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【一部完】世界を救っているのに自分は気づかない話  作者: おむすびさん
一章【孤高の魔術師編~ただのボッチ~】
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 冒険者ギルドを出た後、革袋の中身を見た。


 金貨が12枚も入っていた。残り2つの革袋も金貨だったので、300万レールはありそうだ。


 これで装備を整えようと、ギルド推奨の装備屋に行くと、どうやら引っ越しした後で閉まっていた。

 ここ以外は知らないので、副マスや職員さんに他の装備屋の場所を聞く為にギルドに急いで戻った。


 少し格好つけて「行ってきます!」と言ったのに、戻るのは気まずいが仕方ない…


 冒険者ギルドに着くと、ギルド職員全員が「えっ…」って顔をしていた…


 恥ずかしかったが事情を説明すると、副マスが苦笑いしながら場所をいくつか教えてくれた。


 教えてもらってすぐにギルドを出た。恥ずかしかった事もあるがそれだけじゃない。


 まず向かったのは、最後に教えてもらった所だ。


 装備品の品質は良質で、副マスは王国一だと思っている装備屋だが、店主が偏屈で買う事が難しいお店だ。


 これだよ。これ。こういうのを待っていた。


 そこでなぜか店主に気に入られて、良い装備を安くで譲ってくれるテンプレじゃないの。とワクワクしながらも、もしかしたら引っ越ししてたりして…と不安も感じつつ、教えてもらった場所へ到着した。


 お店は開いていた。お店に入る前に息を整えてからお店に入った。


 アニメを実写化したら、こんな感じのドワーフらしき店主と、店員さんがいた。俺と同じか少し上くらいの綺麗な人だ。


 まずは元気に挨拶をした。普段そんな事をしないので、少し裏返ってしまったが、店主の反応は良い感じだ。


 事情を話そうとしたところで、店員さんから「出ていって下さい。あなたに売れる物はありません」と言われた。


 突然の事でビックリして、一瞬何を言われたのか分からなかった。


「またですか…良いじゃないですか。売ってあげたって、ポコポン亭の庭でこの子の剣術訓練を見た事があるんですけどなかなか良かったですよ」

「なに言ってるんですか?寝言は寝てから言って下さい。一人前の鍛冶師でもないのに…あなたに剣術のなにが分かるというのですか?」


 あれ?おかしいぞ…なんでだ?と頭のなかが混乱していた。


「また店主に見られなくて、怒っているんでしょう?」

「違いますっ!」

「やっぱりそうじゃないですか…今は丁寧に喋ることを心がけているのに声を粗げちゃって…」

「…違います。私はそんなの気にしません。(少ししか…)僕が売らない理由は剣です。こんな偽物の剣を使っている時点で、剣の腕なんて見る価値もありません」


 少ししか…は僕にしか聞こえてないくらい小さな声だった。ってそんな事はどうでもいい。


 ちょっと待って…この美人さんが店主なのか…?

 おかしいだろ?なんで?と状況は理解したが、現実を受け入れる事が出来なかった。


「そうなんですかい?見るからに高そうですけど…」

「はぁーっ…それだからあなたはダメなのですよ。もっと勉強なさい。それよりもザーザ、お客様がお帰りですよ」

「分かりやした。…すいやせん。今日は一旦帰って下さい」


 ザーザさんに軽く押されてお店から追い出された。


 副マスにしっかり聞いておけば…


 でも偏屈でと言われて、あの2人を見たら、普通にザーザさんが店主だと思うだろう…


 情弱と偏見の危うさを初めて身をもって経験した。

 教えてもらった他の装備屋さんは、引っ越しした後だった。


 買う物が無くなったので門に向かった。


 向かう前に魔法書を買うか悩んだ。

 俺のなかの天使と悪魔が戦った。

 天使は『今回の依頼に必要な物ではないので、買ったら横領になりますよ』

 悪魔は『買ったところでバレないさ。それになにも買わなかったら門で金貨を全部返す事になるぞ』


 結果的に天使に軍配が上がり、なにも買わずに向かった。


 門への渋滞はまだ続いていて、向かう途中、追い越すな!や順番守れ!等、怒鳴られた。


 少しイライラしていたので「ギルドからの依頼で、今から森へ偵察に行くんですけど、一緒に行きます?1週間程、森の中ですけど…」と少し大きな声で言うと、怒鳴った人や聞こえた人は一様に下を向いていた。


