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目を開けると知らない天井だった。
横になったまま辺りを探った。
せっま。そしてぼっろ。犬小屋の方がまだマシなんじゃないか。
『どういう状況だ?』
『魔族が主を背負ってここまで運びよった』
『タヌやイレイスが動かしたんじゃないのか?』
『あれは主に負担がかかるからのぉ。魔族からも主を害する気配もなさそうじゃったし』
『そうか…』
「お気づきになりましたか?」
俺は上半身だけ起きあがった。
誰?
そこにはかわいらしい子供がいた。
魔族特有の赤い目だけど、それ以外はちょっと肌が青白いエルフだ。
『主が助けた魔族じゃ』
『ほう。変わるもんだな。どのくらい寝てた』
『二時間十三分五秒』
『さすがイレイス正確だな』
イレイスに注意しておかないとな。
『それでイレイス…魔力全部なくなるなら先にそう言ってくれ。どうなってもおかしくなかったんだぞ』
『ごめん。反省してる』
『妾からも言っておいたからそう怒るでない。それに主の言い方も悪かったのだぞ』
『…そうだな…俺のせいでもあるんだな』
『反省は後でよい。それよりこの状況じゃ。どうするんじゃ?』
『まぁ、まずは情報を集めよう』
「…あぁ、君は助けた魔族かな?」
「はい。ベルジーナと言います。助けてくれて感謝しております」
「どういたしまして。それでここはどこ?」
「ここはわたくしがお借りしている家です」
これが家なのか?
『スラムなんてこんなもんじゃろ』
『そうなのか…』
「そうか。君はなんであんな目にあっていたんだ?」
『おいっ!そんなことを聞くんじゃないわっ!!主には関係ないじゃろうが!!それに主も聞かれたくないことの一つや二つくらいはあるじゃろう?』
ちょっと不躾だったか。
ベルジーナも辛そうな顔をしていた。
「すまない。言いたくないなら言わなくていい。それで俺はどのくらい倒れていた?」
「そろほどお時間はたっていないです。二時間くらいだと思われます」
嘘はついていないか…
「そうか…ありがとう。君にお礼できることはあるかな?君は命の恩人だ」
実際はそこまでではないけど、伝える必要はないことだろう。
「わたくしの方こそなにかお礼をしたいのですが、お渡しできるものがなくて…」
体中の傷を治したお礼の事を言っているんだと思うけど…
ここへ運んでくれたから、お互い様でいいだろ。
それにこの状況のベルジーナから、なにをもらえるんだよ…
「それはいいよ。お互い様ってことでいいじゃないか。それじゃあ俺は出ていくよ」
ベルジーナの家を出るために立ち上がった。
「すみません。不躾ですがお願いがあります」
「なんだい?叶えられるかは聞いてみないとわからないけど言うだけ言ってみて」
叶えられるなら叶えてあげよう。
「はい。お持ちの短刀でわたくしの顔に傷をつけてくれませんか?」
「…もう一度言ってくれないか?」
「わたくしの顔に傷をつけてくれませんか?と申しあげました」
聞き間違いじゃないのか…なんでだ?
せっかくかわいらしくなったのに…
『かわいらしくなったからじゃ…あの顔はここでは危険しか呼ばぬ。魔族じゃしな。この国ではそうじゃ』
『そうなのか?』
『そうなのじゃ…』
ふーん。気に入らないな。とても不愉快だ。とてもとてもとっーてもだ。
俺が魔力枯渇するまで治療してやったのに…
『主なんでいちいち悪ぶる?なにかの流行りか?』
『悪ぶっていない。俺は悪いんだ』
『もうよいわ。それで主よ…こんな話はどこにでもある。全てを助けるなんて無理じゃぞ』
『そんなことはわかっているさ。俺には全てを助けることなんて無理だ』
『そうじゃろ。じゃから…』
『でもなタヌ。こいつは知り合いだ』
『またそれかの…』
『なんだダメなのか?』
『はぁーっ…それももうよい。くだらぬことで言い合っても無駄じゃ。それでこれからどうるんじゃ?』
『そうだな。悪い貴族らしいやり方でいくか』
「おいっ!」
「は、はい」
驚かせすぎたか…
しかし今は好都合だな。
「お礼をしたいけど渡せるものがないって言ったな?」
「はい。ですが…」
いきなり態度が変わって焦っているな。クククっ…
「あるだろう?」
「申し訳ございません。わたくしにお渡しできるものは…」
「ある。お前自身だ。俺のものになれ」
これこそ悪い貴族が言いそうなことだ。
「で、でもわたくしにはご主人様がいらっしゃいます。なりたいのはやまやまですが…」
よし言質はとったぞ。
飽きたら捨てよう。
『妾には救ったら自由にしようと聞こえるぞ』
『私も』
『うるさい』
「…なりたいと言ったな。俺が話をつけてやる。お前の主人はどこのどいつだ?」
「それは…」
「なんだ主人の名前も知らないのか?」
「ゲルドフ様。サビール・ゲルドフ様です」
ザビール・ゲルドフ様か…って誰?
