表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一部完】世界を救っているのに自分は気づかない話  作者: おむすびさん
一章【孤高の魔術師編~ただのボッチ~】
5/59


 ギルドを出た後、町の周りをランニングしたり、宿屋の庭を借りて刀の使い方を確認した。

 昨日は思うがまま振っていたので、剣筋が乱れてる恐れがあったので、いつも以上に丁寧に確認した。


 まだ弱い俺だけど、やれる事があるはずだ。


 夜、冒険者ギルドにいくと、この町にこんなに冒険者がいたんだと思うくらいの冒険者がいた。

 ギルドの酒場では無料で飲み食いが提供されていた。


 冒険者達はパーティーか仲が良いのであろう冒険者と固まり、楽しそうに飲み食いしながら話しをしていた。


 しばらくすると、ギルドの副マスターが冒険者達の前に立った。


 副マスは以前、A級パーティーの魔術師だった人だ。

 俺の父上の世代か、少し上のドルンの世代くらいだと思う。

 今でも俺より体格良いが、昔はもっと体格が良かったらしい。


 この町出身の冒険者が、副マスの事を話しているのが聞こえた事があった。

 俺の五感は、味覚以外は高性能だ。

 ラージュさん達の話が聞こえたのもこのお陰だ。


 味覚を奪った義母許すまじ…



 この世界の冒険者のランクは、パーティーじゃないと魔物討伐が難しい為か、個人でのランクはなく、パーティーのランクだけだ。


 パーティーを組めない俺はどうなるんだろうか…


「ギルドの要請で集まってくれて、ありがとうございます。現在、未確認ではありますがゴブリンキングの発生の危険性があり、その対策として集まってもらいました」


 楽しそうな雰囲気が一変した。


 副マスの話が進む度に、冒険者達の声はますます大きくなった。

 そうなるのも仕方ない。


 まず俺の情報や、近隣の領地でもゴブリンが少ない事を話し、その対策として誰かに偵察してもらい、発見の際にはC級以上の冒険者パーティーには討伐依頼、D級以下の冒険者には町や近隣の村での防衛依頼を頼まれていた。


