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奴隷館を出た後もイラついていた。
なんだよ。あの詐欺野郎が…
エルザを叱らなくてもいいじゃないかよ…
半月かけて卑屈さがなくなったのに、元通りになったらどうするんだ?
謝ってきたエルザにその事を言うとエルザが驚き、それでもルータさんが正しいと言ってきたので、それにも腹が立ってしまった。
「ほら見ろ。エルザまた卑屈になっているぞ」
「それは仕方ありません。奴隷とはこういう者なのです。嬉しいですがカイ様が心配になります。まだ一月もたっていない奴隷をここまで信用するなんて…」
「奴隷だから信用しているんじゃない!エルザだから…」
なにを口走ろうとしているんだ。
「もういいっ!」
怒っていたが急に恥ずかしくなって早足で家に帰ろうとした。
「待ってください…カイ様待ってください」
エルザが追いかけてきた。しばらく顔を見られたくなくて、少し落ち着くまで待たなかった。
「エルザ」
「はぁはぁ…は、はい。なんでしょう?」
「エルザを俺の奴隷を辞めてもらおうと思う。お金もまぁまぁ貯まったしな」
エルザは驚いた後泣き崩れた。
「うぅ…どうしてですか?卑屈なのがダメだったんですか?」
「そうだ。俺の仲間に自分を卑下する奴はいらないし、そんな奴に憧れている俺はどうなる?俺はもっと自分を卑下しないといけないのか?」
「…っ!…そ、そんな事ないです。カイ様は鈍いですし、ちょっとおっちょこちょいで、一般の常識も貴族の常識もおかしいですし、危険な事が好きな少しおかしい人ですけど」
あれ?俺そんな風に思われてたの…
「自分よりも私を優先するほど優しくて」
そんな事ないんだけど…
エルザが自分の事私って言うの初めて聞いた…
「強くて、格好良くて最高の主人です」
強くもないし、エルザに頼りっぱなしで最高の主人ではないと思うが…
「お許しください。私に出来る事ならなんでもしますので…どうかお願いします」
「…なにを許すの?…あっすまない。えっ…とだな。すまない勘違いさせたな。奴隷から解放しようと思うんだ」
何を言われたのか分からない顔をしていた。
「そうでもしないと卑屈さが無くならない気がするんだ。これからも一緒にいてくれると嬉しいんだが…どうかな?もし嫌でも解放はするよ。なんせ俺は鈍い…」
「嫌じゃありません。カイ様紛らわしい。本当に酷いっ!」
「本当にごめん。でも本当にいいの?俺は鈍いし、おっちょこちょいで…」
「ゆ、許してくださーい。僕はなんてことを…」
「エルザが言うならきっと事実なんだろう。エルザ。一つ気になったんだけど、さっきは私って言ってたけど…」
「…そ、それは言わないでください。恥ずかしいです」
少し俺の鼓動が止まった気がした。
「そ、そうか。それじゃあ解放しにいくか。それでどのくらいかかるかわかる?」
「手数料だけだと思いますが…本当にいいんですか?」
「別に良い。本当に俺から離れても問題ない。エルザはもう値段以上の事をしてくれたよ」
本当にそう思う。
エルザに出会えなければ、この先俺がパーティーを組むことはなかっただろう。
「それは嘘です。あんな大金ほど働いていません」
「価値は俺が決める事であってエルザが決める事ではないよ。俺は十分受け取ったと思っているから良いんだ。俺は商売人でもないんだからこれ以上は貰いすぎだ」
エルザは涙を拭いていた。
「やっぱり僕の言う通りカイ様の常識はおかしいです」
目は真っ赤なのに満面の笑みだった。
それから奴隷館で解放した。
ルータさんは驚いた顔をしたが、「この時が仕事をしていて一番幸福を感じる時間です」と格好良い事を言って解放してくれた。
やはりこの人は他人と比べると信用できる。
詐欺師だけど…
解放後、従者か戦力かの問題は解決してないのでまた揉めてしまい、今日は助っ人を頼む日ではなかったが、解放したお祝いにいつものメンバーを連れて帰る事になった。
従者達はエルザの解放を喜んでいるように見えた。
本心はどう思っているのか…
ってそんな風に考えてしまうのは、やはり俺はおかしいのかもしれない。
解放されたわけだが、これからも一緒に住むし行動する。料理はこれからもしてくれるらしい。
料理は本当に好きらしいし、俺も一度だけ料理等の家事を手伝った事があるが予想通り…
結局出来る人がやれば良いという結論になった。
エルザにもその事をいじられた。
少しムカついたので言い返して、ちょっとした口喧嘩になってしまったが同時にどこか嬉しかった。
いつものメンバーなので、その準備中にツバキと模擬戦をした。
今日のツバキはいつもより速く、防御で手一杯だった。
何十回かの攻防の末、やられると思ったがツバキは寸止めした。
「やめや、やめ。こんなんで勝っても嬉しゅうないわ。自分の力で勝たんとな…」
「どういう事だ?」
「なんたいうか…」
バツが悪い顔をしていた。もしかして…
「…エルザからバフを受けていた事か?」
さっきまで見ていた張本人は隠れていた。
模擬戦中、少しエルザが気になってしまい、そこから崩されて立て直すことができなかった。
まぁ言い訳か…
「なんや。気づいとったん」
「人間、急にあんなに速く動けるようにはならないだろう?」
「そうやなぁ…でもなんで黙ってたん?」
「なんとなくかな…一応戦略だし、どんな手を使ってもって言ったし、一番は自分の慢心かな。それでも勝てると思っていた」
