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06

 そして頭のおかしいで思い出した。


「ただでさえ頭のおかしい奴に絡まれてるのに、最近は家でも頭のおかしいことを言い出すのがいて……本当に困ってるんだ」


「なにがあったんすか?」


「『お姉ちゃんね、Vチューバーで食べていこうと思うの』とマジ顔で言われた弟の気持ちを答えなさい」


「あー、あのお姉さんっすか」 


 ヒメはなんともいえない……いや、いつもと変わらぬ顔をする。


「そんな皮がなくても、やっていける顔だと思いますけどね」


「ヒメちゃん、みこりん先輩のお姉さんと会ったことあるんですか?」


 カナセはヒメに目を向けた。


「ミコ先輩の家に行ったとき、一回だけな。今まで会ってきた中で一番の美人だった。お近づきになりたいとか、そんな風に思えないくらいの別格だ」


「ヒメちゃんにそこまで言わせるなんて相当ですね。ちなみにー、わたしと比べてどのくらい可愛いですか?」


 ほっぺたに人差し指を添えながら、あざとい笑顔をカナセは浮かべた。


「そうだな、二倍増しかな」


「くっー! 十倍百倍ならともかく、微妙にリアルな数字じゃないですか……」


 ヒメになんともなさげに言われ、カナセはとても悔しそうだ。可愛さを比較されて負けたのがではない。からかおうとしたのにあっさりと挫かれたからだ。


「でもそんな美人なお姉さんだったとは。シスコンになるのも納得ですね」


「はぁ? なんでそうなる」


 急に矛先を向けられ、イラっとくる前に呆気に取られた。


「だってそうでしょう? みこりん先輩、Vのものになろうとしているお姉さんを、『またバカなこと言ってる』って呆れてるんじゃなくて、本当に困ってるような顔してるんですもん。お姉さんが大事だから、ちゃんとしてほしいと思ってる証拠ですよ」


