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【一部完】世界を救っているのに自分は気づかない話  作者: おむすびさん
三章【里帰り】~誰もが凱旋できる訳ではない~
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 俺は別に無詠唱の魅力に引かれて迷っている訳ではない。

 全く引かれていないといえば嘘になるが、なんか格好良いと思っているので詠唱したいし、自分の体に変なリスクを負わなくてすむし、シュリさんが作っている武器も強化できるならしたい。


 俺の考えでは取り出す以外の選択はない。

 ないが…俺の予感が正しければ、ダンジョンから救出された時に見た幼女の一人が聖霊なのだ。


 その時に幼女は泣いていた。

 傷つけるんでしょ。追い出すんでしょ。と泣いていた。


 君を傷つける事はしないと…他にも、ここにいつまでも居ていいよとも言ってしまった。

 そう約束していたのだ。


 約束すると泣いていた幼女は笑顔になり、出来ることを頑張りますと健気に言っていた。


 まさか聖霊が俺のなかにいると考えつかなかったし、俺はただの夢だと思っていた。


 そんな状況で、泣いている幼女に向かって、お前を傷つける。ここから出ていけ。なんて言える訳がない。


 そこまで人として終わっていないし、言える人になりたくもない。


 状況が変わってはいるが、仮にも成人した大人が見た目幼女と交わした約束を反故にするのは、なんとも抵抗がある。


 ただこの聖霊がいる状態では、残りの上半身の治療も危なくて出来ないらしい。

 魔力経路が複雑な状態での中級魔法の訓練はやめた方が良いらしい。


 無詠唱と体のリスク等で迷っている訳ではなく、約束を守って中級魔法や自身の健康を諦めるか、約束を破って中級魔法を使える丈夫な体を手に入れるかで迷っているのだ。


 エルザや義母は気にしないで追い出すべきと言っているが、俺の身になって考えてほしい。


 小さな子どもに約束したことも守れない人になりたいかと、そんな奴と仲良くなりたいかと…

 それを丁重に言うとエルザ達はなにも言わなくなった。


 ただ義母から治した手が俺の体に馴染むまでは、どうするにしても上半身の治療も出来ないから、馴染み終わるまでに結論を出しなさいと言われた。


 正直、魔術師というより剣士といった方が正しいということは俺も十分わかっているので、中級魔法使えなくても問題はないのかもしれない。


 だが使わなくても健康のためには…でも約束を破るのは…とそんな感じで迷っている。


 一日中考えた結果答えをだした。


 一か八かそのまま治療をしてみよう。聖霊に上半身ではなく、顔か足に来るようにお願いして、治療を始めるのだ。

 お願いを聞いてくれるかは知らないし、そのお願いが届いているのかもわからない。


 移ってくれたら治療は出来るし、お願いを聞かなくて、上半身に残っていた場合は取り出した後に治療をする。


 これで聖霊が取り出されたとしても免罪符にできる。

 意思確認もしないでズルいとは思うが、このままでは一生このままというわけにはいかないし、冒険も出来ない。


 俺が出した結論(ワガママ)にエルザと義母も賛成してくれた。が、話が終わって車椅子を押しているセバスから、そのワガママは治療のスペシャリストの義母だから叶えられることを聞いた。