 討伐依頼のリーダーには、この町にたまたま来ていたB級パーティーが選ばれた。


 普通、町の危機では領主がリーダーとなって対策する。

 もちろん貴族本人は荒事に向いていない人もいるので、そんな貴族は代行として、領の騎士団が事にあたるのだが…


 誰もがそう思っていただろう。


 その事をB級パーティーのリーダーが聞くと、領主一家は領主の義弟(庶子)以外、王都に救援を求める名目で逃げていたらしい。

 それの護衛で騎士達の大半も王都に向かったそうだ。

 この町の冒険者のギルドマスターも同じ名目で王都に逃げていた。


 冒険者が言った「どちらかだけで良いだろう!」は、確かにと思って少し笑ってしまった。


 これも含めてだが冒険者達の文句は、副マスやギルド職員に言っても仕方ないものばかりだった。

 自己保身や意味のない文句ばかりで、そう思う気持ちは分かるが、それを今言ってもどうしようもない事ばかりだった。


 ギルドも推奨した安全第一にした弊害か、討伐するぞ。やこの町は俺達が守る。という前向きな意見は一度も出なかった。

 それも仕方ない部分がある。それは、父上が亡くなった原因、一年前に起きたモンスターパレードだ。


 父上達が現場に到着する前にかなりやられたらしい。

 父上達が到着すると犠牲は少なくなったが、結果的に伯爵領の半壊と共に、伯爵領の人で生きている者は三分の一以下、隣の領地まで侵攻された。


 なにより最強の一角(父上)が死んだのが大きかったと思う。


 この領地の出身者であろう冒険者は、町の中か隣の村に身内がいる為なのか、高ランクの冒険者に助けを求めたりしていたが相手にされていなかった。

 大半の冒険者は低ランク、高ランク限らず領地から出る相談をしていた。


 こんな状況のなか、B級パーティーは逃げる為にリーダーを断った。


 たまたま来ただけでこの町になんの思い入れもないだろうし、この集団をまとめるだけでも難しいのに、討伐するなんて無理だろう。


 自分だけでなく仲間の命がかかっているのだから…

 知らない他人の命と自分や仲間の命との天秤は、迷いもなく後者に傾くのは当然といえるのかもしれない。


 当然なのだろうがこれが高ランク冒険者なのか…B級といったら数ある冒険者の一万人に一人の強者だ。


 それなのに逃げるのか…

 もちろん逃げるとは一言も言ってないが、逃げるのは誰がみても明らかだった。


 読んでいた小説では、こういうパーティーが周りを鼓舞して、強敵に挑んで解決できるのに…


 現実は本当に世知辛い。


 そんななか、B級パーティーが断ったからか、副マスから残念なお知らせがあった。

 今回の飲み食いは討伐依頼の前払いらしく、受けない場合はランクの降格又は、除名処分になるという事だった。


 それを聞いた冒険者は一瞬の沈黙の後、大騒動になった。暴動一歩手前だ。


 やり方が汚い。冒険者も冒険者ならギルドもギルドだ。

 きっとギルマスの指示だろう。


 副マスはこんな事するような人ではないと思う。

 噂は悪くない。逆に良いものが多かった。

 ただ、断言できるほど副マスの事を知らないし、所詮は噂なので多分だが…



 こんな状況では話をする雰囲気ではないし、夜も深くなってきたので一旦解散して、明朝に討伐や防衛に向けての話をする事になった。


 公式発表はギルドで対策が決まり次第行われる予定になった。それまでは口外禁止と言われた。


 宿屋に戻っていると、近隣の村に行く為か、逃げる為に門の方へ向かうパーティーが何組かいた。


 今日集まった半分くらいしかギルドに来ないだろうな…と考えながら宿屋に戻った。


 明朝、起きて朝食を食べようとすると、宿の人達は引っ越しの準備をしていた。


 宿屋の店主に「なんで教えてくれなかった!」「朝食なんて作る暇があるか!」等、怒鳴られて朝食を食べれなかった。

 守秘義務の事を話したが、理解してもらえなかったので、少ない自分の持ち物をバックに入れ出ていった。


 終いには「お前なんか泊めるんじゃなかった!」って言われて少し泣きそうになり、人間不振が悪化しそうだったので宿屋を出た。出ていくと塩をまかれた。


 冒険者ギルドに向かう途中の家やお店の3軒に2軒は、引っ越した後やその準備をしていた。


 町のメインストリートでは、ここから門の前まで、結構距離があるのだが渋滞が起こっていた。

 冒険者かギルドの職員から聞いたのだろう…

 公式発表はまだ行われていないはずだ。


 この現象を不振に思った人が、並んでいる人と話すと呆然としていた。

 その後の行動は大きく分けて2つに分かれた。


 行列にそのまま並んだり、引っ越しする為に全速力で家か店へ戻って行く。等の町から逃げるグループか、泣き崩れたり、遠い目でとぼとぼ歩いている等の諦めていたり、現実逃避しているグループに分かれた。


 前者が六割、後者が三割くらいだった。


 例外として行商人らしき人は、商売のチャンスと思ったのか、軽い足取りで走っていった。

 商人の商売魂って凄い。


 逃げるのは公式発表を聞いてからという強者もいたし、「この町はわしが守る」というおじいさんがいて少し嬉しかった。


 こういうセリフを待っていた。


 冒険者(俺も含めて)や領主は見習うべきだ。


 そんな光景を見つつ冒険者ギルドに着いた。



 冒険者ギルドは予想した以上に閑散としていた。

 冒険者は俺しか来てないし、ギルド職員の数も少なかった。


 朝早いとはいえ、いつもなら何組かのパーティーはいるし、ギルド職員は10人以上はいるのに、今は3人ほどしか見かけない。

 気配を感じてとってみると、3人の他は奥に1つしかなかった。多分、副マスだろう。


 話をする為か椅子が100席以上あったが、出番がある椅子は少なくなりそうだ。


 癖で後ろの目立たないところへ座ろうとしたが、ラージュさんに「前に座ってください」と言われた。

 まぁ前に座っても後ろに座っても、1人しかいないので変わらないかと思って前に座った。


 それからしばらく待つと副マスが降りてきた。

 副マスが降りてくる前に三組ほどのパーティーが来たが、見るからに低ランクの者ばかりだった。


 この中の1人が後の勇者かなにかで、覚醒したりしないかなとあり得ない事を考えて、すぐに苦笑いをした。


「これだけか…仕方ない。ギルドも冒険者の事を言える立場ではないからな…」

 こちらへ歩いている時、下を向きながらながら呟いていた。


 俺達の前に立つと顔を引き締めた表情で、まず集まった事への感謝とギルドの惨状を詫びていた。


「カイさん以外はこれを使って戦う準備をして下さい。準備が出来たら、門の前で待機をお願いします。私も門に向かい、そこで防衛の詳しい話をします」


 お金が入っているであろう革袋を1人3つ渡していた。


 三組のパーティーは受け取ると、冒険者ギルドから出ていった。


「カイさんには悪いですが偵察を頼みたいです。どのくらいの規模かと、ゴブリンの上位種が何体いるか調べてほしいです。」


 この世界のゴブリンは、ゴブリンソードやゴブリンマジシャンもただのゴブリンだ。その為見た目だけで分かる事はほぼない。


 持っている武器で、ある程度の予想は出来るが、俺が討伐したゴブリンのように、弱いゴブリンも剣や杖を持つ事があるし、俺は出会った事がないが、魔法を使うゴブリンもいれば、剣が上手なゴブリンもいるらしい。


