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運命は、すれちがったままじゃいられない  作者: やなぎ怜


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(4)

 ……千春曰く、アルファをオメガに変えるビッチングという手法があるらしい。それは確立された手法ではないし、「運命のつがい」以上に曖昧で都市伝説めいたものらしいが――。


「でも効いた」


 そう言って千春が私の背後で笑う気配が伝わってくる。今は、ベッドの上で私は千春に後ろから抱きしめられている状況だ。首筋に千春の吐息が当たるのがくすぐったいが、身をよじる気力も体力も今の私にはなかった。他でもない千春によって、散々搾り取られたあとだからだ。


 アルファをオメガに変えられるという話の中に、ベータもオメガに変えられるというものもあったのだと千春は言う。……信じられないが、私はオメガになってしまったらしい。千春がせっせと私のうなじを噛み続けたから――というのが千春の言であったが、いまだに信じられず、じんわりとした痛みを帯びたうなじを触ってしまう。


 うなじの皮膚が少しだけ歯の形にへこんでいるのが、わかる。千春が思いっきり噛んだせいだ。血は出ていなさそうだが、痛いものは痛い。しかし先述の通り、私には抗議をするだけの気力は残されていないのだった。


「おまけに巣作りもしてくれるし……うれしい」


 それに、いつになくとろけた甘い声を出す千春のことを考えると、なにか文句を言う気は失せてしまう。


 私が千春のパジャマや、未使用のボクサーパンツを集めたのは、「オメガの巣作り」と呼ばれる行動らしい。発情期を迎えたオメガが、しばしば行うとのことらしかった。それをしている私を見て、千春は私がオメガになったと確信したようだ。


「発情期が終わったら、病院に行くぞ」

「それは……いいけど」


 そして、さらに信じられないことに、私は千春の「つがい」になったらしい。たしかに私はアルファとの性交中に、アルファにうなじを噛まれたオメガということになるわけで……そうなると私は千春の「つがい」になったのは間違いないらしいのだが。まったく、なんだか、夢見心地のままのような感じで、実感がない。


「ねえ、『運命』に会ったんでしょ」


 それに、この件について千春にきちんと聞いておかなければならない。……千春から、千春の口から、ちゃんと彼の意思を聞いておきたい。


 いや、実に理性的に私のうなじを噛んでいて、噛んだ千春から返ってくるセリフは半ば予想がつく。それでも、ちゃんと聞いておきたいと思って、私は千春に向き直って問うた。


 千春は、目をぱちくりさせたあと、めんどうくさそうな顔になって「ああ」と言った。


「たしかにあれは『運命のつがい』ってやつなんだろうけど」

「それじゃあ――」

「……けど、それ以上の感情はないな。『ああ本当にいるんだな』とは思ったが」

「ええ……。八〇億近くいる人間の中から出会えたんだよ? もっと、こう、なんかないの?」

「お前がそれ、言うのかよ。……だいたい、なにが『運命』かなんて俺が決める」

「えええ……」

「ベータをオメガに変えるほどの愛のほうが、よほど『運命』的だと思わないか?」


 「千春のそれは執着多めだよ」と思ったものの、藪をつついて蛇を出したくなかったため、私は黙り込むしかなかった。


 そんな私を抱き寄せて、千春は鼻先をこすり合わせるようにしてからキスをする。結構派手にリップ音が鳴ったので、なんだか私は気恥ずかしい気持ちになった。


「で、でも勝手にオメガに変えるとかないよ!」

「イヤだったか?」

「……それを言われると、困るんだけど……。でも、ほら、『つがい』の件だって勝手にするし……」

「じゃあ今許可取ればいいのか?」

「え」


 千春の腕が、私の両肩を抱くように回る。


「果南、俺だけのオメガになってくれ」


 至近距離で、少しかすれ気味の低い声でささやかれたら――


「わ、わかった……」


 としか、答えられないほど、私は千春のことが好きなのだった。




 そのあと、千春の「運命のつがい」が私の実の姉であることを伝えても、千春はあまり興味がない様子だった。


 そして当の花梨にも恐る恐る真実を伝えたところ、「果南ちゃんのカレシならナシだわ~」とあっさり言われて拍子抜けしたり――長年抱えていたわだかまりが、少しだけとけた気になったりするのだが、それはもう少しあとのお話。

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