 聖霊を出すだけでも出来る人は少ないらしく、それなのに臨機応変に対応するのは至難の業だと言っていた。


 閑話休題。


 手が馴染んでいるか確認した次の日に、上半身の治療を始めるみたいだ。


 それまでに意思確認が出来ればいいのにと思っていると…

 まぁ…そう都合良く意思確認できるわけもなかった。


 治療をしていない期間は勉強をした。

 もちろん魔法の勉強だ。

 待ちに待った勉強だ。スポンジが吸うように頭のなかに入っていった。


 もちろん実践はしない。健康のためにしない。実践しているのがバレたら、あれの量が二倍になると脅されたからでは決してない。


 意思確認は上手くできなかったが、ある日遂にシュリさんが本邸へやってきたというので、シュリさんがいる部屋へ行った。

 そこにはシュリさんとヴォルさん、義母がいた。


「待たせたね。遂に納得がいくものが出来たよ」


 抜いてみると凄く良さそうな刀だった。

 車椅子に座ったまま、軽く振ってみると体の一部みたいに振りやすかった。


「凄く良い刀ですね。ありがとうございます」

「シュリさん。この子のためにありがとうございます」

「いや、お礼は受けとりますけど…残念ながら君の刀ほどではないけどね…私の腕ではこれが限界みたいです…」


 シュリさんは納得いかないみたいだが、俺には勿体ないくらい凄い刀だ。


「シュリ。そう自分を卑下するな。お前の刀の方があんな刀よりカイの力になるさ」


 ヴォルさんは本当にそんなにこの刀ってヤバいの?オークが持っていた刀なのに…


 刀を貰う前にシュリさんにしなければならないことがある。


「シュリさん。申し訳ありません。まだこの刀を使うわけにはいきません」

「どうしたの?この刀、気に入らなかった?」

 シュリさんの目が鋭くなり、ヴォルさんの顔を見れないほどの圧を感じた。

「ちっ、違います。この刀は欲しいですが、シュリさんには無礼な振る舞いをしてしまった事を謝りたかったのです」


 ヴォルさんの圧になんとか耐え、言いたいことが言えた。

 ヴォルさんを直接見ていたら…と考えるだけで震えがくるほどの圧だった。


 一瞬の沈黙の後、シュリさんの顔が赤くなった。

 やはり思い出して怒っているのか…


「やっぱり気付いてましたよね…シュリさんが作った剣を折ってしまったことを…」

「えっ?…あぁ…あれは…うんそうだね。まぁいい気分ではなかったけど、私は優しいからね。その件に関しては君から謝ったから許してあげるよ」


 先に謝っておいて良かった…

 先に謝る方が詰められて謝るより何倍も効果があるからな。まだ怒っているみたいだが…


「許して頂けるのであれば受け取らせてください。今度は折らないようにします」

「いや。折らないように遠慮して使わなくてもいい。今の君が折ってしまったのなら、それだけやむを得ない事情が起きたのだろう。私にとって可愛い子どもだが所詮は物だ。君の命よりは些細な事だよ。ただ大事にしてやってくれ」

