記憶
子供の頃のお散歩コースを歩き、友達と一緒に帰った通学路を歩く。小学校、中学校その時々で一緒にいた子は違ったけれど、全てが懐かしく感じた。親友と呼べる子がいたかどうかはわからない。家のことは絶対にしゃべってはいけないと母からきつく言われていたので、家のことを人に話したことはなかった。私にはいつも秘密があって、誰にも本心を打ち明けることはなかったから…。
不意に涙が込み上げてきた。気づいてしまった。私もまた孤独だったのだと。
いつも同じ空間に居ながらにして、皆別世界の住人たちだった。友達なんて本当はいなかった。
でもそれでも、あの時を共に過ごしてくれた人達に感謝しかない。一緒に過ごしてくれたから、私は救われていた。それは…真実だ。
号泣したら変な人になってしまうので、涙を堪えながら、何気ないふりをして私は歩いた。
そして思う。本当はもっと違う人生があったんじゃないかと。父も母も姉も私も…。
丁度通学路からそれて、幼稚園へ続く道へとさしかかった。
小さい頃姉と私は家庭保育をしてもらっていて、そこのおばちゃんが私は大好きだった。朝仕事へ行く前に母が送ってくれておばちゃん家から友達と一緒に幼稚園へ通っていた。手を繋いで「一年生になったら〜。」なんて大声で歌いながら登園していたのを覚えている。まだ無垢で世界の全てがキラキラして見えた。
ふとあの頃、母に手をひかれて幼稚園の開門と同時に登園した日々があったことを思い出した。
バス停を降りて1人で小学校へ向かう姉。私は母に手をひかれて幼稚園へ向かった。バス停を降りて1人で向かう時の何か言いたげな姉の顔。幼稚園の門の前で先生が門を開けながら、
「お母さんと一緒でいいわねー。」
と笑顔で迎えてくれて、不安そうな私をよそにそそくさと母が仕事に去っていく姿。
妙に鮮やかに蘇ってきて自分でも驚いた。
心の奥に眠っていた記憶。
あれは父との生活に限界を感じていた母が、姉と私を連れて家出をしていた時のことだ。
伯母の家にお世話になって、姉と私はしばらくバスで学校と幼稚園へ通っていた。私は幼くて記憶はほとんどないのだけど、登園のシーンだけは何故か思い出せた。
おそらく母はそこで決意したのだろう。
その後母は父に内緒で家を買った。父と別れた後住む為の家を。