『妾も知らん』
「ゲルドフっていうのは貴族か?」
「はい。侯爵様です」
こ、侯爵かー。思ったよりだいぶ偉いな。俺の家よりかなり格上じゃん。
てっきりベルジーナの主人は、スラムのボスや木っ端貴族かと思っていた。
高位貴族は奴隷使わないんじゃなかったよかよ!
そしてなんで侯爵の奴隷がこんなとこにいるんだよ!?
『悪い貴族らしく尻尾まいて逃げればよい』
『バカか。悪い貴族は諦めないんだよ。ネチっこいんだ』
『はぁーっ…それでどうするつもりなんじゃ』
考えていると…
『そうだな。とりあえずセバスに相談するか』
セバスが出入口にいた。
「セバス入れ。俺はここにいるぞ」
ガチャ、ギー。
建て付けも悪いな。嫌な音だ。
「探しましたよ坊ちゃん。生い先短い寿命がどれほど縮んだか…」
「すまないな。ちょっと失敗した」
「はぁーっ…ちょっとの意味を調べてほしいですね。まぁいいでしょう。それで魔族なんかと一緒になにやっていたんですか?」
「それがな…」
セバスに事情を話した。
それをセバスは黙って聞いていた。
「なんか腹立ったから殺したんだけど大丈夫か?」
「それは問題ありません。あとで私が火消しをいたします。義もありますし簡単なことです」
貴族って凄いな。平民一人の命くらいどうとでもできるんだ…貴族でよかったな。
「それでザビール・ゲルドフって知ってる?侯爵らしいんだけど…」
「知っております」
「なんか弱味知らない?」
それで脅してベルジーナを譲ってもらえば解決だ。
「それはお答えできません」
「なんで?」
「私に話す権利がないからです。奥様に聞いてみてください」
ということはあるのか。さすがだな。
でも義母上を説得するのは無理なんだよな…
「よしっ、ゲルドフ家にカチコミに行こう。セバスも手伝え」
「坊ちゃん!まずは奥様に聞いてくださいと申しました。それがなぜカチコミになるんですか?」
『なんでそうなるんじゃ!まずは主の義母に話を聞け!執事もそう言ったではないか!』
タヌとセバスの言葉が重なった。
「だって義母上を説き伏せる自信がない。多分無理だ。カチコミの方が確率は上だ」
「だってもクソもありません。奥様に相談しに帰りますよ」
「嫌だ。俺は必ず負ける試合はしない主義だ」
「おっしゃってることは間違ってはいませんが、今は完全に間違っています。帰りますよ。私も微力ながらお手伝いますから…」
その言葉を待っていたぞセバス。手伝えよ。
「それでも強行なさるなら考えがあります」
どうせ義母上に言いつけるんだろう…
「仕方ない。今回は俺が折れてやろう。おとなしく帰るよ。お前もついてこい」
ベルジーナはこの人についていって大丈夫なのだろかと迷っている様子だった。
早いところ帰りたいんだよな。
「早くこいっ!」
俺がベルジーナの手を引っ張ると、諦めてついてきた。
手を繋いだままでシュリさんの屋敷に向かった。集団隠密をするためだ。
一人の時と比べると、集団隠密の方が見つかりやすい。
これなら誰か見つけるかもしれないな。
『ふん、思ってもないことを…』
お昼前にシュリさんの屋敷に到着すると、屋敷の庭に何人か寝転がっていた。
例の防犯装置が発動したのだろう。
残念ながらシュリさんの屋敷まで、俺達を見つけられる人はいなかった。残念残念。
『全く残念そうな顔をしとらんぞ』
『そんなことはないだろ?』
『ふん。妾に誤魔化しても無駄じゃろうに』
『しょうがないだろ。隠れることは絶対の自信があるんだからな。それが確認できた。本気の俺を探せる人はヴォルさん。オマケでセバスくらいだな』
『あやつか…嫌な名を聞いた』
『タヌはヴォルさんのこと嫌いだよな』
『主にはわからぬ深い因縁があるんじゃ』
『ふーん』
『興味なさそうじゃの』
『好みは人それぞれだからな。それに例えタヌがヴォルさんを悪く言っても、俺はヴォルさんのこと信頼してることには変わらないから』
『主はそうじゃの…じゃが主はあやつの本性を知らぬからそんなことが言えるのじゃ』
『そうかもしれないな。でも一方からの話だけを信じて、目が曇ることはしたくない。両方の話が聞ける時に聞くよ』
『間違っておらんが…』
