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エタった  作者: 界人
2/10

第二話 ステ振りその1


 「ハッ!!」


 気がつくと海心たちは宇宙空間の放り出されていた。


 「な、なぁっ!?」


 「うおおお!い、いや、浮いてねえ」


 クラスメートたちは一瞬だけ混乱したが、どうもプラネタリウムのような宇宙が周囲に見えているだけで、見えない床があり、重力や酸素もいつもどおりであるとすぐに気がついた。


 「ンだここは……おぉ海心!」


 「おうオタク野郎、無事か?」


 「無事も無事だぜ、それにしても……」


 二人は現状を確かめて顔をしかめた。クラスメイトたち全員がこの謎空間に飛ばされているようで、しかもよく見るとなぜか机と椅子もきれいに置いてあった。

 この状況を嘆くように前田は言った。


 「なんで宇宙空間なんだよ……今どきは何もない白い空間に飛ばされる方がメジャーだろうがッ!」


 「え、そっち?」


 「作画カロリーが重ェだろこれじゃあ……!」


 「またそんな下らないこと言って!!」

 「いてッ!」

 「あ、左枝さん」

 横から歩いてきた左枝が前田にチョップしていた。前田は平常運転だったが、左枝はしかしわずかに不安そうな顔をしていた。



 「ねえ、なんなのよこの空間。いきなり飛ばされて気がついたらここにいたけど」

 「ああ、俺もそうだった。これ、ドッキリとかじゃなさそうだし……」


 もしかして異世界転移的なヤツじゃ……そう続けようとした二人だったが、言うまえに前田が両手で二人にデコピンした。


 「いてっ」「なにすんのよ!」


 「揃いも揃ってバカだなぁ。んなテンプレートな話より急いでこっからどうするか決める方が先だろうが」


 「いやマジなんなんだよお前……」


 「こっからどうするかってどういうことよ、何で急ぐの?」


 「こうやってダラダラ喋れる時間も限られてるかもしんねーのよ。ラノベならあと一分もすれば自称神が出てくるとこだぜ?」


 「ラノベなら、って……」


 「いや、マジな話なんだって!」


 前田が急いで続けようとした時、空間の上部に巨大な人影が発生した。その人影が片手をスッと上げると、クラスメートたちのヒソヒソ話や叫び声の音が一瞬で消え去った。


 「!、!」

 海心は自分の声が一切出なくなっていることに気がついた。


 『やあ諸君、いきなりこんな空間に連れてこられて困惑しているだろうが――』


 上空の巨大な人影が低い男の声で何やら語りはじめ、その話を聞こうとした海心だったが、チョイチョイと前田にお腹をつつかれた。つられてそちらを見ると、前田はスマホのメモを起動していて、左枝と海心に画面を向けている。そこには、


 [世界樹的なのがあればそこに集合しよう]


 と書いてあった。海心と左枝は(何の話だ?)と困惑したが、声を上げられないので尋ねることもできかった。


 『――というわけだ。では、着席してもらおうかな』


 (うおっ!ビックリした……)


 そして気がつけばクラスメートたちはそれぞれの席に座らされていた。この超常の存在が何かしたのだろうが、海心には全く理解できなかった。


 『君たちにはそれぞれのポテンシャルにもとづいてポイントを持たせているから、異世界で生きていく上で必要な技能に自由にポイントを割り振りしてくれたまえ。机の上にステータスボードを出現させたから、自分だけの意思で上手なキャラビルドを行って欲しい。そういうわけで、これから喋れるように戻すけど、周りの人には聞こえないし、他人のボードも見れないからね』


 そう言うと、海心の目の前には透き通ったなゲーム画面のようなものが出現した。他の席を見るが、彼らのボードらしきものは見当たらない。本当に自分にしか見えないようであった。


 『悪いけど、Q&Aはやっていないし、無制限にボードを弄る時間も上げられないんだ。タイマーを表示させたから、制限内でうまいことやってくれたまえよ』


 パ、と画面の右上にタイマー表示が出てきた。1:00と表示され、次の瞬間には0:59と変化した。どうやら一時間だけ用意されているらしい。


 『さあ、もう始まっているぞ!急げ急げ!!』


 (ま、マジかよ!)


