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「わっ!なんだ?どうしたんだ?シュリさん、ローズ、ベルジーナみんな無事ですか?」
全力で見てないことにした。それしか生きる手段がない。
だが問題は解決していない…
『マスター。私が押さえようか?』
『頼む。今すぐ頼む』
『でもやると…』
『いいから今すぐ頼む』
『わかった』
問題はイレイスがなんとか抑えてくれた。
これで大丈夫なはず。
黒い霧が晴れると、ローズはちゃんと服を着ていた。
「カイ…本当に見てないのか?」
ローズが伏し目がちに俺に聞いていた。
そんなふうにしたら、見えてなくてもなにかあったと思うだろうが…
ここで馬鹿な主人公なら、見たであろう発言をするのだが、俺はそんなヘマをしない。
「なにを見るんだ?」
見ていなかったら、俺がするような言葉少なく発言をする。
後は思いこみだ。
俺は見てない。俺は見てない。俺は見てない。
そうすることで、脳が本当に見てないんじゃないかと勘違いさせる。
鍛錬や戦いをするときに思いこみは大事だからな。
まだやれると本気で思いこむことで、本当にやれるからな。もちろんやれないことももちろんあるけど…
ただこの場面は、なにがなんでもやらないといけない。
「本当だろうな?」
「だからなにを見るんだ?」
「そうか。なんでもない。忘れてくれ」
「なんだ?ローズがそんなふうに言うと、逆に気になるな。なにがあったんだ?」
「なんでもないと言ってるだろう!気になるな!いいな!?」
「ローズがそこまで言うならもう聞かないけど…」
気になるが、聞かない方がよさそうだ感をだした。
どうだ!これでわからないだろう。
「お師匠様。どう思われますか?」
「うーん…グレーかな?」
「意外です。わたくしは白だと愚考したんですけど…」
「スカイは目が異常にいいからね。剣聖との立ち合いを見る限りね。それと…いやこの話はやめよう…とにかく彼は頭がアレだからね。裸体を見てなんとも思わないってこともあり得るんだ」
シュリさんとベルジーナがこんな話を、小声で話していた。
頭があれって俺がなにをしたって言うんだっ!?
裸体を見てなんとも思わないわけないだろ!?
普通に気まずいし、極刑になるかもしれないんだぞ!!
『それを言っている訳でもないと思うんじゃが…』
『どういうことだ?』
『なんでもない…気にせんでよい』
気になるな…いや今はそれどころじゃないからな。
シュリさんがあんな根も葉もない話をしたから、ベルジーナがなにやら考えていた。
「そうなのですね…なぜだかわたくしも怪しいと思いなおしてまいりました。お師匠様がおっしゃる通りグレーですね」
おーいっ!どこがグレーなんだ。
あの受け答えは完全に白だろ!
『ブラックじゃ。完全無欠の黒。真っ黒じゃ!』
『うるさい!タヌは知っているからだ。それに俺が不敬罪になって死んでもいいのか!?』
『…しょうがないの。妾も白だと思いこもう…』
よし。シュリさんとベルジーナの二人は気にしない。
ローズさえ納得できればあとは些事だ。ミッション続行だ。
シュリさん達がコソコソ話している間、俺は考える振りをしていた。
俺はなにかわからなかったら、予想くらいはするだろう。このまま引き下がるのは俺らしくない。
「あっ!わかったぞ。魔法を失敗したんだろう?」
そして見当違いのことを言う。
ローズは勘違いさせたいだろうから、これに乗っかるはずだ。
「ちが…そうだ!恥ずかしかったから隠したかったんだ」
おいローズ、最初正直に言おうとしただろ…
まぁいい。聞かなかったことにしておこう。
「やっぱりな。俺も魔法失敗した時は恥ずかしかったからな。恥ずかしがる気持ちはわかるよ」
「分かってくれるか…」
「あぁ、わかるとも。それにこの話はやめよう。傷のなめ合いをしても意味がないよ」
「そうだな。そうしよう」
「それでシュリさん。ローズの魔法の適性ってどうだったんですか?」
そして自然に話を変える。
よしっ!ミッションコンプリート!!
…いやまだだ。小説やアニメ、ドラマでは、話が終わったと見せかけてバレている話もあった。
気を抜かないようにしよう
「あぁ、そうだね。ローズは私と似たタイプだったよ」
「凄いじゃないかローズ。シュリさんと同じだなんて羨ましいよ」
普通に称賛したのに、ローズはあまり嬉しそうじゃなかった。
「なんの話してんの?」
ツバキが部屋に入ってきた。
「シュリさんにローズの魔法適性聞いたら、シュリさんと同じタイプで羨ましいって言っていたんだ」
「そうなんや。良かったなぁ…ってどうしたん?」
やっぱり嬉しそうじゃない。なんでだ?
