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「おはようございます」
皆、朝の挨拶をすると席についた。
義母上は機嫌が悪そうだった。セバスから外の様子を聞いたのだろう。
「困ったわね。どうしましょうか?シュリさん、ルーク様」
「そうだね。これじゃあローズ殿下をお招きできないね」
「俺達三人も考えたんだが、思いつかなくてな。シュリさんやマリンの意見を聞きたかったんだ」
「そうなんですね。スカイのことだからローズ殿下を呼ばずにすんで良かったと言うかと思いました」
バレてる…あっ!セバスかっ!!
別に言わなくてもいいことだろう!?
セバスは涼しい顔をしていた。
「はぁーっ…本当に言ったのですか。そんな顔をしてますが、セバスからなにも聞いていませんよ。スカイが成長したと少し喜んだのですが残念です」
「悲しませて申し訳ありません」
「そんなに気にしなくてもいいわ。ケインはともかくマイクも似たようなものだもの。私の育て方に問題があったのかもしれないわ」
確かにマイク義兄様は少し俺と似た部分がある。
いやケイン義兄様がしっかりしているだけだと思う。
「マリンは子供に対して少し厳しいよ。マイクはあまり知らないけど、この子はまっすぐ?…いやまともに?…うん。とにかく素直で優しい子だよ」
シュリさん、フォローになってない…
「そうですねシュリさん。この子のことをこれからもよろしくお願いしますね」
「任せてよ。こうなったのはルークのせいかもしれないしね」
「いや元々変だったぞ」
シュリさんも義母上もオブラートに包んでくれていたのに台無しだ。
「セバス。疑って悪かったな」
「いえいえ。普段疑われるようなことをしていますからね。気にしないでください」
セバスは本当に気にしていない様子だった。
「お前のそういうところが俺は大嫌いだ。自分を卑下するな。悪いところがないのに疑われたら怒れ!怒る価値がないのなら嫌味の一つくらい言え!そんな顔をするな。もっと自分に誇りを持て。わかったな」
なんか場が静まった。
あれ?なんか間違えたこと言ったか?
「ふぉっふぉっ…そうですな。もっとスカイ様には口うるさくいたしましょう」
「いやいや、疑われたらと言ったよな?普段からする必要はないぞ。もう年なんだからもっと自分を労れ」
「いえいえスカイ様には足りないくらいです」
「いやいや、━」
「いえいえ、━」
「ねっ、優しい子でしょ?」
「そうですわね。少し肩に力が入っていたようです」
セバスと嫌味のやりとりをしていると、シュリさんと義母上がこんな話をしていた。
ぐっ…恥ずかしい。そしてこの高性能の耳がうとましい。
「スカイもセバスも、もうそのくらいにしなさい。外の様子やローズ殿下のことはなにも解決していないのよ」
助かった。今回は少しセバスにおされていた。
しかし、それを出さずに「今回はこのくらいにしておこう」って感じで、セバスから義母上に視線を移した。
「どうしようか?私が出ていっても騒ぎが大きくなるだけだしね」
「そうですな。シュリさんが王都にいるって分かったら、貴族達まで押し寄せてきますよ」
有名になるって面倒くさいんだな。
「あの…」
エルザが恐る恐る手を挙げていた。
確かに怖いよなこのメンツで手を挙げるのは…
「なんですか?なにかあるのなら言ってみなさい」
「はい。疑問なんですけど事態の原因を知るべきではないでしょうか?」
「それはスカイが昨日やらかしたからだろう。集まっているのは、スカイのファンやスカイになにか用がある奴なんじゃないのか?」
「それはあくまで予想であって、本当にそのことが原因で集まったとは限らないのでは?」
確かにそうだ。
「そうですね。エルザの言うとおりただの予想でしかないわ。セバス探ってきてくれる?」
「かしこまりました。奥様」
セバスが行くのか…それなら。
「あぁ、俺もいきますよ。自分のことですしね」
「なにを言ってるの!あなたが出ていったら騒ぎになるじゃないですか」
「いえ、出ていっただけでは騒ぎになりません。見つからなければ大丈夫です」
「それはそうでしょうけど…」
「それに隠れた俺を見つけられるなら、そいつは優秀です。そいつの話くらいは聞いておきたいです」
「奥様。私が責任を持ちますので、坊ちゃんのワガママをお認めください」
セバスの説得があり俺も探ることになった。
さて久しぶりに本気で隠れるか。
それにセバスの技術も盗むチャンスだ。
これだけでも外に出る価値がある。
セバスは凄かった。
足の運び方、目線の配り方等の技術はもちろん、情報のとりかたも勉強にはなった。
情報のとりかたは俺には難しそうだったが…
だって聞く相手によって、変装や声を変えたりして商人や農民の演技をしていた。
服や小道具は次元バックに入れていた。
俺には無理な芸当だった。
セバスには絶対に言わないけど。
というか次元バックってレアものなんだよね?
