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主人公に戻ります。
15才になり身体の成長も緩やかになったので、雷魔法の訓練をしたいが、いろんな理由を考えやめておいた。
中級魔法書も高いし中級から種類も増える…
今までに貯めた貯金(慰謝料込み)は300万レール程あるが、それをほとんど使ってようやく1冊買えるくらいだ。
この国の硬貨は鉄価、銅貨、銀価、金貨がある。
銭貨が1枚で1レール、銅貨が1枚で100レール、銀貨で1枚で5000レール、金貨が1枚で10万レールだ。
これらの他に白金貨や光金貨があるが、貴族や上級冒険者じゃない俺には縁遠いお金だ。
魔法の種類というのは、攻撃、回復、バフ、デバフの事でそれにも本人の資質があり、攻撃が使える人がいれば、回復が使える人もいるし、そこは神のみぞ知るって奴だ。
仮に俺が攻撃の中級雷魔法書を買って、才能がなかったらお金が無駄になってしまう。才能がないって事は分かるので完全に無駄ではないが…
それに中級魔法はソロでやっている限り使えないだろうし…
使えないと思う原因は詠唱が長いのだ。下級なら魔法名だけで発動するが、中級なら三小節+魔法名もある。
イメージも大事だが言霊?が大事みたいで、しっかりした発音で詠唱しないと魔法が発動しない。もちろん無詠唱や詠唱短縮なんて事はできない。
いろいろ試したが無理だった。もしかしたらやり方があるのかもしれないが、知らないし知るツテもない。
いろんな理由があるが、まだ小柄な方なのでもう少し我慢したいだけだったりする。
という訳で魔法の訓練を本格的にするのはまだだ。
それでも採取依頼だけを受ける冒険者からは卒業したい。
冒険者は安全第一だ。それが悪い事とは言わない…むしろ一般的には良い事だろう。
俺も安全マージンをとりながら行動しているし、ギルドもそれを推奨している。
だが俺がやっている仕事は、俺がやりたかった冒険者の仕事なのだろうか?と4、5ヶ月くらい前から疑問をもつようになり、疑問は日に日に大きくなった。
もちろん初めの頃は魔物達に怯えて慎重にやっていたし、今も油断なく活動している。
だが1年近くやっていると慣れてくる。依頼品に合わせた最短ルートや状況に合わせたルートが複数ある。
それに加え気配を感じとる事は得意なので、生物を避けてルートを選択する事ができる。
半年くらい前から、ルートが大体決まり採取依頼で森に行っても、初めの頃のようにドキドキする事がどんどん少なくなって、今では全くドキドキしない。
初めの頃にオークから始まり、新人狩り等いろいろ起きたので、物語のようにまたなにか起こるかと思っていたが、なにも起こらない。
一緒に冒険してくれるヒロインや仲間、ドルクのような師匠みたいな存在との出会いもないし、魔森の中で伝説の武具や呪われた武具等を探してみたがなにもない。
だから俺から違う事をしようと思った。
冒険者ギルドに行き、採取依頼は無かった。
いつもなら自主練をするのだが、魔物討伐する為に森に向かった。
討伐するといってもゴブリンだ。ゴブリン討伐は常駐依頼なので受けなくてもいい。
雪辱戦として普通はオークなのだろうが、オークは剣が折れた印象や殺されそうになった印象が強すぎてまだ難しそうだ。
それにゴブリンは大体5匹以上で行動するので見分けがつきやすい。
ゴブリンなら武器が壊れることはないだろう。
採集依頼で初めの頃、ゴブリンには珍しく一体しかいかなかった。
それでも逃げたかったが、これを素早く倒さないともっとピンチになる場面だった。
奇襲だったからか、簡単にゴブリンを討伐する事ができた。
武器も無事だったので、オークに比べて防御力が低いのであろう。