「いや、私と似たタイプってあまり良いとは言えないんだ。人間だと特にね」
「どういうことですか?」
「私はなんでもできるが、逆になんにもできないとも言えるんだ。そうだねぇ…」
シュリさんが説明してくれた。
話を簡単にするとシュリさんは尖った能力がないため、剣術ではドルク師匠に、攻撃魔法では俺の亡き父上に、回復魔法では義母上にかなり年下でも負けるそうだ。
超一流になれても、一番にはなれないらしい。
シュリさんは長い年月のおかげで、超一流にはなれたが、ローズには難しいということ。
「ハハハっ!馬鹿らしいな」
話が終わった後笑った。
「カイはん。笑うなんて見損なったわ」
ローズは更に悲しみ、ベルジーナは虫を見る目をしていた。シュリさんは興味深そうに俺を見ている。
「なんでだ?」
「ローズがしょぼくれてるのに笑うて、馬鹿にしはるなんてえげつない思わへんの?」
「思わない。なんで落ち込む必要があるのかがわからない。それなのに落ち込むなんて馬鹿だろう?」
「落ち込む必要があらへんなんてどういうこと?」
「落ち込む必要なんてないだろ。ローズはどうなりたいんだ?なにが好きなんだ?なんにでもなれるなんて贅沢だろ」
「どこが贅沢なんだ?お前には剣の才能があるからそんなことを言えるんだ」
その発言に本気でイラついた。
「はっ?お前俺をなめてるだろう?」
突然の態度にシュリさん以外はポカンとしていた。
「俺が今になるまで、どれだけの訓練や実戦をしてきたと思っている?ローズの立場だと実戦は難しいだろうが…俺よりも剣の訓練をした自信があるか?」
「ある…あるぞ。私なりに五年間、ほとんど毎日剣術指導をしてもらいながら訓練をしてきた」
「へぇ…凄いな。俺はそこまでやってない。謝らないといけないかもな。それが本当の話ならな」
それが本当なら、俺の発言は失礼だったかもしれない。ローズには剣の才能がないのだろう…
そんなことはあり得ないと思うけどな…
「本当の話だ。私はやってきた」
「そうなのか…ちなみにどんな稽古なんだ?」
「そうだな。まずは━━」
ローズは自分がやってきた訓練内容を話した。
「私はこれくらい頑張ったんだ」
「ふん…それのどこが訓練なんだ?」
「なんだと!?私の努力を馬鹿にするのかっ!」
「馬鹿にするよ。冗談なら笑ってやるぜ」
ローズだしな。愛想笑いくらいはしてやる。
「貴様…」
「ローズ。ムカつくのもわかる。でもなカイはんが馬鹿にすんのもわかんねん」
「ツバキまで…どうして?」
「ローズ言うた訓練のほとんどは、ドルク師匠のとこやと訓練に入らへんんよ」
ローズが言ったほとんどの訓練は、訓練じゃなくてただの日課だ。
ランニングや素振りなんて日課だろう。
「なん…だと?」
「唯一、入るのは立ち合いくらいや。立ち合いは訓練やな。ローズがいうそれ以外の訓練はカイはん、暇があれば毎日やってはらるで。あぁ絶対安静の時はやめてはったけどな」
「お前達の言う訓練とはどんなものなんだ?」
「そうだな。うーん説明が難しいな…ツバキ説明できるか?言葉たけじゃ伝わるかわからないしな」
「うちにも難しいわ。口で設置しても簡単や思われそうやわ」
師匠の訓練は特殊なんだよな…
というか俺は訓練の話をしたいわけじゃない
「訓練を知りたければ明日来ればわかる。それよりローズ。俺より訓練していないローズが、俺より強くならないのは才能か?」
「それは…」
「それにだ。剣術は訓練すれば誰でも強くなる。早い遅いはあるけどな。だが魔法の才能はどうにもできないだろう?俺は少し特殊だが、魔法の才能はないらしいからな…素直に羨ましいよ」
イレイスに肩代わりしてもらえるため出来ないこともない。
しかし、イレイスとは一心同体といっても、それは自分が魔法を使っている感じがしない。
「馬鹿な…あり得るのか、魔聖の息子が魔法適性がないなんて…」
「現に存在するからあり得るんだろう。適性ないと言っても中級以上がないらしい」
「その分、剣術や隠密能力、低級雷魔術とかは凄く才能があるんだ。君は本当に謎の存在だよ。謎の魔法適正もあるみたいだしね」
謎の存在って…俺はUMAか?
「まるで一人で行動するために作られたみたいだ」
そんな風に俺を作ったやつは誰だ?神なのか!?
今さらボッチの時期に戻りたくないぞ!例えそれが神の意志でもな。
「一応俺は魔術師を目指していたからな。素直に羨ましいよ。才能がないわけではないんだろう?それなら自分がやりたいようにすればいい」
「そうなのかもな…」
「それにローズの一つの完成形がいるじゃないか、イバラの道かもしれないが、シュリさんを目指すのも悪くないと思う」
「私になれるかな…」
「そんなじゃ無理だな。生半可な覚悟じゃ中途半端になるだけだ。なれるかなじゃない。なるんだ。目指したいのであれば言葉だけでも自信を持て」
何度でもいうが思い込むことが大切だ。
「それにシュリさんに教えを請えれば、少しはイバラのトゲが減ったり、楽しい歩き方がわかるかもな」
「はっ、あ、あのシュリさん。私を弟子にして下さい。お願いします」
ローズはシュリさんに頭を下げた。
王族は謝ることはあっても、頭を下げることは家族以外あまりない。
「この状況で断ることは難しいかな。ただ条件がある」
「なんですか?私にできることならなんでもやります」
「王女の権利を放棄すること。もし難しいなら弟子も諦めてくれ」
王女の権利を捨てろとは、なかなか厳しいのではないだろうか…
この場の者、全員がローズの答えを待っていた。