 人影の声に周囲のクラスメートたちが慌てて指を動かし始め、海心も例外ではなかったのだが、前の席に座っている前田が腕を組んで考え込んでいるのを見て冷静になった。


 (そ、そうだ……やみくもにボードを叩いてもしょうがない。システムがどういう感じなのかを掴んで、それからビルドを考えた方がいい。一時間だけっつってもそこそこ長いんだ。上手に使わないと……)


 「よし、落ち着いたぞ……」

 と、声を上げるが、周囲の席を眺めても特に反応されている様子はない。


 「ホントに声は他の生徒に聞こえてないみたいだな。なら、頭ん中で考えるより、声に出して整理した方がいいだろ。独り言で状況を整理しつつ、あの人影に従ってキャラビルドしてみることにするか」

 言いつつ、海心はボードを見た。そこに表示されていたのは……



――

Name:真中海心 Age:18


筋力10 生命10

敏捷10 魔力0

器用10 幸運0


|ポイント割り振り|スキル習得|スキル確認|

――


 「これがステータスか……」


 (話の流れで忘れてたが、さっき前田がスマホで世界樹的なところで集合しようって言ってたのも気になるんだが、今はこっちに集中しよう……なになに?)

 


 「えっと、ステータスは魔力と幸運がゼロで、ほかは全部10。気になることが二点あるな。

 一つは、筋力生命敏捷器用が一律に10なこと。偶然そうなのか?それともデフォルトで全員10?

 二つ目に、魔力はともかく幸運が0なこと。そこまで不運な人生を歩んできたわけじゃないし、ゼロってのは変だ。さっきの雑談で話したみたいに、幸運ってのはいわゆる「運」のことじゃないのか?」


 海心の指が無意識に「幸運」に触れると、拡大され追加情報が表示された。


――

幸運:ステータスの一つ。ランダム判定時の確率に補正がかかる。

――


 「うわっ、びっくりした。タップすれば詳細が見れるのね……。にしてもランダム判定ってなんだ?」


――

ランダム判定:確率で発動するスキルのトリガー時などに行われる判定。確率は主にその場の状況や幸運のステータス、スキルの効果によって変動する。

――


 「なるほどね……。となると幸運はやっぱり一般的な「運の良さ」とかには無関係ってわけか。それとアイテムドロップ率にも。そもそもドロップ的な要素が異世界にあるかはともかく」


 それから海心はトントンとステータスの項目をタッチしていった。


――

筋力:ステータスの一つ。力に補正がかかる。わずかに生命・敏捷を上昇させる。


生命:ステータスの一つ。耐久力と生存力に補正がかかる。わずかに筋力を上昇させる。


敏捷:ステータスの一つ。速度に補正がかかる。わずかに器用を上昇させる。


魔力:ステータスの一つ。魔力への適正及び耐性に補正がかかる。


器用:ステータスの一つ。コントロールと索敵に補正がかかる。

――


 「なるほどね……大方予想通りと。強いて言うなら筋力生命敏捷は他ステータスを上げてくれることと、魔力が俗に言う知力と魔法防御の両方を併用していることか?珍しいのは」


 チラリと時計を見ると、まだ二分しか経っていない。そこでポチッと下にある「スキル習得」を押すと、ズラリとスキル群が表示された。


 「テストみたいなもんだ、時間配分さえ間違えなきゃいけるはず。全体的なシステムを8分で見て、軽くスキル群を見るのに10分かけて、残り40分はその後にどう使うか考えることにしよう」


方針を決定し、海心は一度深呼吸した。急展開の中である程度冷静に優先順位をつけて考えをつけてきたつもりだったが、まだ頭が浮かれている気分であったからだ。

 

 その時、彼の視界には前に座っている男の姿が入っていた。


 (ん……?前田……?)


 机の上に腕を放り出し、突っ伏してピクリともしない友人――。


 「ま、まさかこいつ……」




   ――寝てる……!!







 平常運転の友人の姿(開始2分で居眠り)を見て逆に落ち着いた海心はゆっくりとボードを確認しはじめた。


――

Name:真中海心 Age:18


筋力10 生命10

敏捷10 魔力0

器用10 幸運0


|ポイント割り振り|スキル習得|スキル確認|

――


 「まずはポイントを割り振りを押してみるか」


――

筋力10+ 生命10+

敏捷10+ 魔力0+

器用10+ 幸運0+


現在:65p 

|極振り|均等|確定|戻る| 

――


 「さっきのステータスの10とか0ってのはポイント量のことだったのか……手持ちは65ポイントで、あと最初から筋力生命敏捷器用に10だけデフォルトで用意されてるわけね」

 ためしに筋力の+の文字を押すと、値が11に増え、手持ちは64に減少した。隣にーが出てきたので、タッチするともとに戻った。


 「極振りボタンはわかるとして、均等ってなんだ?」


――


筋力20+ 生命20+

敏捷20+ 魔力10+

器用20+ 幸運10+


現在:5 

|極振り|均等|確定|戻る|

 

――


 「あぁ、ポイントを均等に割りふるのか……誰がやるんだこれ?」


 そう言ってから海心はふと思い至った。


 (そういや、自由度高くみせかけるためにステ振り要素あるけど、上がるにつれて必要ポイントが上がって、結局バランスよく振る以外選択肢なくなるタイプのゲーム、ちょくちょくあったよな……?)