ちなみに今の武器は刀だ。
デカイ狼にやられたオークが持っていたもので、妙に馴染んだので今も使っている。
盗賊から手に入れた剣は壊れてしまった。
ボスの物だったんだけどあれは仕方ないか…
所詮、盗賊が持っていた物だしな…
閑話休題。
鞘は無かったが、刀といっても直刀で、長さや太さが初めの戦闘で折れた剣と同じくらいだったので、折れた剣の鞘で問題無かった。
今回オーク恐怖症を克服する為に、今回は一対多に挑戦する。
これに成功できたらオークに勝てた気がする。
だってオークは一対多でゴブリンに負けたのだから。
やられたオークと同じ条件にするなら、奇襲を受けないといけないが、それはさすがに馬鹿だと思うので気にしない。
なんなら俺は奇襲するつもりでいるが、細かい事は気にしないのだ。
まぁ失敗する可能性は高いが、勝てなくても逃げる事は十中八九できるだろう。失敗して逃げきれなくても死ぬだけだ。
ここで死ぬような奴は、どちらにしろ冒険者として大成しない。
冒険者を諦めることも考えないといけない。
自分の気配を隠しながら、森に入りゴブリン達を探す。
何度も森に入っているが、ドキドキが止まらない。朝からドキドキしているが、森に入ってから一層ドキドキしている。
あぁ、この感覚が懐かしい。
命の危険があるっていうのに、ダメだと思っても顔がにやけてしまう。
しばらく探していると、ゴブリンパーティーらしき気配を感じとった。
自分の気配を更に隠すようにして気配の方に近づく。
近づいていくと、6つの気配を感じるが気にしない。
出来れば5匹が良かったし、もっと少ない方が良かったが、まぁ1匹くらいは誤差だろう。
周りに他の魔物や人の気配はない。
意を決してゴブリン達に奇襲をかけた。
奇襲したのだが予想していた結果とは違った。
悪い方ではなく良い方でだ。
まずは並んでいたゴブリン2体の首をはね、ゴブリン達が混乱している内に更に2体。逃げようとした2体を下級雷魔法で痺れさせ始末した。
簡単に終わってしまった。
十にもみたない秒数だった。
魔物にも個体差があり、同じゴブリンでも強さが結構変わるので、弱い個体達だったのかもと考え、その後も夕暮れ近くまで、ゴブリン達と戦ったがどれも簡単に終わった。
戦ったといえない気がする。どちらかというと、通り魔の犯行や虐殺したという方が近い。
なぜならゴブリン達に何もさせなかったからだ。
ゴブリン達を討伐する度に運が良い。
弱い個体だったのだと自分の何かに言い訳をして、誤魔化しながら討伐していた。
経験を積んだからなのか、戦闘のコツを掴んで討伐時間が短くなっていった。
それでも一時間くらい前から、単なる作業になっていった気がする。
討伐する時間よりゴブリン達を探す時間の方が長いのは当たり前で、普通に解体して処分する時間よりも戦闘時間が短かった。
なんか思っていたのと違う…と考えながら街に戻った。
冒険者ギルドに行きゴブリンの魔石を渡した。
数えてなかったが73個あったらしい。
俺が思った通り、どうやら討伐したゴブリンは弱い個体らしかった。
魔石の濃淡で強さが変わり濃いほど強い個体で、魔石自体に含まれる魔力も多くなる。
俺が持ってきた魔石の濃淡は、ほとんど淡かったらしい。
受付嬢のラージュさんから「討伐しすぎです。もっと自分を大切に」と言われたので「前に討伐した分も入ってます」と返した。
嘘ではない。前に討伐したぶんが一個ある。
記念で残したものだったが、今となってはどうでもよくなったので一緒に売った。
「運が良かったですね。強い個体の集団だと危ないですから」等の注意をしていたが、どおりでと納得した俺は少しにやけてしまった。
それを見たラージュさんを怒られてしまい、説教が長くなってしまったのは仕方ない。