「はい。本当にありがとうございました」

「それなら見届けたし、あたしは魔森に戻るよ。カイ。あの刀はあまり使わず、その刀を使いなよ。あれはお前に悪いものだからな」

「ヴォルさん。いろいろありがとうございました。見送ります」


 ヴォルさんを見送るために部屋から出ようとした。


「シュリさんも変わりましたね…フフっ。まさかシュリさんの子どもを物呼ばわりするなんて…(それとも…)」

「うるさいよ」

 シュリさんから凄い圧を見てしまい、俺は身動きが出来なかった。息もし辛い。

「ごめんなさい。シュリさん。冗談ですよ。本気にしないで下さいよ。フフっ…まさかあのシュリさんが…」

「黙れと言っている」

「ごめんなさい。もう言わないから機嫌直してよ」


 義母は凄い圧の後も普通に話していたし、ヴォルさんは何事か確認したあと普通に出ていった。


 俺には足りないものが多すぎる…


 義母の謝罪のあと、シュリさんの圧が弱まったのでヴォルさんの後を追って部屋から出た。

 ヴォルさんを追いかけるために少し急いで移動したが、それだけにしてはあり得ない量の汗をかいていた。化け物だらけだ…


「ヴォルさん。本当にありがとう。しばらくしたらまた会いにいくよ」

「あぁ。待っているぞ。留守にしていた分あたしも忙しくなりそうだからな」

「うん。頑張ってね。あぁなにをするかは言わなくていいよ。でも俺に出来ることがあったら言ってね」

「そうか。まぁ治療も辛いと思うがカイも頑張れよ」

「うん。ありがとう。でも頑張るのは義母とエルザだから…」


 お別れの挨拶をしているとシュリさんもやって来た。


「ありがとう。ヴォル。君のおかげで良いものが作れたよ」

「あたしもありがとう。シュリお前はあたしが見てきたなかで一番の職人だ。そんな職人に作ってもらえてあたしも嬉しいよ」

「ヴォルは生きている割にそんなに人と会ってないだろう?」

「そんな事言うな。称賛は素直に受けとれ。名残惜しいがあたしはもういくよ。シュリも気が向いたら会いに来てくれ」

「わかった。気が向かなくても行くよ。それまで元気で…」

「そうか…そうだな。お前達も達者でな…」


 シュリさんは師匠や義母と話すみたいにヴォルさんと喋っていた。

 短い期間だったが、シュリさんとヴォルさんはかなり仲良くなったのだろう。

 なんだか昔ながらの親友みたいだ。


 ヴォルさんと別れるので泣きそうになったが、そんなシュリさんも我慢しているのに、俺が泣くことは許されないような気がした。


 そんな思いをしているとヴォルさんは見えなくなった。

 なんとか我慢出来てよかった。

 しばらくの間沈黙が続いた。


「私も店へ戻ります。刀のことよろしくお願いします」

「はい。本当にありがとうございました。ザーザさんにもよろしくお伝えください。…あぁそうだ。ザーザさんに男の誓い守りましたと言っといて下さい」


 ザーザさん。宣言したこと守りましたよ。シュリさんに刀を作ってもらえました。


「男の誓い?わかった伝えておきます。それではまたお会いしましょう。体の治療が終わったら私が修行をつけてあげます。それとなにか欲しい装備品があれば訪ねてきて下さい」

「はい。またお世話になります」


 シュリさんも本邸から出ていった。


 その日の夕方。なぜかザーザさんが義母に治療を受けにきた。ザーザさんから事情を聞いた後、あの義母が笑いその後ザーザさんの治療を無料で受けていた。


 義母は治療のスペシャリストとあってか、体の調子が悪くなったら義母に診て貰いたい。

 しかし、それによって家に多くの人に来られても困る。そのため予約が必要だ。


 どういう基準か分からないが義母が決めた順番は王族や高位貴族であっても変えられない。

 王族の治療よりも平民の治療を優先したこともあるらしい。

 それは平民の方が命に関わる状況らしかったのだが、それでも王族の治療を後回しにするなんて…


 もちろん予約が変わることもあるが、変えるにしても財貨を使って予約していた人から譲ってもらわないといけないそうだ。


 俺の治療をするために決まっていた予約を全てキャンセルしたと聞いた時は驚いた。もちろん無料じゃない。

 申し訳なさ過ぎて後回しにしていいと言ったが、そうすると完治に早くて一年、もしかすると二、三年かかるらしくそれまで安静にして待てるのかと聞かれ、それに続けて命に関わる予約はなかったし、既にキャンセルしたということなのでお言葉に甘えることにした。


 それなのに横入りし、更に無料で治療を受けられるなんてザーザさんは凄い人なんだ。なぜか義母も上機嫌だったし…




 夜。二振りの刀を見比べていた。


 シュリさんにもらった刀は、俺の力と刀の力を十全に発揮してくれるし出来そうだ。


 それに比べて魔神刀は…この魔神刀の力を俺は十全に発揮できていない気がする…

 まさかこの刀が邪神が憑く神刀とは…

 約一年前に一生懸命探していたものが既に手元にあるとは…等と考えこんでいた。


 考えこんでいるとエルザがやって来て、エルザが久しぶりに俺の部屋で寝る事になった。


 今寝ているベッドはあの家にあるベッドほど広くはないが、十分広いので問題ないだろう。

 問題なのはエルザの格好だった。


 そこまでされたらいくら鈍い俺(俺自身は鋭いと思っているが)でも気付く。

 俺からアプローチをしなければならなかったのにと、エルザに申し訳な気持ちになった。


 エルザをベッドまでお姫様抱っこをした。


 俺のドキドキがエルザにも伝わっているのではと思うほどうるさかった。

 きっとエルザもドキドキしているはずだ。

 そんなエルザに格好悪いところを見せる訳にはいかない。


 動揺を隠しながらベッドに乗せると…


 俺とエルザは眠れない夜になった…

 お読み頂きありがとうございます

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