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あぁ…この部屋から出たくない。
「どうしたん?もう朝食ができたころとちがう?おりひんの?」
「いや…少し待って。心の準備が必要なんだ」
「なんやねん。心の準備って」
コンコン
一瞬息が止まった。
「エルザです。カイ様お目覚めですか?」
よかった。エルザか…
「うん。起きてるよ」
ガチャ
「おはようございますカイ様。ツバキさん。皆様お待ちしておりますよ」
「おはようエルザ。俺を治してくれたんだってありがとうな」
「いえ、私は義母様の手伝いをしただけですから」
「そうか…でもありがとう。それで義母上の機嫌はどう?」
「それは…」
「いつも通りですよ。坊ちゃん」
やはりセバスか…誰か隠れているのはわかっていたが…
「セバス。いきなり出てくるなよ。ビックリするだろう」
「でも坊ちゃんも気づいておいでだったのでは?やはり年には勝てませんか…」
なにが年だ。俺より長生きしそうなくせに。
「だからといってここでやる必要もないだろ?」
「そうでございますね。これでなんの思いもなくあちらへいけます」
「ハイハイ。言ってろ」
「カイはん。ちょいとひどうないか?」
「私もそう思っていたんですけど…」
「これがいつもの挨拶だよ。セバスとはこれでいいんだ」
「はい。お気づかいありがとうございます」
セバスはツバキに向かって綺麗な礼をした。いつ見てもムカつくほど綺麗な礼だ。
「ツバキさんは清い心を持っておられますね」
「俺は持っていないもんな」
「そんなことは一言も言っておりません」
「そうか。でも思っていたら一緒だろ?」
「いえ。思っていても口に出さなければ大丈夫です」
「俺が清い心を持っていない。と思っていることを否定しないのか?」
セバスは手を合わせ「パンッ」とならした。
「そんなことよりも奥様、シュリ様、ルーク様がお待ちかねしていますよ」
「話を変えるな」
「それは坊ちゃんもでは?」
「俺がいつ変えた?」
「今です。お待ちされていますよと申しました。それなのに、私のくだらない心を知ろうとしなくてもよろしくては?」
「いや、家に仕える者の筆頭であるセバスの心を知るのは一大事では?」
「はははは」「ふぉふぉふぉ」
こんな感じで時間稼ぎをした。
「カイはんはやっぱり貴族なんやね」
「セバスさんと話すカイ様はいつもこんな感じなんです。義母様も二人はこれでいいらしいです」
「そうなんか…」
「そうなんですよ…」
コンコン
エルザがドアを開けた。
「いつまでそんな無駄話をしてるのですっ!シュリ様もルーク様もお待ちなのよ」
ここまでか…
「はい。すぐに行きます」
部屋を出て食卓のある部屋へ向かった。
「エルザはん、あれは許してたんちゃうん?」
「カイ様の家のなかではって意味です。こちらは招かれた方なので…」
こそこそ話でエルザとツバキが話していた。
そのくらいなら大丈夫か…
「セバス。なにがいつも通りの機嫌だ」
エルザ達より一回り小さな小声で話した。
「いつも通りスカイ様をご心配なさっていますよ」
なるほど…
『そこで納得するのもどうかと思うがの…』
「スカイ。私の機嫌が気になるなんて、なにか私が悪くなるようなことをしたの?」
なんでこっちは聞こえるんだよ…
「いえっ、してま…いや、しました。また無理をしてしまってご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした」
「そう。反省はしているのね…私は嬉しいわ」
少し機嫌が良くなった。良かった…
「でもねスカイ。セバスとくだらないことをして、シュリさんをお待たせするとはどういうことか説明して下さる?」
あぁ、ダメだったか…
諦めてさっさと出ればよかった。
義母上の説教イベントは食卓のある部屋に着くまで続いた。
食卓には例のものが置いてあった。三日もなにも食っていないはずなのに食欲がなくなった。
「スカイ。ご挨拶は?」
「はっ…シュリさん、師匠おはようございます」
「おはよう」「おおっ!遅かったな」
「お待たせして申し訳ありません。私の不徳の致すところです」
「いやいいぞ。それで体は大丈夫か?」
「はい。お陰様で大丈夫です。ご心配いただきありがとうございます」
「どうしたんですか?この前まではもう少し気安かったでしょう?」
シュリさーんっ!油をそそぐのはやめてください。
「スカイ…どういうことか説明はあるんですよね?」
義母上のところを見たくない。
しかし見ないで返答したらもっと酷い目に…返答しない訳にはもっといかないし…
「…いやマリン。私が望んだことだよ。そんなに怒るなよ」
ありがとう。シュリさん助かりました。
シュリさんもあの口調を諦めたのか、この口調に戻っていた。
「はい。シュリさんが言われるならそのことについては不問にしますわ」
そのことについてはか…
「そんなこと言わないで…許してあげなよ。彼が怪我した模擬戦は私も許可出したんだしさ」
「マリン。そうだぞ。許してやってくれ。頼む」
