表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/38

1 プロローグ

 これは、戦争に巻き込まれた小さな国で生まれた子供たちの物語だ。


 彼らが生まれた国は、農業以外これといった産業もなく、かといって土地が豊かなわけでもない。平たく言えば貧しい国だ。

 人々の生活はギリギリで、育てられる子供の数は、せいぜい二人か三人まで、それ以上産んでしまった場合は、情が移らないように名前を付けず、山羊一頭にもならない値段で買い手を募る。

 多く生まれた子は、商品扱いだ。


 傍から見たら最低の国。なんの魅力もない人族の国に、五百年以上の寿命を持つとされる、優れた知恵と技術を持つ、長命種と呼ばれる人種族、ドワーフ族の男カーネギー・アルダンはやって来た。


 貧しい国と言っても、王や貴族は別だ。

 戦争の兆しあり、その情報に浮足立った王と貴族は、自分たちの贅沢な暮らしを守るために、エルフ族やドワーフ族といった、長寿で人族よりも優れた知恵と技術を持つ者たちに、片っ端から招聘の手紙を送る。

 とはいえ、こんな貧しい国に来たがる物好きはおらず、唯一、その誘いに乗ったのが、謎の多いドワーフ、カーネギー・アルダンだった。

 彼の役目は戦うための道具、魔導巨兵(マシンドール)を作ること……自分たちの財産を守るための、自衛のための武器の製作。


 カーネギーは、はじめに売られている子供たちの中から助手を探した。

 

 王や貴族が、注意深くカーネギーの行動を見ていれば、彼の異常さに気付けただろう。

 この時代、町を行き来する手段の多くは、様々な生き物が引く馬車であった。

 カーネギーは、助手を探すためならば、馬車で一月はかかる国の果てだろうと、移動を躊躇わなかった。

 まあ、どんなに目的地が離れていようと、翌日にはその場所に彼はいたのだが……それなのに、誰も、それを不思議には思わなかった。


     ✿


 この惑星(ホシ)は一度滅んでいる。

 大きな戦争が世界を焼き、生命の途絶えた灰色の土地に、神は最後の慈悲を与えた。


 『旧星暦』時代――世界を滅ぼすきっかけになったのは、神の姿を模して創られた人種族という、群れで国を築く生き物同士の争いだ。


 それなのに、神は新しくなった世界に、新たな人種族を創造する。

 『新星暦』と呼ばれる時代のはじまりである。


 世界が新しくなっても、傲慢で欲深い人種族の本質は変わらない。

 

 魔法帝国時代。

 力のある魔法使いたちを集めた国が、自ずと勝者となる時代。

 誰もが、魔法使いたちの天下は、未来永劫揺らぐことはないものだと考えた。

 そんな時代も終わりを告げる。


 絶対的な力を持つ魔法使いたちの時代を終わらせたのは、地下迷宮と呼ばれる『旧星暦』時代の異物から見つかった、人の形をした巨大兵器だった。


 原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)――鋼鉄の鎧を纏う巨大な人形。


 発掘当初、それが何なのか分からなかった。

 偉大な魔法使いたちが巨人の謎に挑んだが、魔法はすべて拒絶される。

 鎧を外そうと試みた者もいた。

 だが、鎧は体の一部であり、無理に外そうとすれば、鎧の間から伸びた枝が巻き付き、調査員を絞め殺す。

 魔法を弾くため、破壊することも叶わない。

 八方塞がりである。


 鎧から覗く肌は、樹木のようで、剣や槍を突き刺そうが、傷はすぐに再生する。

 刺した人間は、鎧の間から伸びた枝に絞め殺された。

 人形は生きていた。人形は、旧星暦唯一の生き残りである。


 魔法が苦手な弱者たちの国。

 魔法帝国の圧政に苦しむ人々は、どれだけ犠牲を出そうとも、人形の調査を止めなかった。止められなかった。

 そして、ついに努力が実る。

 調査をはじめてから、どれだけの歳月が流れただろう、調査員が偶然、人形の腹部に隠し扉が有ることを発見した。

 椅子がポツンと置かれた、厠にも似た広さの狭い部屋。

 調査員たちは恐る恐る何度も椅子に腰かけてみたが、人形はウンともスンとも言わない。人形は眠り続けた。

 調査員の代わりはいくらでもいる。人を殺す兵器。原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)を調査するのは、最底辺にいる使い捨ての効く人間たちだ。


