ユウくんの大冒険
壁に付けられたボルダリングの出っ張りをつかんだまま、ユウくんは天窓を見上げました。
今日も青空が広がっています。
あの空の向こうには何があるんだろう?
そんなことを考えて体を反らしたとたん、出っ張りが指の間からすぽんと抜けて、ユウくんは床に落ちてしまいました。
でも心配いりません。
床にはマットが敷いてあって、ユウくんの体は、ぼふん、と落ちて、それから2〜3回ふわふわと跳ねるように上下しました。
そのまま、ユウくんは仰向けになって天窓を見つめています。
あの窓の外が見てみたいなあ。
でも、小さいユウくんには、天窓はあまりにも高いところにありました。
それに、ユウくんはまだ5歳なので、窓の外を見ることは許されていません。外を見るのは「もっと大きくなってからね」と言われています。
窓に切り取られていない空は、どんなふうに見えるんだろう?
ユウくんは気になってしかたありません。
ある日とうとう、ユウくんはママが仕事で部屋にいる時、こっそりと玄関を抜け出しました。
廊下の端にある階段を、うんしょ、うんしょ、と上ってゆきます。
上に行けば、天窓の上の景色が見えるだろう——と思ったのですが、どこまで行っても階段には窓がありません。
どのくらい上ったでしょう。
やっと踊り場のところに小さな窓がありました。
それは、ユウくんが背伸びをして、やっとのぞくことができるくらいの高さにありました。
ユウくんは、ワクワクしながら、その窓をのぞき込みました。
そこに見えた空は、青い空ではなく、天窓の夕方みたいに赤い空でした。
地面は、ビューアーで見るような緑ではなく、赤茶けた岩がゴツゴツしていて、紫色の何かが、あちこちにへばりついていました。
ユウくんは怖くなって、泣きながら階段を下りました。
どれだけ下りたら家なのかも分からなくなってしまいましたが、それでも泣きながら下りていきました。
「このように、青空や緑の森といった原始の環境再現は、人体にとって有益な効果をもたらします。今は、この再現技術も進歩したので、みなさんの家にも『窓』ができるようになったのです。」
退屈な授業を聴きながら、16歳になったユウスケは、ふと、小さな頃の冒険を思い出して、ひとり顔をほころばせた。
あの時は、こっぴどく怒られたっけ・・・。
某メーカーが、青空や夕焼け空を表現できるオフィス照明を発売した——というCMを見て、思いついた小説(?)です。