『それにタヌがヴォルさんの悪口を言うのは嫌だし、もちろんヴォルさんがタヌの悪口を言うのも嫌だな。言ってる方を嫌いになっちゃいそうだ』
『そうじゃの。それは面白おない。あやつがおる時に因縁を話してやるとするかのぉ』
セバスが義母上達に事情を話すのを待っていた。
セバスからの説明が終わると、義母上が俺の方を向いた。
「スカイ。魔族がいたところへ帰しなさい」
「嫌です」
「ワガママ言わないの。魔族なんて厄介ごとにしかならないのよ。あなたに面倒を見れますか?」
「問題ありません。俺がなんとかします」
「どうせ私が面倒をみることになるんでしょ」
「俺が面倒みます。譲れません」
なんかベルジーナが捨て犬みたいだな。
「なんでそんなことを言うの?魔族はあの人、スカイの父の仇なんですよ。私と一緒にあなただって狙われたでしょう」
義母上がそんなことを言うのか…
とても残念に思った。
「…義母上。義母上らしくない。お体大丈夫ですか?お疲れのようです」
「はい。たった今疲れてきました。口答えをする子供のせいでね」
「いえ口答えなんしていません。あの義母上がその辺の奴らと同じに見えたものですから」
「私がその辺の有象無象と同じですって?」
いやそこまで言っていないんだけど…
「主語が大きいって話ですよ。義母上」
「どういう意味かしら?」
「ベルジーナが父上を殺したわけではありません。元宰相だった奴の陰謀で魔族が殺したんでしょ?」
「そうですね。自分のやったことを後悔するようにしてあげました。悪いことでしたか?」
「いえ。全く。俺もお手伝いしたかったくらいです」
俺だって復讐する権利があったはずだ。それを義母上が仲間外れにしたんじゃないか…
「ならどうして?」
「ベルジーナはひどい目にあっていました。「人間は」って言われて、ベルジーナにひどいことをしていたクズ共と同じだと、俺は思われたくありません」
「そ、それは…」
義母上は珍しく…いや俺は初めて義母上がうろたえるところを見た。
「マリン。スカイの言うとおりだ。私もクズ共と一緒にはされたくないよ。魔族の連中にどう思われても私は構わないけど、スカイに思われたくないね」
えっ?俺?
「俺もだ。お前は違うのか?お前が言う羽虫以下と同じだとスカイに思われてもいいのか?」
なんで俺が出てくるんだ?
「師匠…さすがに羽虫以下とは思いませんけど、少し残念に思います」
それにしてもなんで俺がでてくるの?
関係あったか?
『主は高位魔族、又は人と高位魔族のハーフの可能性があるぞ』
『はっ?なんで?』
『妾を初めて持った時に正気じゃったからじゃ』
『えっ…それ初耳なんだけど…』
『初めて言ったからのぉ。初耳じゃろうて。じゃが思いあたるふしはあるじゃろ?公爵の息子を殺した時とか、ヴォルから妾を抜いた時とかじゃ』
確かにそうだ。
俺が殺した公爵の息子も、ヴォルさんもどうして俺が正気なのか怪しんでいた。
それにベルジーナのこともそうだ。
ベルジーナは俺のことを魔族の仲間だと思ったのかもしれない。
セバスが来てから様子が変わって、あまり喋らなくなった。
えっ…俺って人間じゃないの…
あぁダメだ。この事実は俺の頭のキャパシティを超えてる。
『事実じゃないぞ。ただの予想じゃ…しかし確率は低くないのぉ』
『そんな言葉遊びはいらな…』
本日二度目の意識がなくなった。
思春期の頃はなんでか知らないけど、筋が通った悪人に憧れる時期がありますよね?
筋が通った善人の方が格好いいはずなのに…
ない方ももちろんいらっしゃるとは思いますが、私だけじゃないことを祈ります。
ちなみにタヌ達と念話をしてる時間はめっちゃ短いです。
そうじゃないと、剣聖の攻撃を防げなかったはずなので…
多分書き忘れたので、どこかの話に入れておきます。
他にも整合性がとれていない箇所があるかもしれませんが、話に詰まったら見直すので、今は大目に見てお読みいただければありがたいです。
ブックマークや評価が増えたら、もっとありがたいですが…
最後にちょっと本音を書きましたが、皆さんの暇つぶしの一助になるだけでも、十分嬉しいのでこちらも大目に見てください。
長いあとがきまでお読みいただきありがとうございます。




