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「父上の時に死んだということは二年前か…」


 まだそんなにたっていないな。


「そうだね。彼はこの前の君と似たようなもので、自分の生まれに誇りを持っていて、命令違反をしたらしいよ。彼は生まれだけど君は能力に誇りを持っていたってだけの違いだね」


 セバスのいうことを聞かなかったやつか…


「それが原因で優秀な上官や隊員がそれをカバーしようとした。けれどもカバーできず結局部隊は全滅したらしい」


 俺がやったことはそんなゴミと同じなのか?


「たらればだけど、もしもその部隊が生きていれば、私の弟子であり君の父でもあるあの男が死ぬことがなかったかもしれない。それほど優秀な部隊だったんだ」


 義母上とシュリさんはこのことを知っていたから、説教にも熱が入っていたし、シュリさんは師匠の援軍を許さなかったのかもしれないな。


「もっと反省します」

「そうだね。それがいい。自分の能力に自信があることはいいことだけど、あの時は君がオマケの立場だった。君の場合は実力が高いし、実際にバレなかった。しかし、自信のある能力以外で危険になることもある。今回みたいにね」


 意識を失ったことか…


「はい」

「まぁ君は何度も言わなくても、私達が言いたいことを理解してくれると信じているよ」

「はい。ありがとうございます」


「あぁ…話がそれたね。それでベルはその時、魔族領にいたみたいだ」

「えっ?なんでわかったんですか?」

「記憶を探る魔道具を使ったんだ。もちろんベルに許可をもらってね。あの時は幸せそうに暮らしていたよ」

「そんな凄いものが…」

「そうかな。使った人の記憶を追体験するもなんだ」


 凄すぎるだろう…


「ただこの魔道具は欠陥品で私にしか使えない。それに本人の抵抗が強いと見られない。ほら無実だったとしても、記憶を見られるのは嫌だろう?」

「そうですね…いい気分はしません」

「だろう?ベルはそれを受け入れただけで信用できるよ。実際に問題はなかったしね。私はそんな簡単に人を信用しないよ。裏取りもするしね」


 シュリさんにもいろいろあったんだろうな。人を簡単に信用できないことが…


「そうですね。少し考えすぎたみたいです」

「君の心配は嬉しかったよ」

「なにかあってもシュリさんならとも思ったんですけど…出過ぎた真似をしたみたいです」

「その気持ちがありがたいよ。そしてそれは君にもいえることだ。君の能力を疑ったわけではなく、ただ私達は心配しただけさ」

「あぁ、なるほどこういう気持ちで…」

「マリンはわかりにくいし、誤解されやすいからね。わざとやっているのかもしれないけど…」

「そうですね。義母上は気持ちを隠すのがお上手ですから…」


「…って、また話がそれたね。ベルの記憶を探ったけど、本当にただの被害者だよ。あれから一年後に奴隷狩りに家族を殺され、奴隷になってからは…うん。君に話すことじゃないかな。君のやることが大きくなりそうだから」


 へぇ…それほどひどい目にあったのか…

 そうか…魔族は犯罪奴隷と同じ扱いだから…


「あぁ…これも言わない方がよかったかな。君がどんなふうに考えたかは知らない。でもそれは所詮、君の想像だよ。やられたこと以上を想像しているのかもしれないよ」

「…それなら逆もあるのでは?」

「そうだね。だから確定情報じゃないのに、想像に任せて行動することはやめることだ。目が曇るよ」


 そうだな。目が曇るのは困る。


「…そうですね。でも俺が見たことは事実なので、それ以上のことは想像しません」

「そうだね…私は穏便にすすむことを祈っているよ。君がことを大きくしても、ベルはおろか喜ぶ人はいないよ。君は気持ちいいのかもしれないけどね」

「いやいや、俺はそんなんじゃないですよ」

「そうか。それならその言葉を信じるよ」

「はい。ベルジーナのことがわかってよかったです。ありがとうございます。義母上の方も気になるのでちょっと行ってきますね」

「あぁ、ベルのことは任せていっておいで」


 返事をして部屋から出た。


 うげぇ…気持ち悪いな。ただでさえ、魔力が無くなったり、新記録のお説教とかいろいろあって体調悪いのに勘弁してほしい。


 いくつ離れているんだよ。俺の年くらい離れているんだぞ。

 王族って本当に大変なんだな。

 ローズに同情した。


 それも気持ち悪いが、侯爵はもっと気持ち悪い。


 自分の息子が戦場で死んだ。

 そんなのはありふれた話だ。町にいけばそんな人はいくらでもいるだろう。

 そしてそれで魔族を恨むのもいい。


 しかし、関係ない無害な子供を害する意味がわからない。それが魔族でもだ。

 俺が魔族なのかもしれないけれど、そんなことに意味はないと思う。

 それを侯爵は…どんな目にあわせたのかは知らないけど、確実に暴力は振るっていただろう。

 ベルジーナの最初に会った時の体の様子では、それ以上のことをしていたのは…


 ダメだ。こんな想像はなんの意味がないな。


 しかし、奴隷を持つことがデメリットになるにも関わらず、無害な魔族を奴隷にした。

 それだけ憎んで、関係のない子供を痛めつける…


 そんなことが実際にできる侯爵の性格に吐き気がした。



 それから義母上のところへ向かった。

 今の俺にはエルザの癒しが必要だ。


 その際に師匠の様子もついでに見ると、耐久マラソンをさせていた。

 あと一人しか残っていなかった。ふらつきながらも頑張っていた。

 景観な庭にあわない風景だった。

 