説教の時にラージュさんに強いゴブリンの魔石を見せてもらった。
当然俺が持ってきてい物よりかなり濃い。
早くこのレベルと戦いたい。ゴブリンだけど楽しめそうだ。
ギルドを出てお世話になっている宿屋のポコポン亭に戻ったが、夕食にはまだ早かったので、庭を借りて剣の訓練を始めた。
人と会う事が苦手なので、全部屋を貸しきっている。
賃貸の方がかなり安いが、これでもお坊っちゃまなので、食事はおろか掃除、洗濯も出来ない俺に一人暮らしは無理だと始めから諦めていた。
ゴブリン達のお陰で刀の使い方のコツを掴んだので、自分のなかに落とし込んでいた。
ドルクに教えてもらった剣術では、今の武器を十全に発揮する事ができないと感じたし、力が他の剣士よりも俺はない方なので、刀の方が剣より俺には合っている気もした。
型が崩れてしまうが、崩れたところで所詮一回戦敗退レベルなので崩れたところで問題ないし、何年間もやった型なので戻そうと思えば戻せる気がする。
それに戻せなくても諦められる。
それより少しでも強くなりたい。
強くなれば強い魔物と勝負できる。それに刀が教えてくれてる気がする。
なんかヤバい奴になってる気がとも思うが、気にしてもしょうがない。
それに俺も別に死にたい訳ではない。
自分より強い相手と良い勝負をして、負けてしまい死ぬのは仕方ないと諦められるが、今日のゴブリンのように死ぬのはゴメンだ。
そうならない為に強くなりたいと願ってしまう。
素振りの確認をしばらくすると、日が落ちて辺りが暗くなり始めたので、庭にある井戸水を使い体の汗と汚れを流して宿屋に入り、夕食を食べて部屋に戻って寝た。
今日の自分より明日の自分が強くなる事を願いながら…
今日も元気にゴブリン退治だ。
今日は強いゴブリンに出会いたいものだ。と討伐していたが…
結局出て来なかった。今日は57匹だった。
昨日ラージュさんに見せてもらった強いゴブリンの魔石と比べると、淡い色の物ばかりだった。
ラージュさんに怒られそうだったので、21個しか渡さなかったが怒られた。
今日もまたゴブリン退治だ。
条件の良い採集依頼もあったが受けなかった。
とりあえず強いゴブリンと戦うまでは、ゴブリン討伐を続けるつもりだ。
普通に赤字だが幸いにも、一年ほどの金銭的余裕はあるので、余裕があるうちはこれで行く。
昨日一昨日と討伐し過ぎたせいか探すのも苦労した。
というか今日はゴブリンを見つけれなかった。
ゴブリンのパーティーは探せなかったので、単体のゴブリンを探索中に単体のオークがいた。
オークを見たからなのか、持っていた刀が震えていた。
刀ではなく俺の手が。かもしれないが…
昨日強い相手と戦いたいと願った癖に、強いゴブリンと戦ってからとか、このオークは強そうだとか、自分に言い訳してやめた。
そんな自分が情けなかった。
まだ昼過ぎだったが、街に戻る事にした。
冒険者ギルドで今回はゴブリンを見つけれなかったが、ちょっと見栄を張って、昨日のゴブリンの淡い魔石を換金しようとすると少し騒ぎになった。
渡した魔石は淡い魔石が8個だけだったが、そのまま渡した。
「今日は少ないですね」
「ゴブリンが全然いなくって」
「そんなに見栄を張らなくてもいいんですよ」
カチーン。
「いえ本当にいなかったんですって!」
「どの辺りまで探したんですか?」
「えぇと、泉より少し先ですかね」
この後もラージュさんが魔森の様子をいろいろ聞いてきたので、正直に話していると、ラージュさんはいきなり席を立ち、奥の方でギルドの副マスターと話しをしているのを盗み聞きした。
三日間で他の冒険者の分も合わせると、淡い魔石が100を余裕で越えているらしい。