 ニッっと笑いながら、カナセは『違いますか?』と目で訴えかけてくる。


 そんな風に詰められて、言い淀んでしまう。


 その僅かな間を与えたのはいけなかったのだろう。


「そこまで大事に思ってる美人のお姉さんと血が繋がってないとか、もうそれだけでエチエチですね」


「相変わらずのエロゲ脳だな」


 感慨深そうにしているカナセは、結局これを言いたかっただけである。こういう奴なのを一時でも忘れた自分が悪いが、カナセはもっとたちが悪い。


「ちなみにそんなエチエチなお姉さんと昔は一緒にお風呂に入ってたんですよね? 一体いつまで入ってたんですか?」


「ノーコメ」


 後ろめたいことがあるのではない。こいつはなにを言っても、エロゲ脳を介した答えが出るから答えたくないのだ。


「小学生だったとしても、中学年か高学年で大きく変わりますね」


 問題は放っておいても、豊かな想像力を働かせることになる。


「ショタりん先輩が小六だったら、お姉さんは中三。身体がエチエチになる真っ盛り。ふぅ……いい思い出ですね、みこりん先輩」


「ヒメ、どうやったらこいつ黙るんだ?」


「この前、ノートで頭ひっぱたかられても黙りませんでした」


 ヒメの救いのない答えに、処置なしかと肩をすくめた。


「世の中には、中三の弟とお風呂に入るJDが存在するとのことですが……みこりん先輩のお姉さんはその類ですか?」


 好奇の色を深めた瞳は、まるでこちらの心の中を覗き込むようだ。


 耐えれたのは二秒ほど、つい目を逸した。


 視界の端にニヤニヤとしているカナセが映った。


「ほほう、その反応」


「え、マジっすか?」


 そして珍しく声音が乱れたヒメ。


 カナセはともかく、ヒメに誤解されるのだけは嫌だった。


「入ってない! 向こうが突然入ってきたけど、ちゃんと追い返した!」


「つまりそのとき、高三のお姉さんの全裸を見たと? これはもう、エチエチですね!」


「エチエチでもなんでもない! 姉弟として育った相手に、欲情なんてするわけないだろ!」


「年頃の男の子が、血の繋がらない美人のお姉さんをエチエチな目で見ないなんて無理でしょ。最後には結局エチエチしちゃう人たちを、わたしは沢山見てきましたから」


「エロゲとエロ同人を、現実と一緒にするな!」


 やれやれと手のひらを上に向けているカナセは、怒鳴りつけても怯まない。


「姉弟をそんな目で見るなんて、そもそも気持ち悪いだろ」


「わたし的には全然ありです。姉弟ものは守備範囲内。余裕ではかどりますね」


 一体なにがはかどるのか。そこを追求はしなかった。


 姉弟ものというのなら、こちらも切れるカードを思い出したのだ。


「じゃあ逆に聞くけどさ、再婚でできたカナセのお兄さん。兄妹仲いいらしいけど、そんな風に見られるのか?」


 小学生のときに再婚し、今のお兄さんができた。


 これを言えばさすがに黙るかと思ったが、やはり相手が悪かった。


「そもそもわたし、ひとりの兄の前にひとりの男としてお兄ちゃんを見てますから。お兄ちゃんとのエチエチな妄想なんてそれこそ、もう飽きたよ、ってくらいにしてきました」


 怯むどころかカナセは得意げである。


「え、なに、カナセって……お兄さんのこと、本気で好きだったの?」


「いえ、恋愛感情があるわけじゃないですよ。なんというか、ほら、お兄ちゃんってモテモテすぎてストーカーができるくらいのイケメンですから。そんな相手が血の繋がらないお兄ちゃんなんて、背徳感マシマシではかどるじゃないですか」


「つまり?」


「お兄ちゃんはただの、一番身近なエチエチな対象。ヒメちゃんがわたしで、はかどる妄想するようなものですね」


「おっと、いきなり名誉毀損か」


 急に流れ弾が飛んできて、ヒメは苦い顔をする。


 そんなヒメを心底以外そうにカナセは見た。


「え、したことないんですかヒメちゃん? この北中一可愛くておっぱいが大きい幼馴染が側にいるのに、エチエチな妄想したことないって言うんですか!?」


 信じられないものを前にしたように、カナセは驚いたように叫ぶ。


 カナセはアヤちゃんと同じで、自分の可愛さを客観的にわかっているタイプだ。自分が持て囃されなければ気がすまないオタサーの姫ではないが、小学生のときからエロゲーをやりすぎたせいで、男の性欲に理解がありすぎるのだ。


「背中におしつけたことだってありますし、絶対に嘘です! わたしがヒメちゃんなら、絶対にその日の内にエチエチな妄想がはかどります! ゴミ箱がティッシュで溢れちゃいますよ」


「ミコ先輩、このモンスターなんとかなりませんか?」


「ヒメの手に負えないモンスターを、僕が御せるわけないだろ」


 ヒメと顔を見合わせると、僕らは諦めたように大息を漏らした。


 せめてもの最後の抵抗とばかしに口を開いた。


「じゃあなんだ、逆にお兄さんにエチエチな目で見られても、カナセは構わないってことなのか?」


「構わないもなにも、お兄ちゃんはわたしのことそういう目で見られませんから。そんな前提はこの世にないんです。だからわたしたちはどこまでいっても兄妹なんです」


 どこか儚げにカナセは微笑んだ。


 初めてみるそんなカナセの顔に、僕は勘違いしていたのかもしれないと思った。


 本当はお兄さんが好きなのだ。ひとりの女として兄への恋愛感情を持っている。血の繋がりというものがないのに、それは絶対に叶わない。モラリストの兄を持ったからこその諦観が、その顔の正体だ。


 そして僕がアヤちゃんを好きならないわけがない。それは自分と重ねて――


「だってお兄ちゃん、ロリコンだから。こんな発育のいい身体、最初から守備範囲外なんです」


「兄妹揃ってモンスターかよ」


 そんなことはまったくなく、ただただこの兄妹はモンスターというだけである。


「そんなお兄ちゃんの幸せを願って、可愛い後輩を紹介しようと思ったんですけど」


「いいか、カナセ、おまえのしようとしていることは紹介じゃない。生贄っていうんだ」


「まあ、断られましたね」


「さすがに現実の子には手を出さないようで安心したよ」


 疲れたようにすくめた肩に、ヒメの手を置かれた。


「いや、ミコ先輩。その後輩に断られたってことです」


「なんでですかね、あんなにもイケメンで、心根も優しくて、稼ぎだっていい優良物件なのに」


 まるで学校の七不思議を前にしたように、カナセは唸りながら首を傾げた。


「稼ぎって、なにしてる人なんだ?」


「エロ同人作家です。界隈では有名な、コミケでは壁サーです」


「……どんな本を描いてるかは聞かないでおく」


「そりゃもちろん、性癖を詰め込んだものです」

どうでもいい裏設定。

カナセの兄は、過去作のそんな彼が死んだ話。(仮)で一瞬出てきた渡辺のオタク仲間。

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