「…マジでムカつくわー。でも一矢報いてやったわ」
「そうだな。約束通りお前を買おう」
約束は約束だ。
それにエルザも譲ろうとしないし…
意外に頑固なんだよな…
「嫌やわ。ちゃんと勝ってから買うてもらうわ」
無駄なプライドだがそんなプライドがある奴は嫌いじゃない。
逆に購入の意思が固まった。
「はははっ。残念だったな。ツバキを買う事は決定事項だ。奴隷のお前に拒否権はない!…ないよな?」
ツバキは驚いた顔をした。
「ふふふっ、はははっ。確かにうちに拒否権はないかもなぁ…そいにしても、あんさんは締まらんな」
「うるさい。これでいいんだろう?下手くそな隠れ方して盗み聞きしている誰かさん」
「バレていましたか…カイ様はやはりやりますね」
「あれで隠れとったん?うちにもバレバレやったで」
「むむっ。ツバキさんもやるんですよ!」
少し怒っていたが、それよりも気になることが…
「あのーっエルザさん。ツバキをさん付けに出来るなら俺にも出来るんじゃあ?」
「…あっ!お祝いの準備をしなくっちゃ。ツバキさん勝ってくれてありがとう。カイ様は約束守ってくださいね。じゃあ」
凄い早口の後、止める隙なく家に戻っていった。
それからツバキの条件を聞いて少し問題があった。
理由を聞くと納得した。
問題は期間が短かったのだが、それは強いパーティーに加入したかったからみたいで、ダメだと思ったら期間がきたらパーティーから抜け、また奴隷になりそうなお金で装備品等を購入してたみたいだ。
まぁ加入したのは一組だけみたいだ。
そのパーティーのことは守秘義務で話せないみたいだが、興味もないので別に良い。
それにしてもツバキは上手く奴隷制度を利用してるなと思った。
だからその分安くもあるみたいだ。
それでもツバキの能力が高いので高価ではあるが、エルザに比べれば文字通り桁が違う。
俺もツバキに抜けられないように頑張らなくては…
ツバキは俺なら大丈夫と言っていたが、俺より強い奴から誘われたらそっちに行きそうだ。
ツバキはその辺りドライな気がする。
戦力も問題ないし、しっかり家事も出来る。
料理はエルザほど得意ではないが洗濯は得意なようだ。
うまく家事が分担できそうで良かった。
俺は戦力外で入ってないけど…
あとは掃除担当がいればと思ってしまう俺はダメ人間なんだろうが気にしない。
エルザから「お風呂の準備が出来ているので二人で入ってください」と言ってきて、お風呂の方に俺達を押していた。
きっとさん付けの事をうやむやにしたいのだろう。
「ツバキ一緒に入るのか?いつもは入っていないじゃないか?」
助っ人を呼んだときに、人数も少ないので元従者もお風呂に入れてあげていたが、ツバキは入らなかった。
「えぇ。うちはカイはんとなら良いですよ。買うてくれるんやろ」
エルザは(ツバキさんもしかして…)と呟いていたが…
「買いはするが…女と入るのはなぁ…」
「…えっ…ツバキさんって女の人なんですか?」
「普通に女だろう」
「えっ!?どうみてもイケメン男性ですよ。カイ様もイケメンですけど…」
顔を赤くして…って恥ずかしいなら言うな!
「…へぇ、いつから気づいとったん?」
鋭い目線で聞いてきた。
「最初からだ。趣味なのか訳ありなのかは分からないが、気にしたって変わらないからな」
「ほぅ…最初からねぇ…優しさなのかねぇ」
優しさ等ではない。
趣味でも訳ありでも他人の俺は踏み込むべきではない。と、もっともらしい事を言えてしまうが、只単に面倒臭かっただけだ。
「やっぱりダメです。カイ様から先に入ってください。ツバキさんは後で僕と入りましょう」
「エルザはん耳貸してくれへん?」
エルザが了承してエルザとツバキが共に立ち止まった。
ツバキがエルザの耳元で(うち。両方いけるんやけど…)
それを聞いたエルザは顔を真っ赤にした。
「ごめんなさい。やっぱり一人で入ってください…お願いします」
耳打ちしていたので、小さな声だったが高性能の耳には聞こえていた。
両方ってなに?
エルザは顔を真っ赤にしていたので、どういう意味か聞きたかったが、聞いてはいけない気がしてやめて風呂に入った。
従者も含めて皆がお風呂に入った。
初めの頃は従者達も断っていたが今では普通に入ってくれる。
今日は俺→ツバキ→エルザと女性元従者→男性元従者の順で入った。
ツバキは今日まで頑なに男性従者と入ってなかったのだからエルザも気づいていいだろうに…
俺に鈍いというがエルザも人の事を言えない。
ちなみに別に助っ人を風呂に入れてあげるのは優しさではない。
食事中に余計な臭いを嗅ぎたくないだけだ。と誰かに言い訳していた。
全員入浴後、豪華な夕食を皆で食べた。
晩餐中にさん付けの事を詰めてみたが、自分で考えたのか、従者の誰かにアドバイスをもらったのかは分からないが、もっともらしい理由を言っていた。
もっともらしい理由の穴を突こうと思えば突けたが、自信満々の顔で言っていたので止めておいた。
ツバキの購入のことは俺もエルザ、本人のツバキも話さなかった。
また確定ではないし、ここで話す事ではないと思った。二人も同じ考えだと思う。
晩餐の間にも出来るだけ従者達とも話そうとしたが、お互い緊張してあまり話が弾まなかったし、やはり俺はどこか人を信用できないので難しかった。
だがいつかは…と思いながら時間は過ぎていった。
最後までお読みいただきありがとうございます。




