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 ローズは思い悩んでいた。

 やはり王女の権利っていうのは、シュリさんの弟子になれるとしても、即決できるものではなかった。


 王女の権利がどんな権利かは知らないが…


『じゃと思ったわ』

『タヌは知っているのか?』

『詳しくは知らんが、王位継承権はなくなるんじゃないかのぉ』

『そんなのいるか?俺は貴族の継承も俺はゴメンだぞ』

『主はのぉ…だが主のように考える奴ばかりではないのじゃ』

『そうなのか。まぁ人は人だし』


「質問をいいですか?」

「なんだい?もしかして理由かな?」

「はい」

「そうだね。まずは王女や貴族が弟子だと、師匠の私が赴かなくはならない。それはかなり面倒くさい」


 マジかよ…あぁそうか、そういえばドルク師匠も家に来ていたな。


「それは馬車を…あぁそういうことですか…移動が面倒くさい訳じゃないんですね」

「正直それも面倒くさいけど、ローズが思っていることのせいだね」


 王都にいることがバレたら面倒くさいことになるって言っていたな…


「次に王位継承権がある状態で私の弟子になったら、きっと次代の王に推薦する奴が出てくるよ。そして下手すると国が割れる恐れがあるんだ」


 うわぁ…それは嫌だな…

 師匠が言うにはただでさえ魔族軍に押されている話だ。それなのに、人同士で争っている場合じゃないな。


『侯爵も争おうとしている主が言うことではない気がするんじゃが』

『お前までか…ベルジーナさえ解放さえしてくれればいいって』

『それが難しいんじゃが…これも主の経験を積むことにしておくかのぉ』


「そんな訳ないと言えないことが辛いですね」

「でしょ。最後にこれが一番の問題だけどね」


 固唾を飲んで聞いた。これは俺だけじゃなかっただろう。


「私の鍛冶をする時間がなくなるのが嫌なんだ」


 ……


 みんなポカンとしていた。


「国を二つに割ることよりも…ですか?」


 立ち直りが早かった俺がみんな疑問をぶつけた。


「当たり前だよ。国なんて割れる時は簡単に割れるし、なくなる時は普通になくなるよ。なにをやってもね」

「そうなんですね…」

「そうさ。ローズならわかってくれるでしょ?」

「おっしゃっていることはわかります。わかりますが…シュリさんの鍛冶をする時間に負けるとは思いませんでした…」

「なにを言っているんだ。私にとって鍛冶は子作りと同じさ。大切なことだろう?」


 シュリさんにとっては、熱い工房のなか作品を作るのは辛いのだろう。

 しかし、自分の作品を残すために、そしてその作品が人々の役立つように頑張っているんだ。


 子作りも結構キツイけど必要なことだからな。王侯貴族ならなおのことだ。


 陛下は女遊びがヒドく、女をとっかえひっかえしてると師匠が悪く言っていたが、王侯貴族にとっては大変なことだったんだな…


 陛下の好感度が上がった。


「そうですね。必要なことです。俺はシュリさんが言いたいことがわかりました。尊敬します」

「君がわかってくれるとは嬉しいよ」


 シュリさんと二人で盛り上がっていると、ツバキとローズ、ベルジーナからは軽蔑した目で見られていた。

 気のせいかもしれないがタヌとイレイスからも…


「ベルジーナは仕方ないところもあるが、ツバキとローズはいい大人だろ。もっとやれよ」


 ベルジーナはまだ子供だからな。


「はっ!?相手がいないのにどうやるのよ!?」

「そうやそうや」


 あぁ…ダメだな。

 困ってる人はこの世の中沢山いる。人の役に立つことなんていくらでもあるだろうに…


「相手がいなくても頑張れるだろう?なんなら俺が手伝ってやるよ。ツバキはやったことあるだろうが、ローズは初めてだろうしな」

「なっ!?」


 二人は驚愕していた。

 ベルジーナは子供だと思っていることがバレたのか、うんこみたいな汚物を見る目をしていた。


「うちもやったことあらへん…」


 ツバキのこんな姿は珍しく、顔を赤くしてか細い声だった。


 そうなのか…意外だな。結構ツバキって面倒見が良さそうだったが…


「恥ずかしがることはない。誰にでも初めてはあるさ。良いことなんだ。どんどんやっていこう。ねっ、シュリさん」

「多分勘違いしてると思うけど、私に振らないでほしいかな」


 なにを勘違いしていると言うんだ。


「そういうことか…そうやな。カイはんさっきの発言を後悔する日ぃくんで」

「どういうことだ?」

「まぁええわ。カイはんトイレ行きたいんと違う?」


 どうだろう?まぁ出ていってくれってことか…


「あぁ、ちょっと行ってくるよ」

「ゆっくりでええよ」

「わかったよ」


 トイレをいくために部屋の扉を開けたら、もう日が完全に落ちていた。


「ローズ。時間は大丈夫なのか?外真っ暗だぞ」

「えっ!?もうこんな時間か…どうやって帰ろう…」

「俺が送っていこうか?」

「嫌よ。なにされるかわからないわ」

「俺がローズになにもするわけないだろう?」


 俺がなにをするんだよ?

 なんかあったら極刑だろ?せっかく危機を脱したのになんかするわけないだろう。


(それはそれでムカつくわ)※小声


 じゃあどうすればいいんだよ?


「それならうちも一緒に行くわ。いろいろ説明したいしな。ベルはあとで説明するさかい、カイはんにそないな顔をしいひん」


 ベルジーナひどくないか?

 俺はベルジーナにあんな顔をされるようなことをしたか?

