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屋敷に戻るとローズ殿下と義母上が話していた。
剣術大会の時の義母上と俺の無礼を義母上が謝り、それをローズ殿下が許していた。
「おぉ、待っていたぞ。貴殿と戦うのを楽しみにしていた」
俺じゃなくてツバキの方に視線が向いていた。
ツバキは俺に助けを求めているような、怯えた目をしていた。
「殿下。覚悟を持ってきましたよね?」
「あぁもちろんだ。ただ剣聖殿みたいに侮辱されたら怒るかもしれない」
師匠は陛下に対してタメ口だけじゃなくて、侮辱までしていたのか…
そりゃあ義母上も師匠と同じにされたくないよな。
師匠が破天荒なのか、陛下が大人達の言うとおりクソなのか、どちらなんだろうな…
「ちなみにどの程度のことを…」
「スカイ!やめなさい。汚い言葉を使わなければ大丈夫です。そうですよね殿下?」
「そうですね…あなた達が普通に話しているくらいで大丈夫だと思います」
それでもツバキは喋れなかった。
義母上ともあまり喋っていないし、さらに王族なんて雲の上の存在なんだろうな。
じゃあ俺は?って話だけど、やはり貴族としてのなにかが足りないのかもしれないな。
別に困ってないし、そんな扱いされてもなんかダルいので別にいいけど。
「すみません。殿下。言葉を崩しますね」
「はい。許可します」
「今日はなにしにきたの?いきなりだったから驚いたよ」
まずは手本を見せるべきだな。
「スカイっ!」
義母上は怒っている。しかし…
「義母上。ご不快なら出ていって下さい。このままだと話になりませんし、できません」
「マリアンヌ。これくらいなら大丈夫ですよ。少し嬉しくも感じます」
「わかりました。私も外で集まっている人達をどうにかしないといけませんから、お先に立つ無礼をお許し下さい」
ローズ殿下の返事の後、義母上は立ち上がりローズ殿下に再び礼と、俺に無礼がないように注意をした後、この部屋からエルザを連れて出ていった。
それからぎこちない会話が続いたが、間に俺が入り、時間がたつにつれなんとか普通に会話するようになった。
ぎこちない会話で分かったことは、ローズ殿下は俺と同じ年らしい。誕生日が殿下の方が早いことで少し勝ち誇っていた。あとは王族の大変さなどを知った。
してはいけないことが意外に多かった。
「そうなん。王族も大変やんね。もっと楽や思おっとったわ」
「フフフ、そうなのよ。王族って大変なのよ。それにしてもツバキの喋り方ってなんだかかわいいわね」
「そうかいな?そんなんあらへん思うけど」
「カイもそう思うわよね」
呼び方が会話が進むにつれカイになった。別にどうでもいいけど。
「そうだな。でもローズで…ローズが突然ツバキみたいに喋ったら、義母上が呼ばれそう」
「ハハハ、確かにそうかもしれん。体調疑われんで」
殿下はおろか敬称も禁止され、呼び捨てで呼ばないといけないようになった。
「二人ともひどいわ」
「それにローズは今のまんまでかっわいいわ。なぁカイはん」
ツバキは適応が早いのか、普通に呼び捨てで呼んでいる。そしてなぜか俺は敬称がついている。
ローズ殿下的にカイはんはセーフらしい。
「そうだな。でもローズはかわいいだけじゃなくて、綺麗さもあるよな。ツバキにも言えることだけどな」
…『っち』
タヌが舌打ちをした。なんか間違えたか?
「あれ?俺おかしいこと言った?事実を言っただけなんだけど…」
なぜかタヌが何度も舌打ちをした。
時計か!と念話でツッコむと、バカやマヌケと悪口が返ってきた。
「カイは誰にでもそんなこと言うんでしょ。いい死に方しないわよ」
「そんな器用なことを俺に求めるなよ」
ローズ殿下に睨まれた。
ちょっと崩し過ぎたか…不敬だったかもしれないな。
「コホンっ、ローズは婚約者とかおるん?」
ナイスフォローだ。話を変えてくれた。
「私はいないわよ。ツバキは?」
「意外やね。王族やからいる思おっとわ」
「前はいたんだけどその人死んじゃった」
特大の地雷があった…
もしかして俺が殺した公爵の子供じゃないよな…
「…かんにんな。辛いこと聞いてもうたな」
「別にいいのよ。会ったことないもの」
「どんな人だったんだ?」
俺が殺した人じゃありませんように、と願いながら聞いた。
「ゲルマン侯爵の子息だったみたい。魔族に殺されたらしいわ」
そっちかーいっ!
これはセーフなのか?セーフだな。そいつ死んでるみたいだし、これから侯爵家になにかあっても、ローズ殿下に関係ないな。
きっとゲルマン侯爵は子供を魔族に殺されたから、魔族を恨んでいるんだよな。
だからといって、ベルジーナをあんな目にあわせる理由にならないけどな。
ベルジーナが侯爵の息子を殺したのならわかるけどな…
ベルジーナ殺してないよな?