「お二人がそう言うのなら…スカイ。お二人に感謝しなさい」
おおーっ、逆転勝訴だ。バンザーイバンザーイ。
「本当にありがとうございます。もちろん義母上も治療やご心配ありがとうございます。今後ご迷惑かけないように頑張ります」
「はい。わかりました。でも頑張るだけじゃダメよ。もう成人なのだから今後は自分の責任は自分で持ちなさい。いいですね」
「はいっ!」
「はぁーっ、返事だけはいいんだから…それでは食事にしましょうか。スカイ。反省はしているようだし今回は普通の食事を許しますよ」
「ほんと…いえ、反省の意味をこめまして今回はいただきます」
「そうですか。反省は本物のようですね」
あぶねぇ…罠にかかるところだった。
それから頑張って食べた。
「っぷ…失礼しました。ごちそうさまでした」
「スカイ凄いな…あれをテーブルマナーを崩さずに完食するなんて…お前味覚あるのか?」
師匠失礼な…あるよ。マズイことはわかるからな。おかしくなってる可能性はあるが…
「ルーク様失礼ではありませんか?作成者がいらっしゃるのに」
「しょうがないよ。根性なしは食べられないんだよ」
シュリさんかーっ!俺達兄弟の食事を残飯に変えたのは…
「シュリさんっ!」
俺は立ち上がった。
「師匠は根性なしではありません。さぁ師匠食べて証明しましょう。セバス用意はあるか?」
『主…シュリというエルフに文句言うのではないのか?』
『はっ?なんで俺がシュリさんに文句言わないといけないんだ?俺も命は惜しい』
「はい。ございます」
「さぁ用意を頼むぞ」
「はいか…」
「セバス!はいかしこまりました。じゃない。いらないんだよ。そんな残飯以下を食うくらいなら根性なしでいいわっ!」
っち。さすが師匠だ。危機察知能力が高い。
「へぇ~っ、ルークはそう思いながら食べていたんだ?」
「はいっ。マズかったですよ。孤児の頃、ゴミ箱のなかのものも食べていましたが断トツのまずさです」
いや、師匠の危機察知能力は案外低いのかも…
それとまさか残飯以下とは思わなかった。
「ひどいわ。マリンそんなに味はひどいかしら」
「そんなことはありません。スカイはどう?」
師匠の気持ちはわかるが、確かにひどい言い方だな。
「師匠の気持ちはわかりま…せんが、人の味覚は人それぞれなので仕方ないことではありませんか?」
師匠。俺のフォローはこれが限界です。
「そうだな。俺はしがない孤児だったからな。貴族達の味覚とは違うのかもな」
「そうかもしれませんね。師匠」
「そうかな?そうかもしれないね」
「シュリさんがそう言うならいいですけど…」
ふぅーっ。惨劇は避けられたな。
「シュリさん。味を変えることはできないんですか?師匠でも食べられるように…」
義母上と師匠がなんてこと言うんだという顔をした。
「うーん。試してみたんだけど、誰も食べれなくなっちゃって、一応あれが完成したと思っていたけど…そうだね。君が付き合ってくれる?」
あーーーっ。ここに特大な地雷があった!
「いえっ、師匠が食べられるようにならないといけないので、師匠じゃないと意味がないのでは?」
「いやいやスカイ。お前が言い出したことなんだから、お前が付き合うのが筋だろう」
「いえ。やはりここが師匠が…」
「いやいや、言いだしっぺのお前が…」
醜い争いが始まった。しかし、シュリさんの顔がどんどん曇っていることに気づいてしまい、俺が責任をもって付き合うことにした。
「ありがとう。君は優しいね」
「いえ、あれには俺も助かったところがありますし、シュリさんにはすごくお世話になっているので、喜んでくれるなら嬉しいです」
これで良かったんだ。ちょっとあれ以上の不味さを味合うだけだ。
想像がつかないけど…
「あ、あのっ、私料理得意なので私も付き合います」
「なんか面白そうやから、うちも手伝うで」
エルザとツバキが立候補してくれた。
ありがたいが、仲間を危険にさらしてもいいのだろうか…
『なにをいうておる。もう何度も危険にさらしているではないか』
『そうかな?そんなことはないといえないことが辛いところだ』
『それにエルザの料理はまあまあ上手い。なにか味をまとめるコツがあるのかもしれん』
『そうだな。確かにその通りだ』
「…ありがとう。二人がいれば百人力だよ。シュリさん頑張りましょう」
四人で味の改良をすることが決まった。
説教イベントが終わり、後は楽しいイベントだけだ。緊急クエストが発生したが…
王都では師匠VS優勝者の戦いを見て帰るだけだ。
見学して帰るだけなのになんか嫌な予感がした。
貴族の反乱や魔族襲来とかありそう。
まぁそうなっても俺が守らないといけない人より、俺を守れる強い人の方が多いし、王都の人達には悪いけど俺達は逃げるだけだな。
俺にはその人達を守る義務もないし、NOプロブレムだな。
『ふん。主はなんだかんだで助けるんじゃろうが』
『マスター。私もそう思う』
全く…こいつらはなに言っているのかがわからないな。
俺は逃げるぞ。知らない奴のために命を賭けられるか!俺は聖人君子なんかじゃない。
それからしばらく義母上達の雑談を聞いて楽しんでいた。