 自分が行く異世界ではどうなのだろうか?少しだけそう考えたが、現段階では考察材料が足りないと判断し、今度は「スキル習得」の欄を見てみることにした。


 「へー、ここがスキル欄か。色んなカテゴリーがあるね」


――


|→ボード|魔法|技能|その他|


助言:ボードの内容について追加情報が付け加えられる。 10p


整理:ボードが個人に応じて見やすく変更される。 2p


盗み見:他人のボードの内容が確認できるようになる。(限定) 2p


ギャンブル:この場で好きなようにポイントを賭け、半々の確率で倍になるか、失うかのギャンブルができる。(限定) ーp


鑑定表示:鑑定した対象のステータスや情報を文字としてボードに出力できるようになる。 5p

 

現在:45p


|次のページへ|戻る|

――


 「ボードってカテゴリはそのまんまボードの機能の強化か……(限定)ってなんだ」


――

盗み見(限定):この空間でしか使用及び取得できない。


ギャンブル(限定):この空間でしか使用及び取得できない。

――


 (ん?わざわざ(限定)ってつけてまで指定してるってことは、他のスキル取得とかに関しては、向こうに行ってからも任意でいつでもできるってことなのか?)


 もしかしたら、一部のゲームのように「神殿」のような施設でなければ弄れない、といった制約があるかもしれないが、どうもこの宇宙空間で慌ててポイントを全て使い切る必要はない可能性も十分にあると海心は気がついた。


 「向こうの手がかりがない以上、ボードから情報を得るのはかなり大事だな……。追加情報が出てくる、って説明文のスキルで「助言」ってのが別にあるが、上手くステ振りするためにはこれもあった方がいいかもしれない、変な落とし穴があるかもしれないし」


――

助言:ボードの内容について追加情報が付け加えられる。 10p

――


 (いや……でも10pってのは流石に高すぎる……。ポイント割り振りページと違って「確定」ボタンがないから、多分取るだけ取って助言見てから取得キャンセル、とかもできないだろうし、まだスルーせざるを得ないか)


 ため息をつきながら今度は「魔法」の欄を見ると、そこには火水土……と属性らしきものの区分に分けられたページが存在し、一番上の火属性のところには

――

ファイアボール:少し魔力を消費し火の玉を打ち出す魔法。 1p

――

 などと書かれていた。


 「魔法はなんかありがちな内容だな……弱そうなやつとか消費ポイントが少ないから、余ったら振るくらいの感覚でいこう、技能は?」


――

|→武術|パッシブ|体質|戻る|


剣術D:武術技能の一つ。剣に関する補正及びアーツを得る 5p


槍術D:武術技能の一つ。槍に関する補正及びアーツを得る 5p


斧術D:武術技能の一つ。斧に関する……

――


 「これまたありがちだな。Dってのは?……なるほど、ランクか。アーツは……必殺技的なのか」

 タップで詳細を見つつスクロールしていく。かなり膨大な量で、おおよそ全ての武具に関する武術があった。


――

|武術|→パッシブ|体質|戻る|


獅子の心:近接戦闘時、勇気に補正がかかる。 5p


蛇の心:近接戦闘時、冷静さに補正がかかる。 5p


鹿の心:逃走時、敏感さに補正がかかる。 5p


ラッキーパンチ:近接攻撃時、当たる余地があれば5%の確率で命中する動きになる。 5p


ラッキーショット:遠隔攻撃時、十分に当たる余地があれば5%の確率で……

――


 「結構あるな……幸運ステータスが反映されるのはここのスキルで、5%ってのが増加するのかな?多分」


 続いて体質……と見ようとした所で、タイマーを見ると残り50分である。既に10分が経過していた。


 「予定ではざっと見終わってる時間だが、思ったよりボードの要素が多いから間に合ってないな。うーん……どうするか……。」


 少し考えてから、海心はスケジュールを変更した。


 「ステ振りの時間が多少削れるが、急がずこのペースのまま、最後までボードの中身を確認することにしよう。流し見して大事な部分を見逃したりしたくないしな……」


 そう決めて海心は再度ボードに向き直った。彼のようにゆっくりと確認している者がまだ多いが、すでにポイントを使い始めているクラスメートたちもおり、個人個人で時間の使い方に差が出始める頃合いである。正面の席では、前田が短い眠りからようやく覚め、う~んよく寝た、と伸びをしていた。

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