急にシュリさんが心配になったけど、シュリさんなら大丈夫か。と思いなおした。
「…そうだったんだ…辛いことを話してくれてありがとう」
「ほんまやね」
「いいよ。いいよ。会ったこともないから思い出もないしね。それでツバキはどうなの?」
「うちもいーひんで」
「カイは?」
「俺もいないよ。ただ結婚したい人はいるよ」
「エルザはんか?」
「そうだ。ちゃんとやったことの責任はとりたいからな。あぁ、さっき義母上に連れられていった人がそうだ」
「そうなんだ…カイには心に決めた人がいるんだね。羨ましいよ」
ローズは口ではあぁ言っていても、婚約者が死んだこと気にしていたんだな…
「ローズやツバキにも、きっといい人が見つかるよ。二人とも素敵だからな」
「別にいいよ」
ローズはなんだか寂しげだった。
「大丈夫だって…」
「カイはん。ちょい二人で話したいことあるさかい、出ていってくれへんか」
「えっ?なんで?」
「ええからええから」
背中を押されて部屋から押し出された。
まぁ女の子同士で話したいことがあるかと思い、この場をあとにした。
少し心配になったシュリさんのところへ行くと、なぜか魔法を教えていた。
「シュリさん。なんで魔法を教えているんですか?」
「ベルはなかなか魔法の才能があってな。君の父くらいだ。それなら伸ばすべきだろ」
羨ましい。俺には才能なかったからな…
じゃない。
「魔族に教えてもいいんですか?」
「別にいいんじゃない?」
「いいんですか?」
「うん。というかこの子は防御魔法や、デバフ魔法にしか才能がないみたいだし、自分を守るすべは必要だよ」
「そうですね」
「それにこの子の喋り方は勉強になるし」
確かにベルジーナの喋り方は綺麗だよな。
「って、あれは諦めてなかったんですか?」
お嬢様っぽい喋り方は諦めていなかったのか…
「いや、綺麗な喋り方に憧れはあるんだよ。さすがに百年すればマスターできると思う。今世は諦めただけだよ」
百年か…気が長い話だな。
「そうなんですね。例え今すぐにマスターしても俺は今のままの喋り方が好きなんで変えないでくださいね」
「…っ、そうだね。マスターしても君には使わないから安心して」
「お願いします。それでベルジーナに聞きたいことがあるんだけど、ベルジーナはゲルマン侯爵の子供って殺してないよね?」
「わたくしは人を殺めたことはありません」
殺していても殺したと言わないだろうな。
「あぁ、それはないと思うよ。ベルは訓練をしていてね」
「承知いたしました」
訓練の邪魔にならないように離れて話した。
「ご配慮感謝いたします」
シュリさんが憧れる気持ちがわかる。この子は何者なんだ…
まぁいいか。俺には無理だ。
「集中しなさい」
「申し訳ありません。努めさせていたたきます」
ベルジーナは魔力制御を練習していた。
「それでシュリさんはなにか知っているんですか?」
「うん。ゲルマン侯爵の息子は君の父が死んだときに死んだんだ」
「へぇ、若いのに優秀だったんですね。十代で戦場に行けるなんて、ローズの婚約者に相応しい相手だったんだ」
「えっ、そこまで若くも優秀でもないよ」
「そうなんですか?」
「それに殿下と随分仲良くなったみたいだね。呼び捨てなんて」
しまった。あの部屋のノリで来てしまった。
「いや、あの、あのですね。殿下とツバキに話がしやすいように呼び捨てだったんです。義母上には内緒でお願いします」
「フフフ、そんなに焦らなくてもマリンには言わないであげるよ」
「ありがとうございます。それで若くないと言われましたがおいくつだったんですか?」
「当時三十歳は超えてたんじゃないかな。四十歳まではいかなかったと思うよ」
えっ!?ローズは俺と同じ年って言ってたよな…
四十歳前後と十五歳か…
この国ロリコン多くないか?
「なんでローズ殿下と婚約出来たんですか?特に優秀だったわけでもないんですよね?」
「あぁ、それは例の元宰相が勧めたらしいよ。当時からローズ殿下は優秀と噂されていたからね。私達の間では駄鳥がワシを産んだとか、トカゲが龍を産んだって言われていたよ」
※ダチョウじゃありません。駄目な鳥でだちょうです。ちなみにダチョウは駝鳥と書くらしいです。
そう言われるローズが凄いのか、陛下がひどいのか…
「王国の七不思議だったんだけど、元宰相が魔族だと知って、一つの謎が解けたよ」
優秀な者同士を結婚させずに、産まれてくる子供は普通にってやつか…
そんなことよりも…
「七不思議って他にもあるんですか?」
「あぁ気になる?といっても、時代時代で変わるからね。私が覚えているだけで百個以上あるよ。なかにはさっきみたいに解決したものもあるよ」
全然七じゃ足りてない。
「解決していないのはどのくらいあるんですか?」
「うーん。どのくらいだろう。五十はあったと思うよ。私が知らないだけで解決しているものもあるとは思うけど」
「気になります。とても気になりますが、それはまたの機会にお願いします」
「私もそうしてほしいかな。確か工房にメモがあるからそれを見ながらの方がいい」
メモがあるのか…なんかワクワクするな。
「お願いします。帰るのが楽しみになりました。俺そういうの好きなんですよ。シュリさんも好きでしょ?」
「うん。だからメモまでとってあるんだ」
「あぁ気になります。なにか…」
『主よ…話が脱線しとるぞ』
『そうだったな』
「止まりそうにないので、今回は我慢しますね」
「そうだね。そうしよう」
「好きなものは最後にとっておく派なんですよ」
「私は逆かな」
「意外ですね。てっきり同じタイプかと思いました」
「ほら、長生きだからね。忘れてしまう可能性があるんだ」
「なるほど。エルフだったらそれは一理ありますね」
「いや私は寿命が短い人間こそ私の考えの方がいいと思うよ」
「そうなんですかね?」
「好きなことや、やりたいことはどんどんやっておかないと、結局やれずに出来なくなってしまうよ。死んじゃったり、病気になったりしてね。そうやって後悔した人はたくさんいるから…」
確かにそんなことがあるかもな…
「そう考えるとそんな気がしてきました」
「後悔が少ない人生を歩んでね」
「難しいですね…」
考えていると、タヌにまた脱線してると注意された。
シュリさんと話していると、こんなふうに脱線することがよくある。
シュリさんにお願いして元の線路に戻した。