 魔法帝国の圧政に苦しむ我が民を助けたい。その一心で、一人の王子が立ち上がる。

 王子は、身体が弱く、色白で白髪だった。

 王に無断で、夜中、原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)の格納庫に忍び込んだ王子は、開けられたままの腹部に入る。

 

「な……なんなんだ、これは」


 幾つもの蔓が伸び、王子の頭、手……足へと絡みつく。

 夜中、静まり返った倉庫に王子の声が響く。

 倉庫の周りを巡回していた兵士たちは、王子の声を聞き、倉庫の中になだれ込んだ。

 大慌てで駆け付けた兵士たちが目にしたのは、瞳に光を宿す巨大な人形だった。


 新星暦五三一年――二百年にわたって世界を支配し続けた魔法帝国は、たかだか十五機の原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)によって終焉を迎える。


 当たり前のように人々の頭にあった、魔法至上主義が崩れた瞬間である。

 各国は、競うように魔導巨兵(マシンドール)の研究をはじめる。


     ✿


 マシンドールの元となっているのは、植物の魔物である。

 研究者の間では周知の事実であり、原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)の元となる魔物とは別モノだが、近い性質を持つ魔物には当たりをつけていた。


 『巨人樹』


 名前の通り人の形をした巨大な樹木。亜種には他の生き物に似たモノも確認されている。

 人のように手足には複数の指がある。

 この植物が魔物と言われるのは、乾季になると雨を求めて大移動をはじめるからだ。

 巨人樹は人を襲うことはない、それでも巨大な樹木が列をなして移動する姿は、見ているだけでも恐ろしく、運悪く進路上に集落でもあれば、ことごとく踏み潰された。

 世界は、彼らを魔物と認定する。

 原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)と巨人樹には、共通点がある。

 巨人樹にも、魔法が効かない。

 原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)が発掘されてから、巨人樹を兵器にするための研究が続いた。

 

 新星暦七五九年――人種族の中でも長命種と呼ばれるエルフ族の研究者、ジェスター・アレキサンドライトが、新星暦で初となる魔導巨兵(マシンドール)の開発を成功させる。

 魔物には、人種族同様心臓がある。

 魔物の心臓が人と違うのは、心臓が体外に出た瞬間、結晶化と呼ばれる現象を起こし、結晶に包まれた心臓だけで生き続けることだろう。

 結晶化した心臓を新鮮な肉の器に入れれば、結晶は剥がれ心臓は血管を肉の中に伸ばし動きはじめる。

 魔物の心臓を使った移植実験は、家畜をはじめとする様々な生き物の死体で行われた。

 大半は、拒絶反応によって肉片に変わったが、拒絶反応を起こさなければ、それは新しい魔物となる。


 ジェスター・アレキサンドライトは、巨人樹の心臓を抉り、拒絶反応を抑える魔法文字(ルーン)を刻んだ指輪を埋めた、別の魔物の心臓を巨人樹に移植した。

 更に巨人樹全体と、外殻となる鎧の内側に魔術回路(マナサーキット)を刻む。

 何度失敗しても、ジェスターが指揮をする研究チームは諦めなかった。

 そして、ついに最良の組み合わせを見つける。

 巨人樹に相性の良い魔物の心臓。最適化された魔術回路(マナサーキット)。鎧の形状。どれか一つ欠けても魔導巨兵(マシンドール)は動かない。


 はじめて人の手で作られた新星暦初の魔導巨兵(マシンドール)は、博士の名前をとってジェスターワンと名付けらえた。

 ジェスターワンは、遺跡や迷宮から発掘される原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)に比べ、出力も稼働時間も不安定だった。

 魔導巨兵(マシンドール)の更なる進化を願い。ジェスター・アレキサンドライトは、ジェスターワンの設計データを全世界に公開した。

読んでいただいてありがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