 答えが分かっている嫌な質問を一般人にするなんてと少し反省したが、これが一番効いたので、門に着くまで3回、同じ質問を大きな声でした。


 普段あまり人と喋らない為か喉を少し痛めた。


 門に到着すると、騎士がいたので軽く挨拶して、事情を話すと副マスは門の内部にいるらしく、そこまで案内してくれるそうだ。


 俺が素通りだった為か門の周りでも文句が出た。

 また言わなくてはいけないのか…と振り変えると、騎士が「少し待て」と言った後、振り返った。


「そうか。こいつは魔森に偵察に行ってくれるんだが…」

 文句がぴたっと止まった。

「そうか!お前達も偵察へ行ってくれるのか。沢山荷物を持っていたから勘違いしていた。悪い悪い…そういう事なら通っていいぞ!」


 明るい声だった。沈黙の後。


「その代わり森の方へ向かわなかったら、剣の錆か魔法の的、矢に刺される事になるから方向だけは間違えるなよ」


 さっきまでの明るい声が嘘かのように低い声で警告されていた。


 文句を言っていた男達は「すみません」「違います」「勘弁して下さい」と許しを求めていた。


「私を騙したのか。本来なら捕まえて鞭打ちするところだが、文句を言いたくなる気持ちも理解はできる。今回は特別に私達を手伝う事で許してやろう」


 どんな手伝いをさせるのか…防衛の手伝いならまだマシな方で、下手をすると討伐に参加させられて、肉壁になれと言われるかもしれない。


 さすがにこれはやり過ぎだと思ったし、俺に着いてこられても困るので止めようとした。

 男達は最悪の想像をしたのか真っ青になっていた。


「お前達そんな顔をするな。手伝ってもらうのは列の整理だ。終わったら通してやる。その代わりサボったりしたら分かっているよな?」


 男達は首を何度も縦に振った後お礼を言っていた。


 騎士が「後を頼む」と別の騎士に言って、俺の案内を再開した。

 そんなやり取りがあって、なんとも言えない気持ちになった…


 スカッとしたわけでもなく、かといって文句を言っていた人に同情した訳でもない…本当になんとも言えない気持ちだ。



 案内中に門の内部の事が気になったが、案内されている間は騎士との会話もなく、扉の前に着き、ノックした後に扉を開けると副マスがいた。


 会議室みたいな部屋に副マスとラージュさん、冒険者達も全員いてラージュさん以外、椅子に座っていた。


 騎士は他に仕事があるらしく離れていった。去り際「来た道を通って出ろよ。下手な事はするな」と忠告された。

 了承の返事とお礼を言って、副マスの方へ歩いた。


 ギルドを出た後の事を一通り話し、革袋を返した。


「そうですか…大変でしたね。シュリさんの事を伝える前に出ていかれたので心配していたのです。それに他のお店はいなくなってましたか…お役に立てなくて申し訳ありません。」

「いえいえ、僕が最後まで聞いていなかったので…それに教えてもらっていても、どちらにしろ買えなかったでしょうし、他のお店の事は副マスターに責任なんてありません」

「そう言ってもらえると助かります」


 そんな事もありますよね。みたいな悪くない雰囲気だったのに…


「俺達も買えなかったから、気にするな。まぁお前にはまだむ、ってー…なに踏んでんだよ。いてぇだろうがっ!」

「ラキっ!余計…あっすみません。どうぞ話を続けて下さい。(少しの間黙ってて)」

 ラキの右隣に座っている女冒険者が恥ずかしそうにしていた。

「なんでだよ!フォローしてやっただけじゃねーかよ!」

「副マスすみません。僕達少し席を外して良いですか?」


 ラキの左隣に座っていた男の冒険者が質問した。


 副マスが了承の返事をすると、ラキのパーティーの4人は出ていった。


 寸劇が終わった後、副マスが机の下にあった新たな次元カバンを机の上に置いた。


「ギルドには次元カバンが複数あるんですね」

「どちらも私の私物です。お貸ししている次元カバンは、友人の物だったカバンですけどね…」


 友人の事を思い出したのか、副マスは少しの間、動きが止まり顔を上に上げながら話してくれた。


「それ次元カバンなんですか?凄い!1つでも凄いのに、2つも持っているなんて、僕も手に入れたいです。どこで手にいれたんですか?」


 空気を読めない冒険者が質問した。

 なんか重くなりそうだったので、気づかない振りをしたのかもしれない。それなら空気を読める冒険者だな。


 まぁどちらにしろナイスだ。俺も手にいれたいので情報は欲しい。


「複数持っている人は少ないでしょうね。これは━━」


 有益な情報をもらっている間に、ラキのパーティーが帰ってきた。


 ラキ()の顔にもみじマークが出来ていたが、この場の全員その事に触れる者はいなかった。


「私のお古になりますがこちらを差し上げます。少し大きいかもしれませんが、動きやすいようにハーフ·ローブです。どうぞ」


 有益な情報が終わったので、それを話している間に、机の上に出して置いてあった黒色のハーフ·ローブを渡してくれた。


 天使のいう通りにしておいてよかった。

 返した金貨よりこれの方が確実に価値がある。


 なにしろA級の装備品だ。予備でとってあった物だと思うが確実に300万レールでは買えないだろう。


 このローブを机の上に出した後も、顔を見て話しを聞いていたが、頭の片隅でこうなる事を期待したのは仕方ない。


 お礼を言って着てみるとブカブカで、ハーフ·ローブなのに俺が着ると膝上くらいの長さがあった。


 なんともいえない雰囲気になった。

 長い袖を曲げながら辺りを見渡すが全員俺と目が合わない。


 ラキ()は下を向いて「ふっ。ハーフ·ローブなのに普通のローブになってるし…ふふっ」と呟いたので、こいつを捜索に連れて行こうと一瞬考えたが、ラキの両隣の冒険者に、足を踏まれて痛そうにしてたので許した。


 『仲間に感謝しろ!』と思いながらも、そんな仲間がいるラキが少し羨ましかった。


「…バックル(これ)も差し上げます」

 変な空気のなか、副マスが高そうなバックルをくれた。

 いたたまれなかったが、なんとかお礼を言い、バックルを着けた後、部屋から出た。


 出口に向かっている時、騎士の忠告(振り)をどうするかと一瞬考えたが、そんな場合じゃなかったので、普通に来た通りの道で門内部から出て、森に向けて出発した。


 なんでこう締まらないのか…と少し落ち込んでていたが、街の外へ出ると気持ちを引き締めた。

 お読み頂きありがとうございます。

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