淡い魔石が100を越えるのに、濃い魔石が少ないのが問題らしい。
原因として一番考えられる事は上位ゴブリンの誕生によって、ゴブリンが大量に発生したとギルドは考えているみたいだった。
五十年前の悲劇の前もこういう状況らしかった。
ギルドはゴブリンキングの誕生を疑っていた。
ゴブリンキングは災害級魔物だ。災害級はAランクの上のランクで、あの父上が命を犠牲にしてやっと倒せる魔物だ。
オークはG~C級の魔物なので、強いオークですら格が違うので瞬殺されるだろう。
ちなみにノーマルゴブリンはH~D級魔物だ。
H~Dのなかに、ゴブリンソードやマジシャンゴブリンも入っている。
ゴブリンキングは当然ながらゴブリンのなかで1番強い。人でいうと勇者みたいな存在だ。
発生の記録は五十年前で、発生した際に小国が滅ぼされる原因となった魔物だ。
ゴブリンキングは討伐できたのだが、討伐した代償は小さくなかった。
防衛にあたった国の騎士団と冒険者は半壊、領土も荒らせれ国を維持できるギリギリの状態であった。
そんな状況のなか、周りの国から経済制裁や、武力行使をちらつかせた外交等が原因で、国を維持する事は出来なくなり滅んでしまった。
やはり人も怖い…
閑話休題
なんか起きてほしいとは思ったが、これは俺の手に余るどころではない。
魔物別ランクの一番下、ゴブリンでいうHランクというのは魔物の子どものランクだ。
だから俺が倒したゴブリンのほとんどはG級かF級のゴブリンのはずだ。
それなのにとてもじゃないが災害級は俺には無理だ。
なんでFの次が災害級なんだよ。いってもC級だろうがっ!
アニメならもっと少しずつ敵が強くなって、その度に俺も少しずつ強くなってという感じになるのに、現実は思い通りにはいかなくて辛い。
ラージュさん達の話を盗み聞きすると、どうやらギルドは採取依頼を無傷で帰ってくる、俺の索敵能力をギルドは信頼しているみたいだ。
そんな俺の索敵にひっかからなかった為、ゴブリン達はどこかに侵攻する為に、準備している可能性が高いと考えられた。
そう。どこかにだ…森の中なら問題は少ないが、それが近隣の村やこの街になら大問題だ。
侵攻を阻止してゴブリン達を討伐しても、侵攻された時点で、小国のように街にも大きなダメージを受けてしまうし、村なんてどうしようもないだろう。
更に国が判断を間違えたら国家の危機すらもある。
そのため侵攻される前の討伐が望ましい。
領主や近隣の村の連絡、他ギルドの応援要請等でギルド職員達は忙しくしていた。
ラージュさんが受付に戻ってきた。
「カイさん明日の朝に来て下さい。あと魔森に入らないで下さい。それとこの事は秘密にしてください」
焦っているのか早口だった。
パニックを避ける為だろう。まだ俺だけの情報だ。たまたまだった可能性もある。
ちなみに心配しなくても、俺から情報が漏れる事なんてあり得ない。
話す人なんてお世話になっている宿屋の人達と、ラージュさんみたいな冒険者ギルドの受付しかいない。
話すといっても業務連絡くらいだし…
ラージュさんの注意に了承した。
俺がいても邪魔にしかならないので冒険者ギルドを後にした。
重大問題が発生したかもしれないのに、オークに挑戦しなかった理由が増えて、喜んだ自分が嫌になった。
宿屋の庭で、イライラを発散させるように刀を振り続けた。
明朝、ギルドに行くと、ラージュさんに今日の夜に対策会議がある事と、まだ魔森に入らないように言われた。
詳しい説明はなかったが、状況を予想すると明らかだ。
近隣の情報が集まり、ゴブリンキングの発生の可能性が高まってしまったのだろう。
お読み頂きありがとうございました。
ばーっと書いたので、もしかしたら辻褄を合わせるために、文章を変えることがあるかもしれません。