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目が覚めるとまだ明るかった。夕方くらいだ。
まさかまた日付が変わったのか?
『一時間三分八秒寝てた』
『イレイス愛してる』
『なんで?…なるほど。でもたまたま』
『そうだな。たまたまだ』
元の世界の英語圏での話を思い出しながら、軽く身じたくを整えて、師匠のもとへ向かった。
さすがに弟子候補は帰っているだろう。
とかいってまだ走っていたり、稽古をつけてもらっているかもな…
と、少しの期待をもって庭に出たが、そこには誰もいなかった。
だよな…俺が見たときでも、必死に走っていたからな。
あれから三時間以上もたつしな。さすがに無理か…
それから師匠を探したら、裏庭でツバキに稽古をつけていた。
セバスがいなかったので、ローズは帰ったのだろう。
「ツバキそれまでだ!」
師匠が俺に気づいたので、稽古を中断した。
「お疲れさまです。それと、弟子の件ありがとうございました」
「あぁ、別にたいしたことはしとらん。走らせただけだ」
「どうでしたか?」
「根性はあるようだが…剣術の方は見れなかったからわからんな。明日また来るように言った」
そりゃあ、あの様子を見る限り、剣を握る体力もなかっただろう。
「根性はあったんですね。良かったじゃないですか。剣の才能があるといいですね」
「お前の弟子候補だろう。なんで他人事なんだ?」
「えっ…他人事ですよ」
「はっ!?そんな訳にはいかないだろっ!」
「いやぁ…俺はまだ弟子をとれるほど、強くありませんよ。師匠には勝てませんし」
「じゃあ、王都や他にいる町で剣術指南している奴らはどうなるんだ?俺に勝てたことないぞ」
「うーん。身の程知らずか、詐欺師ですかね」
「はぁ…なかにはそんな奴もいるだろうが、多くの者はきちんと教えているに決まっているだろうが…」
剣術指南してもらった時は、レベルが低かったからやめたが、指導はしっかりしていたように思えた。
「冗談ですよ」
「はっ!お前の冗談は面白くないな。冗談のような奴なのに」
「なんですか!?冗談のような存在って!?」
「俺には一歩いや二歩…いや三歩か…」
師匠がなにやら考えていた。
「何歩でもええんちゃいますか?」
「そうだな。俺には及ばないが、お前の年でその強さは冗談だろうがっ!」
師匠はきっと、リミット解除の時の刀術を参考にしているんだろう。
素だと俺の予想じゃ七歩くらいかな…
『そんなところじゃろ』
『そうだよな…だが背中までもうすぐだな』
『ここからが大変じゃがな。もうすぐかどうかは主次第じゃな』
『わかってるって』
「そうですかね?周りを見ると強い人ばかりなので、自分があまり強いとは思ってないんですよ。師匠もですけど、シュリさんとかヴォルさんとか…」
三人とも今の俺より確実に強い。
強さの自信がないのは、それもあるが、一番はタヌに勝てないことだ。
何度かタヌを顕現して勝負をした。そして一度も勝ててない。
見た目が五歳の幼女に刀術で負けた。
とてもじゃないが、自分を強いとは思わない。
『精進するがよい』
『はーい』
『返事は短くせい』
『はっ』
『…まぁよい。主に説教するのも疲れるだけじゃ。精進はするだろうしな…』
「なんで比べる相手がそこなんだよ…お前より長い時間生きて、長い時間戦っているんだぞ。当たり前だろ」
それはそうなのかもしれない…
師匠があきれていた。
「大人をあまりなめるなよ」
しかし最後に威圧感を出した。
こっわっ!義母上と違う怖さだ。だが…
「当たり前じゃないですし、なめてもいませんよ。長く生きていようが、それが敵なら勝たないと、勝つのが難しくても気持ちくらいはないとダメでしょう」
口答えをした。
そんな当たり前を俺に押しつけないでほしい。
「なっ!?」
「師匠は敵…例えば魔族が敵として現れた時、師匠は諦めるんですか?そんな訳ありません。でも魔族って長生きなので、師匠よりは長く生きていますよ」
師匠はなにやら考えながら聞いてくれた。
「…そうだな。当たり前ではなかったな…それにお前は変わらないな。まぁいい」
「俺も成長してますよ」
「そうか?背丈はあまり変わらないだろう?」
師匠まで俺をディスるのか…
まぁ気にしないようにしよう。
「変わってますよ。老眼には早くないですか?まさか!?頭の病気に…」
「なってないわっ!俺はまだまだ元気だ」
「元気なら良かったです。ということで弟子の件お願いします。師匠が面倒みるもみないもご自由にしてください」
俺には弟子をとる意味がない。
「それとこれとは話が別だ。お前が面倒を見ろ。師匠命令だ」
なんて横暴なんだ。本当に頭の病気が…
「…なんだその目は?言いたいことがあれば言え」
「ではお言葉に甘えて…嫌です。命令を拒否します」
嫌なものは嫌だと言うべきだ。それが師匠でも…
『それは間違ってはいないがの…』
『なんか残念』
「いいからやれ!」
「嫌です」
「ワガママを言うな!」
「ワガママじゃありません。師匠こそ横暴ですよ」
「なんだとっ!」
これもうちょっとでキレるな…
でも弟子は嫌だしな…というかこんなふうに弟子にしても、俺もその弟子もいいことないだろう。
「ちょい待ちいな。ドルク師匠とカイはん。ドルク師匠に確認ええどすか?」
「なんだっ!」
「剣術の才能もわからへんのに、カイはんに絶対弟子にしろって言うてる訳とちがうんどすなぁ?」
「そうだぞ。コイツの弟子になりたいって来たんだ。それをコイツは自分で見もしないで、俺に任せっきりはダメだろ」
面倒ってそっちのかよ。なんだ見るだけ見ろって話なのか…
「それなら早く言ってくださいよ。師匠の言い方はなにがなんでも弟子にしろって聞こえましたよ」
「うちも始めはそう聞こえた。そやけどドルク師匠はそないな横暴な真似を、しいひん思て言うてみたんどす」
「ツバキは凄いな。俺は真面目に師匠と他の弟子の心配をしたよ」
「そんなことあらへんで。一ヶ月以上一緒におるわけやしね」
「三年以上いた奴もいるがな。俺をなんだと思っているんだ?」
師匠がジトッと俺を見てる。
いや師匠…自分の胸に手を当てればわかるんじゃないですか?