結構みんな持ってない?
閑話休題。
集まった情報によると、屋敷に集まっている人達の目的は俺じゃなくて義母上の方が多かった。
治療してほしい人や、診てほしい人がいるらしい。
俺目的じゃないのか…
安心と恥ずかしさ、そして残念な気持ちが混ざり合った、なんともいえない複雑な気持ちになった。
なぜか義母上が治療してくれるという噂を聞いて、集まったらしい。
剣術大会の報復かもしれないな。
そのなかに不穏な情報があったので、セバスは裏通り…スラム地帯にも足を運んだ。
俺は初めて来た場所だ。
臭かったがシュリさんが作ったアレよりはマシだ。
ついに嗅覚までおかしくなったのかもしれない…
しかし初めてきた場所でワクワクしていた。
「坊ちゃん。これに着替えてください」
セバスは汚い服装を差し出した。
「なんで俺がこんなもの着ないといけない?」
「その服はこの場所では浮きますので…」
確かに俺の服装はこの場では浮くだろう。
色は黒と目立たないが素材は良いものだ。
「そんなことは知っている」
「ではお願いします。少し臭いますが…」
「嫌だ」
「そんなワガママをおっしゃらずに」
確かにはたから見れば俺達はワガママを言う坊ちゃんと振り回されているお付きの人に見えるだろう。
見えればだが。
「誰も俺に気づいてないだろう。このくらいのハンデは必要だ。俺の目的が果たせない」
「おや、私の技術を勉強するためではなかったのですか?それなら目的は果たしているでしょう」
「なに言ってるんだ?俺は俺を索敵できる奴を探しにきたんだぞ」
「嘘がお上手ですね。先ほどから私の歩き方の真似をしているように見えましたが?まだまだですけど上達は早いですよ」
「くっ…俺は…」
「坊ちゃんお喋りはここまでに…ここは大人の私が譲ろうと思います。服装はそのままで大丈夫です。しかし、ここは安全な家ではないんですよ」
セバスは歩きだした。俺はその後に続いた。
くそっ!今日は調子が悪いのかセバスに勝てない。
『主の執事の言うことが正しい。主が負けるのは当然じゃ』
『その通り。正しいものを曲げて勝ててもロクなことにならない』
『わかってはいる…わかってはいるんだ』
それでも俺は着替えることはしなかった。
セバスが言うことが正しいことなんてことはわかっている。
子供っぽいワガママであることかもしれないし、安っぽい意地なのかもしれない。
しかし、それを貫き通したかった。
それだけ俺は自分の隠密に自信がかある。
セバスのあとをつけると、一軒の酒場に入っていった。俺はなにかにイライラしながら外で待っていた。
「うわっ」
子供が転んだ。
子供の体は痩せていて、着ている服もこの場でも浮いていた。もちろん俺と逆の意味でだ。
それだけひどい格好だった。
なにかの病気なのだろうか。デキモノが体のいたるところに出来ていた。
「おいっ!早くしろっ!」
太ったチンピラが子供に怒鳴っていた。
「すみません。体に力が…」
「魔族なんだろうがっ!体は強いだろっ!」
チンピラは魔族を蹴り、それは何度も続けられていた。重そうないい蹴りだ。
魔族なのか?ちょっと気になるな。近くで見てみよう。父上の仇時は、あまり見れなかったんだよな。
俺はガキとチンピラに近づいていった。
『主!手は出すなよ。主は聖人君子ではないのだろう?』
『当たり前だろ』
なにか勘違いをしていないか?俺は高見の見物をするだけだ。この国では魔族に人権なんてないしな。
俺は知らない奴を助けることなんてしない。
『ふん…無駄なことをしよってからに』
『うん。無駄』
『無駄とはどういう意味だ?』
『主はわかっておろう。まぁよい。バレぬようにな』