 副マスが言った上位種というのは、ゴブリンジェネラルや、賢者ゴブリン、ゴブリンプリンスの事だ。


 これらは見た目で分かる。

 ゴブリンは腰巻しか着ける事はないが、ジェネラルとプリンスなら金属鎧や革鎧を装備するし、賢者ゴブリンならローブを装備している。稀に付けてない者もいるらしいが…

 更にジェネラルやプリンスは体の大きさが違う。ゴブリンは130~140㎝だが、これらは170㎝を余裕で超える。

 ジェネラルとプリンスの違いは、指輪の有無なので遠くからは分からないが、近づけば分かる。


 正直いうと偵察依頼を受ける為に来た。というかそれしか俺には出来ない。

 人間不振の俺には連携が上手くとれる気がしないので、討伐はもちろん防衛も無理だ。


 偵察する気ではあったが了承する前に、1人でなのか、探索範囲、期間を質問した。


 1人でなのかの質問に対しての回答は、1人行ってくれだった。

 冗談なのかさっき出ていったパーティーが了承すれば、魔術師、付与師、弓を使える奴以外なら、2人までは連れていって良いと言われたが断った。


 俺がすぐに断ると副マスも「ですよね…」と、苦笑いしていた。


 探索範囲は地図を出してこの辺りまでと言われた。

 採取依頼や伝説の武具等を探したりした時に、何度も行った事があるところだったので少し安心した。


 期間は最長でも1週間で見つからなくても戻る。その時の状況によるが、また偵察してもらう可能性がある事を告げられた。


 最後に1番大事な事を質問した。回答内容によっては断るつもりだ。


 その質問とは、ジェネラルとプリンスの区別をつけないといけないのかを質問した。


 この質問は予想外だったのか、少し驚いた顔をして苦笑いしながら答えてくれた。


「勿論、ジェネラルかプリンスかの判別はしなくて良いです。他に質問はないですか?」

「ありません。質問に答えてくれてありがとうございます」


 報酬の質問は不粋だと思ったのでしなかった。


「ギルドの職員として当然の事です。難しい依頼ですが頼みます」


 了承の返事をすると、「ありがとう」とお礼を言われたので、「冒険者として当然の事です」と言うと、これも予想外だったのか、驚いた顔をした後に少し笑い、他のギルド職員も少し笑顔になった。

 

「カイさんこれをどうぞ。準備に使って下さい。あとこれもお貸しします。準備が出来次第向かって下さい」


 俺に3つの革袋と次元カバンを渡してくれた。

 


 次元カバンはお馴染みだろう。見た目より多く入り、時間経過もしないカバンだ。

 しかも、登録者以外使う事が出来ないし、登録していても、他人が入れた物は取り出す事が出来ない優れ物だ。

 勿論高い。俺の全財産使っても買えないし、お金を持っていてもなかなか買える物じゃない代物(しろもの)だ。


 森での1週間くらいなら、現物支給で大丈夫だったが、せっかく用意してくれたのだし、なにより使ってみたい。


「この中にポーション類や保存食が入っています。中を確認して下さい。使い方を教えます。まずここの部分にカイさんの血を着けて下さい。それから━━」


 次元カバンってこんな使い方なんだ。と少し早い説明を聞きながら感動していた。


 物資を副マスが出しながら確認して俺が入れていると、いたせりつくせりの内容で俺にはあまり必要ない物まで入っていた。他に準備する物は、装備品くらいしか思いつかなかった。


「以上です。中の物は自由に使ってもいいですが、カバン貴重な物ですので必ず返して下さい」

「勿論です。俺には弁償できませんから、必ず返します」


 言った事以外の意味も伝わったが、気づかない振りをした。


 次元カバンを受けとり、ギルドの出口の方へ歩きながら「行ってきます!」とだけ言って冒険者ギルドを出た。


 普段出さない大きな声がギルドに響いた。

 お読み頂きありがとうございます。


 夜にもう一話投稿できるように頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