 心当たりは…あっ!ローズの裸体しかない。

 なにかミスってバレたか…


 ヤバイな…どうする?正直に自分から話すか…

『そのことは心配しなくても大丈夫じゃ』

『本当か?じゃあなんであんな目をされる?』

『それはのぉ…主が思ったとおり子供扱いしたからじゃ。あの年頃はそういうの嫌いじゃろ?主もそうじゃなかったか?』

『確かに…ありがとうタヌ。危うかったよ』

『いいのじゃ』


 それから部屋を出て、一応師匠とセバスに声をかけた。

 するとセバスは馬車を用意してくれた。

 しかし、シュリさんの馬車ではなく普通の馬車だった。


 まぁ王族よりも良い馬車を、王族に見せるのは面倒くさいことになるのは目に見えて明らかだ。

 しかしローズには見せてもいいと少し思っていた。


 そう思っていたが、ただ単純に義母上達が使っているだけだった。


 御者はセバスがやってくれたが俺も御者台にいた。


 ツバキが二人で話したいと言われていたので、御者台でセバスと嫌味合戦をしながら、王城近くまで無事に到着した。

 これから秘密の通路を使って帰るらしい。


 ツバキ達の声は客席につけてある防音の魔道具のせいで聞こえなかった。


 別れ際のローズの笑顔が少し怖かった。

 馬車に乗る前はどこかギクシャクしていたのに、笑顔でお別れなんて、馬車の中でなにかあったとしか思えなかった。


 ローズと別れた後、


「セバス帰りも御者を任せたぞ」

「かしこまりました」


 ツバキもしれっと御者台の方に行こうとしていた。


「ツバキどこに行こうとしているんだ?ツバキはこっちだろう」

「いやぁ、セバスはんばっかりに任せるのも悪い思て、うち平民やさかい」

「セバスに任せても大丈夫だよ。ねぇセバス?」

「はい。遠慮せずに客席に座ってください」

「ほら行くぞ」


 御者を引き続きセバスに任せ、ツバキと一緒に客席に入った。


「さて、馬車の中でどんな話をしていたんだ?」

「女同士の秘密もあるさかい、全部は勘弁しなはれ」


 それもそうだな…


「そうか…それならこれだけは聞きたい」

「なんや?」

「ローズはシュリさんの弟子の件は話したか?」

「したわぁ。なんかローズ自身は別にええんやけど、周りの許しが得られるかがわからへんねんって…」


 あぁ…なるほどな。

 ローズが悩んでいたのはそっちかぁ…


「それは俺達が手伝えそうもないな」

「そうやね。でも愚痴くらいは聞いてあげられる。カイはんもそれくらいはしたってな」

「そうだな」


 ローズの話をした後。


「それにしてもさすがはツバキだな。ローズと友達になれるなんて…」

「そうかぁ?」


 いつものように雑談をしながら屋敷へ帰った。


 俺達が帰ってくるころには、エルザ達も帰ってきていた。

 二人の患者は無事に治療できたようだ。


 それから屋敷にいる全員で夕食をとった。

 ベルジーナはもちろん、セバスやメイドも含めての夕食だった。

 セバスやメイド達は、はじめは恐縮して固辞していたが、シュリさんの鶴の一言で諦めて一緒に食べていた。


「ベルは食べ方も綺麗だね」

「はい。私もそう思います。魔族領ではお家柄が良かったのかしら?」


