15 宣言
読んでいただいてありがとうございます。
作中に登場する、ウルフレアの名前に使っているレアは実在する鳥で、「レア 鳥」で検索すると、画像が出てくると思います。
煙幕が晴れた後に残された『鋼鉄の一角狼』の操縦席は、もぬけの殻で、ルークとレアンは、すぐに森の中に潜ったが、バンデル・ノワスの消息はつかめなかった。
「マシンドールを持っていることが、シルビルードにバレてしまったかもしれない……俺のせいだ」
「ルークのせいじゃないよ、煙幕を使うなんて誰が想像出来たのさ、相手が一枚上手だったんだ」
自分たちを子供だと侮っていた敵が、本気で僕らの排除に動くかもしれない。
バンデル・ノワスの件は、キキが音魔法でシルビルード軍のベースキャンプを見張り、彼が生きていた場合には、レアンがダンジョンリセットを行う。という流れで動くことが決まった。
これで少しは時間が稼げるはずだ。
魔導巨兵と契約していない僕は、みんなの足を引っ張るかもしれない。そんな不安が頭をよぎる。
もうひとつショックな出来事が起きた。
世の妹を持つ、思春期の男性諸君に問いたい。
四つ下の、十歳の妹に腕相撲で負けたら、君たちは次の日、どんな顔をして過ごす?……僕は、次の日、誰とも顔を合わさないように一人で過ごしたよ!
まさか、ララに力比べで負けるとは思いもしなかった。「リュカ兄ちゃん、ララ力が強くなったんだよ」と言われ、「へーじゃあ、腕相撲でもやるか」と言ってしまった、あの日の自分を全力で呪いたい。
僕は、魔導巨兵との契約で得る力の凄さを、身をもって体験した。
筋肉ひとつないぷにぷにで可愛らしい腕に、瞬殺された兄。
はーなんだかなー、である。
自暴自棄になっていたのかもしれない。僕は、サキ姉の助手を二つ返事で引き受けた。
「ねぇ、サキ姉。この狼どうするの?マシンドールって契約者が死なないと、次の契約者を選ばないんでしょう」
「え?無理矢理契約を切って、まっさらな状態にすることも出来るわよ」
「え、何それ?それって、まさか……」
「ええ、師匠の知識よ」
サキ姉は、満面の笑みを浮かべながら、世界の常識を覆す技術を口にする。
この世界において、魔導巨兵は、契約者が死なないと、新しく契約を結ぶことは出来ない……と言われている。
それもあって、魔導巨兵本体を奪うことよりも、戦争では、契約者である人形遣いを殺すことを優先する。
その根底を覆す技術を、僕の姉は持っているのだ。
本当に博士って、何者なんだ。
「この子を使えるようにするためにも、ホーンウルフの心臓を新しくする必要があるの。ルークに狩りを頼んだから、そのうち持ってきてくれるはずよ、その時はリュカも手伝ってね」
「それはいいんだけど、ここのダンジョンに中位以上の狼の魔物なんていたかな?」
「狼とは少し違うけど、狼頭の走鳥の上位種がいるってレアンが教えてくれたの。師匠の知識によれば、狼頭の走鳥の上位種であれば、ホーンウルフにも適合するはずよ。魔術回路を一部書き換えたり、鎧の形状も多少変える必要はあるけど、まっ、何とかなるでしょ。
それと、リュカに何か言わなきゃいけないことがあった気がするのよねー。うーん……そうそう、思い出したわ。ララがルプスニウムを採るために、ダンジョンに潜っているのだけど、戻ってきたら、リュカにも手伝ってほしいことがあるって、話していたわ」
「そうなんだ。後で顔を出してみるよ」
末っ子で、まだまだ幼さが残る三女のララだが、魔導巨兵『黒小鬼』と契約したことで、毎日のように素材を採取をするために、ダンジョンに潜っている。
知らない人や魔物の前では、魔導巨兵から降りてはいけません!って、みんなで何度も注意したし、心配はいらないだろう。
ララの乗る機体は、三機ある『黒小鬼』の中でも、一番樹高が低く十メートル以下、ダンジョン探索向きの機体である。
つい先日も、錬金術の材料として、大きな網に大量のスライムを捕獲してきた。
こんなダンジョンで無双する十歳は、世界のどこを探してもいないだろう。
二日後キキから、バンデルがベースキャンプに戻ったという報告があり、レアンは森の中に一人で潜り、入り口や出口を入れ替えるダンジョンリセットを発動した。
一人で潜ったのは、例え兄弟であっても、ダンジョンリセットの方法を見せることが、禁じられているからだ。
夕食の席で、レアンはダンジョンリセットの発動を改めて僕たちに報告した。
「私からもいいかしら」レアンが話し終えたタイミングで、サキ姉が手を挙げる。
「今回のことで、私たち兄弟がマシンドールを所有していることと、複数のライダーがいることが明るみに出てしまったわ。それならば、いっそ目立ってしまった方が、私たちに手を出しにくくなると思うの。私サキ・アルダンは、職人連合に赴き、魔導巨兵設計者として申請をしたいと思います」
今日の夕食は、倉庫にあった芋と、ダンジョンで獲れた魔物肉を使ったスープだ。
誰かが驚きのあまり、スプーンを落としたのだろう。乾いた音が小さく響く。
職人連合は、戦時中であっても中立を貫く。例え軍であっても、容易に介入ができない、世界中に支部を持つ巨大組織だ。
長命種が大半の魔導巨兵設計者は、ここ百年、新規の登録者がいなかったはず。
しかも、サキ姉は人族で、十六歳の少女である。
受理された暁には、このニュースは世界中に衝撃をもって伝えられるだろう。
六人兄弟のうち、五人が人形遣いで、更にその一人が魔導巨兵設計者。
僕の凡人感が凄い。
情けない気持ちを、スープで煮込まれた芋と一緒に、喉の奥へと流し込んだ。
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