再びの日曜日2
夜になって父が帰ってきた。父はベビースモーカーで、記憶にある限りいつも煙草を吸っていた。
私は父にせがんだ。
「お父さんあれやって。」
「おっ。あれか。いいぞ。待ってろ。」
そう言って父は煙草を吸うと、口をもごもごさせてから、ぽっと煙草の煙を吐いた。父の口から出てきたまあるい形の煙の塊の真ん中に指を突っ込むと、ドーナツができた。それからふわっと薄く広がって行き、やがて消えた。
それが楽しくて、姉と2人で順番に指を突っ込んだ。
父の口から吐き出されるその魔法のような現象を夢中になって楽しんだ。
本当の父はこんな芸当は出来なかった。
叔父ちゃんがよくやっていて、私は父にもやってくれるようせがんだのだ。でも父は不器用で、そんな芸当は出来なかった。
私が父に何かせがむことはなくなっていった。
父が亡くなってから父との思い出を何度も反芻した。
最初は思い出そうしてもいいことは何も思い出せなかった。一緒に暮らしていた頃の記憶は、最後の方の辛い記憶ばかりだった。
どんどん言動がおかしくなっていく父。会話が成り立たない父。人前に恥ずかしくて出せない父。
それは私が少し成長したから異常に気付いたからと言うのも少なからずあるのかも知れないけど、明らかに父は壊れていったのだ。
父との思い出は僅かにある小さい頃の断片的な記憶。私は時々は父について出かけたりもしたのだ。
その僅かな記憶を辿り、何度も父という人を思い出そうと試みた。