近づいてもガキとチンピラの二人は気づいた様子はなかった。
さすが俺だ。セバスの言うとおりにしなくても大丈夫じゃないか。
「オラッ!ドカっ。「うっ」早く謝れよっ!ドカっ。「すっび…」仕事に戻れっ!ドカっ」
その間もチンピラは蹴っていた。
魔族のガキは謝りたそうにしていたが、蹴られて謝れない様子だった。
やはりチンピラってバカだな。そんなことしていたら、謝れないし、仕事の効率は下がるだけだろうに…
うわぁ、気持ち悪いな。
ガキを近くで見るとひどい顔だ。
デキモノが右目の上や、左頬に出来ていて見るからに醜い。
チンピラは気がすんだのか、蹴ることはやめたが、うずくまっているガキのパンツを下ろした。
へぇ、魔族ってあそこないんだ。
タヌのため息が聞こえたが、俺にだって知らないことがある。魔族の知り合いなんかいないからな。
そしてなぜかチンピラは自分のパンツまで下ろしていた。
「やべでぐだざい」
「へへへ、うるせえっ!」
「だずげでぐだざい。だれがーっ」
「魔族を助ける奴なんかいねぇよ。おとなしくしろよ!へへへ、「ゴギッ」うっ…」
バタッ
俺もまだまだだな。セバスなら声すらあげささずに殺すだろう。
なぜだかわからないがチンピラの首をへし折った。
なんか生理的に無理だった。
わからないので、俺に汚いものをみせた罪だな。ということで納得した。俺は貴族様だからな。
『ふん。悪ぶりよって』
タヌの不機嫌な声がした。
『どうしたんだ?』
『妾が言ったとおり無駄じゃったじゃろ』
『無駄。マスターの考えてることなんてわかる』
なるほど。そういう意味の無駄か。
『そうじゃそうじゃ。それに助けるんじゃったら早く助けんか。おかげで見たくもないもん見てしもうたではないか』
『勉強になった。マスターのと違って…』
『わ、忘れるんじゃ。イレイス。あんなもんは今すぐ忘れるべきじゃ。主もそうじゃろ』
『そうだな。イレイス忘れた方がいい。俺も忘れたいくらいだ』
小便が出るところだからな。汚いものはなるべく見ない方がいいだろ。
『わかった。そうする』
『そうするのじゃ。しかし主よ。聖人君子ではないのではなかったのかのぉ?』
『タヌ。俺は嘘をついてない』
『なにを今さら…』
『あのガキが助けてと俺に言った。それで知り合いになった』
あの時、俺は知り合いになったのだ。
『知り合いが困っていて、それを助けられるのなら助けるのは当然だ』
『な、なんじゃそのヘンテコな理屈は!?助ける理由を探しとっただけじゃろ』
『他にもある。俺に不快なものを見せた罪だな』
『思いださせるでないわ。まぁよい。じゃが無理をするんではないぞ。助けられない者は助けられんからの。主の命が一番じゃ』
『わかってるって、助けられないのなら諦めるよ』
『はぁーっ、妾も無駄なことをしとるのかものぉ』
『?…まぁいいか。それでイレイス傷を治せるか』
『できるけど、バレるよ』
魔族って魔力感知が得意なのかな?バレるくらいいいだろ。
ガリガリのガキが歯向かってきても、余裕で対処できるだろ。
『問題ないよ。やってくれる?』
『わかった』
『まっ待つんじゃ…』
俺の手から出た虹色の光が魔族のガキを包んだ。
その虹色の光は傷はもちろんデキモノまでなくなっていった。
えっ?なんで?ヤバイ。急速に魔力が減るのがわかった。
それと同時に意識が遠のいていった。
『だからバレると言った』
あぁそういう意味だったのね…
イレイスのそんな言葉が聞こえ俺は倒れた。
集まったのを迷惑していたのに、自分目当てじゃないとわかり少しグレました。
転生してても少年の要素があります。
思春期特有の複雑な心境を感じてくれれば嬉しいです。