 エルザ達のところへ行くと、治療や診てもらいたい人達は三人しかいなかった。

 我が家のメイドの方が多い。


 なぜか部屋は沈黙していた。


 朝はあれだけいたのにえらく少なくなったものだ…


 エルザに状況を聞くとこんなことがあったらしい。


「こんにちは。私はマリアンヌと言います。世間では悪魔や守銭奴といわれていますが医者です」


 こんな感じの自己紹介をした後…


「お願いします。うちの息子を助けてください」

「うちの娘を…」「うちのおかぁを…」「うちの…」


 助けてくださいの大合唱がしばらく続いたらしい。


「はい。あなた達の言っていることが本当か、患者や財産状況を確認した後にね。名前と患者の名前、財産を隠さずに書いてください。文字が書けない者は代筆させます」


 こんなことを言うと、名前を書かずに文句と悪口を残して大半が出ていったらしい。

 人の命をなんだと思っているんだ。やっぱり守銭奴だった、悪魔だったなどだ。


 全く義母上はひどいな。


 俺や義兄上達が文句や悪口を言ったら、ひどい目にあうことは容易に想像できるのに、その人達は無罪放免だなんて…義母上は平民に優しすぎる。


『そっちなの?』

『イレイスどういうこと?』

『マスターの義母がひどいって話じゃないの?』

『うん。だからそう言ったよね』

『そうじゃなくて…』

『イレイスよ。妾が説明してやるからよく聞くのじゃ』


 タヌの説明によると、イレイスは俺達兄弟じゃなくて、来た人に対して義母上がひどいと思ったらしい。

 義母上のどこがひどいのかがわからなかった。むしろ優しいと思う。


 命の価値を低く思っているのはどっちだって話だ。


 それから、タヌは貴族にお願いすることの重さと意味を教えていた。


『人間って面倒くさいね』

『そうじゃな。面倒くさいものなのじゃ』


 閑話休題。


 名前を書いたのは八人だったらしい。


 それから書いたことに嘘がバレて、帰される者とセバスに捕まる者が出た。

 セバスに捕まったのは一人。我が家に恨みがある者達だった。

 セバスが不穏な噂から、あの酒場で得ていた情報でわかったみたいだ。


 理由を聞くとただの逆恨みだった。


 そんなことがあり、残ったのが三人らしい。


 三人は書いたことに嘘がないかをセバスが確認しているみたいだ。


「セバス働かせすぎじゃないですか?まぁ…それで働けるセバスも凄いですけど」

「なに言ってるの?セバスだけで出来る訳がないでしょ。他の使用人も呼んだのよ。殿下をお迎えしないといけなくなったから…今は王都の家の泊まっているわ」


 そうだな。さすがに捕まえた者の監視や情報を集めること、義母上の護衛をセバスだけでは無理か…


 待っているとセバスがやってきた。


「奥様。ただいま戻りました」

「ご苦労様。それで報告を」

「はい。二人は真実だったらしいのですが、一人が嘘をついておりました」


 その報告に三人とも狼狽えていた。

 治療をしてもらえないかもしれないと不安になる気持ちはわかるが、本当のことを書いたのなら狼狽える必要はないとも思えた。


「どういうことかしら?」

「はい。それが持っている財産よりも多く記入したみたいです」


 多く記入する意味がわからない。


「その人は誰ですか?」


 セバスは三人のなかの一人を見た。


「ケルスです。他の二人は本当のことを書いてありました」


 おばさんとお兄さんは安堵し喜んだ。

 成人したてのお兄さんは肩を落としていた。

 セバスはしれっとケルスっていう、成人したての若者の後ろについていた。

 ケルスが暴れた時に対処するためだろう。


「ケルスは残りなさい。あとで事情を聞きます。二人は今から診るので案内をしなさい。順番は…」


 セバスの方を向いた。


「患者に急を要するものはいません」

「それなら、財産が多いあなたから診ましょうか」

「ありがとうございます。あいつも元気になります」

「はい。治してみせます。それであなたも気を落とさないで、今日中には治してみせるわ」

「お願いします。娘が助かると思うと…」


 ぱんっ。


 義母上は手を叩いた。


「今からそんなに喜んでどうするの?治した後に喜びすぎて、患者が増えるのはごめんよ。さぁエルザもついてきなさい」


 凄いな。実際に診てもいないのに、治ることを前提に話している。癒し(エルザ)がいくのかそれなら…


「俺も…」

「ダメです。患者は二人とも女性です。男であるスカイがいると患者が警戒します。従者もメイド達にお願いするつもりです」


 だからいたのか…てっきりローズのお世話をするためにやって来たんだと思っていた。


「カイ様。あとでご報告しますから」


 あぁ…癒しが俺を残して…

 ってワガママだな。ここは我慢しよう。


「気づけなくてすみません。気をつけていってきてください」


 義母上は、エルザとメイド、おばさん、お兄さんを連れて屋敷から出ていった。


 それをセバスと見送り屋敷に戻った。



「なぜ魔族がいるっ!!」


 ローズの叫び声が聞こえてきた。俺とセバスはうなずき合いその場へ急いだ。


 あぁ、今日は厄日だ…

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