まぁ今度こそ喧嘩になりそうだから言わないけど…
「なんだ?言いたいことがあるなら言ってみろって言ったよな」
こういう時には気づくんだよな…
「だからツバキは凄いなって話ですよ」
「そんなことあらへんで」
「そう謙遜するな。ツバキ。お前はいろんなことによく気づく。そしてスカイ。お前は俺の背中を見ているが、後ろにツバキがいることを忘れるな」
忘れるわけないじゃん。
「うかうかしていると抜かれてしまうぞ」
「いいんじゃないですか?確かに悔しいですけど、信頼する仲間が強くなるなら良いことですよ。まぁ簡単には抜かされませんし、逆に差を広げるけどね」
実際負けたら、悔しくて泣いて眠れない夜を過ごすかもしれないが、
「これ以上、差を広げられてたまるか」
「そうだな。二十年くらい頑張れば俺にも勝てるかもな」
「そんなリアルな数字をだすなや。どうせ言うんやったら、百年とかのほうがマシや」
「いやいや、百年経ったら剣は握れないだろう?」
「だから、なんでマジで返してるんや」
「俺はいつだってマジだからだ」
「はぁーっ…しょうもな。もうええどす」
ツバキと言い合いしている間、師匠はなにやら考えていた。
「そうか…そうだな」
ツバキとの言い合いが終わった頃、この一言を残し、師匠は屋敷に入っていった。
「ツバキそれにしてもよくわかったな?」
「そうやね…ドルク師匠は口足らずのとこあるさかい」
「そうだよな。って師匠の話はもういいか。師匠いないし…それでローズとの立ち合いはどうだった?」
「あぁ、勝ったわぁ。当然やろ」
「そうだよな。ローズ弱かったよな?」
「そんなことあらへん。剣術はカイはんに会う前のうちくらいやったわ」
「そうかぁ?もっと強かった気がするけど…」
「そんだけ、カイはんが強おなった証拠と違う」
「そうかもな…そうだと嬉しいな」
急激に伸びたのは、間違いなく義母上の治療とタヌ、イレイスの鍛錬のおかげだな。
『そうじゃの。妾が教えてやってるのじゃ。当然じゃな』
『そうだな。ありがとうな』
『…なんじゃ?熱でもあるのか?』
『大丈夫。熱ない』
『タヌには感謝が必要ないことがわかった。イレイスいつもありがとうな』
『どういたしまして』
『安心せい。妾はいつでも感謝を受けとるぞ』
タヌは無視することにした。
頭がうるさくなったが気にしない。
「久しぶりに手合わせするか?」
「いや今日はやめとくわ」
「そうか。疲れたか?」
「ちょびっとな。ただそれだけとちゃうで。ローズの様子を見に行こか思てる」
「えっ?ローズって帰った訳じゃないの?もしかして王城にお呼ばれされのか?」
「ちゃうで、うちがそんなところ行くわけないやろ。ローズはシュリはんのとこにおるよ」
「なんで?」
「なんか魔法の才能もあるみたいでな、シュリはんに見てもらっとるよ」
いいなぁ…俺自身には魔法の才能なかったからな…
気になったので、俺も見に行くことにした。
シュリさんがいる場所を途中まで案内してもらった。ツバキは途中で別れた。あとで来ると言っていたので、トイレにでも行ったのだろう。
ノックをして、返事が返ってきたので扉を開けた。
「ツバ…キヤーっ!!」「ブラックフォグ」
ローズの悲鳴と共に、ベルジーナが魔法をかけてきた。
低級闇デバフ魔法の『ブラックフォグ』で目くらましに使うものだ。
しかし、高性能の目はローズの裸体を確認できてしまった…
意外に…って感想はいいか。
あぁ…俺死ぬかもかな…
王女のそんな姿を見れば普通に不敬罪だろ。
だというのに、俺のアソコは元気になりそうになっていた。
やめろ!見えてないことにできないじゃないかっ!
小説やアニメではこの状況わラッキースケベというが、これのどこがラッキーなんだ。
あれは見られた相手が気になる相手だから成り立つんだ。
普通に人から裸を見られたら嫌悪感しかわかないだろう。
それから好きになることなんて、ある方が不思議だ。
それに相手が王女なら命の危険しかないじゃないかっ!
なんとか精神で抑えようと頑張っていた。
※冒頭のイレイスの愛しているのくだりは一と八が逆です。
本来は八(letters)三(words)一(meaning)で愛している(I love you)です。
私も勘違いしていて少しだけ恥ずかしい思いをしたことがあるので、なんとなくいれました。
個人的には逆でも別によくねと思ったりもします。
ストックが無くなってしまったので、更新が少し遅くなりますが、これからもお読みいただければ嬉しいです。
ブックマークや評価、本当にありがとうございます。励みになります。
まだの方は気が向いたらお願いします。
あと感想もお待ちしております。
最後に本格的に寒くなってきたので、お体をご自愛ください。




