な判断です。でわ、鑑定士を連れて、私がまいりましょう。新型マシンドールは男のロマンですからな、馬車を用意しますので少々お待ちください」
こうして僕たちは、リーゼッツさんと一緒に、馬車で、ルークたちが待つ森の中へと向かうこととなった。
護衛として、右肩に馬車に描かれているのと同じ、職人連合の紋章が入った魔導巨兵、『ガラカム』が三機同行する。
職人連合は、城壁に、自分たち専用の門を持っており、届け出無しでも、自由に魔導巨兵の出入りが出来るのだという。
「職人連合の紋章が入った魔導巨兵や馬車への攻撃は、世界を敵に回すことになりますので、ご注意ください」とリーゼッツさんは教えてくれた。
「皆殺しにすれば、バレないんじゃないですか?」という僕の質問にも、「詳しくは話せませんが、それを伝える方法があるのです」ニヤリと笑うリーゼッツさんは、なかなかに男前である。イケオジってやつか。
ルークたちには、絶対に攻撃しないように!もちろんフリではなく、キキに事前に連絡を入れてもらう。
僕らが乗る馬車の後を、もう一台馬車がついてくる。
「後ろの馬車は何でしょうか?鑑定士の方も、こちらの馬車に乗ったと思うのですが」
「あれは、未発表のマシンドールと聞いて、いても立ってもいられなかった奴らです。根っからの職人が多いんですよ」
何か起きた際、対処出来るように、ルークたちには、魔導巨兵に乗ったまま待機してもらった。
馬車が停まる。
職人連合所属の『ガラカム』も、ルークたちの『黒小鬼』も、お互い武器は抜いていない。
もう一台の馬車からも、ぞろぞろと人が降りてくる。
鑑定士たちが待ちきれない様子で「鑑定してもいいでしょうか」と目を光らせる。サキ姉は、「ええ、好きに鑑定してください」と返した。
「銘は、クロショウキというのですな、確かに設計者はサキ・アルダン様で間違いございません」
「おお、このマシンドール、素体がスフィーロ種ですぞ。バーディガン王国の貴族にもう少し見る目があれば、シルビルード軍に対しても、少しは対抗できたでしょうに」
サキ姉もついでとばかりに、戦局について質問をする。
「バーディガン王国とアムルシアン連合国の共同部隊は、押されているのですか」
「はい、バーディガン王国の町の半数が、既にシルビルード軍に落とされているという話しです」
「サキ様、ところで、このクロショウキは、他国でのライセンス生産などはお考えでしょうか」
「いまのところ考えておりません。ただ、別にお売りしたいマシンドールがあります」
サキ姉が、指示を出すと、森の奥から荷車に乗った『鋼鉄の一角狼改修型』が運ばれてきた。
早速鑑定士たちが、一斉に鑑定を行う。鑑定士は、何人ついて来たんだよ。
「ホーンウルフリペアですか、こちらにもサキ様の名前が確認できました。マシンドールデザイナーであれば、マシンドールの心臓の交換が可能だという噂は真実だったのですね」
鑑定士たちの鼻息が荒い。
リーゼッツさんも、ニコニコである。
職人連合の職員たちの多くは元職人であり、新しいモノには目がないのだ。
「サキ様、ホーンウルフリペアの取引先の希望はございますか」
「特にはありませんが、お金ではなく、物との交換を希望しています。希望する物は、魔導巨兵用荷車とそれを引く魔物、その魔物とは別に、マシンドール製作に使う鎧の素材が欲しいです。後は、心臓が壊れて放置されている、部品取り用や、廃棄予定のマシンドールもあれば、譲っていただきたいのですが、一番いい条件を出してくださった方と取引したいと思いますわ」
「分かりました。取引先の選定は我々にお任せいただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、構いません」
そこから、次々と話はまとまっていった。
その場で契約が交わされ、『鋼鉄の一角狼改修型』は、荷車ごと、職人連合へ渡される。
職人連合は、既に僕たちが、第六魔導巨兵工房の責任者である、カーネギー・アルダンが引き取った孤児であるという情報も掴んでおり、商談の連絡用にと、長距離通信が可能な、通信用魔道具が貸し出された。
サキ姉の魔導巨兵設計者としての登録も無事終わり、新型魔導巨兵『黒小鬼』と共に、明日の職人連合会報で、大々的に発表されるという。
百八十三年ぶりに人族の、史上最年少、十六歳の少女が魔導巨兵設計者としてデビューする。
この事実は、世界に大きな衝撃を与えることになるだろう。
西方大陸の地図を貼ってみました。
アムフィス、ルシリカ、アンスセンの三カ国が、アムルシアン連合国制定時の連合国家となっています。
頭の二文字を合わせただけですが……少しでも世界のイメージが膨らめば幸いです。
読んでいただいてありがとうございます。
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