 義母上が褒めるなんて珍しいな。

 俺にはよくわからないな。もちろん綺麗だとは思うけど、義母上が褒める綺麗さの違いはわからない。


「いえ、その様な事実はございません。皆様もお綺麗だと存じます」

「ドルク師匠もか?別に汚くはないが、とてもじゃないが綺麗とは…」


 見ようによっては美味しそうに食べるのだが…

 ほとんど一口で食べてしまうし、あわせて食べる料理も別々に食べるし…


「うるせぇ!別にいいだろ。迷惑かけてるわけじゃないんだし」

「はい。その通りだと思われます。お食事のマナーはお相手の方がご不快を感じなければそれで良いのです」

「そうだよな」


 確かに俺もそう思いながら、子供の頃は暮らしていたな…


「スカイ、あなたが言った意味と、ベルちゃんの言っている意味は違うのよ」


 同じだろう?と思ったが、返事だけは肯定しておいた。


 というかベルちゃんだと!?いつの間に仲良くなったんだ。

 

「本当にわかっているのかしら…」

「はい。わかっています!…なんで師匠は大丈夫なんだ?」

「はい。皆様の様子を拝見するところ、剣聖様のお食事のしかたをご不快に思ってらしゃるお方は、いらっしゃっらないように存じます」


 それは諦めただけじゃないのか…


「そうだよな!魔族と言っていたから少し警戒していたが、ベルお前は良いやつだな。ガハハ。スカイわかっていないんだよ」


 イラッとしたし、反論材料はあるが、俺は大人になるので我慢した。


 師匠まで愛称呼びだと…


「義母上や師匠はもう愛称で呼んでいるんですね?」

「あぁ、この子からそう呼んでほしいとお願いされたのよ」

「俺もそうだぞ」

「カイ様。私もです」


 師匠達だけじゃなくエルザも同じだった。

 あろうことかメイド達までうなずいていた。

 なっ!俺は言われていないぞ…


「ベルジーナ。俺もベルって呼んでいい?」

「あまりそうお呼びされたくございませんが、どうしてもとおっしゃるのであれば、問題はございません」


 問題しかないだろ…


「あぁ…わかった。これからもベルジーナって呼ぶよ」

「ありがとうございます」


 師匠は爆笑し、エルザ以外の他の皆も含み笑いをしていた。

 エルザは怪訝(けげん)そうな顔をしながらベルジーナを見ていた。


 ただ俺のことが好きだからと言って、そんな顔をしなくてもいいんだよ。

 子供の言うことだからな。


 それにしても悲しいな…嫌われるようなことをしたかな?

 頭ポンポンくらいしか心当たりがないぞ…未遂だし…


 しかし、俺にはエルザがいるからな。

 

『妾もおるぞ』

『私も』

『そうだな。タヌ、イレイスお前達もいたな』


 なんかウェブかテレビで友達なんか一人いれば上等って誰かが言っていたな。

 俺には三人?もいるんだ。幸せ者だ。


『いや主。妾達全員友達ではないと思うがのぉ』

『なっ!?』


 そう言われればそうだった…


 悲しい気持ちで食べるご飯は美味しくないな…と思いながら夕食を食べていた。

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