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エタった  作者: 界人
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第一話 高校生活最後のだべり

 真中まなか 海心かいしんは今年で高3となる平凡な18歳の一人である。趣味を聞かれれば「ゲームが好き」、スポーツは得意かと問われれば「まぁまぁ」と答えるイマドキ本当にありきたりな男である。


 その日は共通テスト受験一ヶ月前で、大半の生徒が勉強にいそしむ中、彼は友達とのんきに雑談していた。


 「海心よぉ、もしもの話だがよ、オメーは異世界行くならどういうロールにする?」

 

 「この大切な時期に何の話だよ。あーでもなんだろうなぁ。騎士かなぁ」


 海心に問いかけた男の名は前田。

 ラノベやゲーム、アニメにマンガとオタクらしいオタク要素はだいたい網羅した海心のクラス一番の友人である。

 オタクらしからぬ社交的でフレンドリーな性格とスタイルの良さが幸いしたのか、学年どころか学校全体で友達がいるレベルの人気者で、地頭が良く成績優秀なため非の打ち所がない。オタク趣味をオープンにしているにも関わらず嫌われることもなく、知らない女子から告白されることすら珍しくないのだとか。

 周囲からは、親しみを込めて前田ではなくオタク野郎と呼ばれることも少なくないが、それを時折先生にイジメかなんかかと勘違いされることがあるとのこと。ちなみに下の名前は「ゆうき」だが、みな「前田」か「オタク」「オタク野郎」と呼び、「ゆうき」と呼んでいる人は誰もいない。



 「ふむ、騎士。その心は?」


 「ええ?なんかこう、異世界って治安悪そうだし、不意に襲われても死ななそうじゃない?」


STR、INT、VIT……意味も無く紙に書き出しながら友人は言った。

 「なるほどね……防御ビルドか」


 「それにさ、VITってバイタリティの略だろ?衛生面で考えてもさ、俺たちの考える異世界じゃどうせすぐお腹こわしたり病気になりそうな感じあるから、生命力が強いのは結構いいんじゃないかって」


 そこまで説明した所で海心は前田を見た。手で顔を抑え俯いている。プルプル震えているのを見るに、どうやら笑いを堪えているらしい。


 「なんだよ」


 「プクク…クク……ハハハハハハハハハハハ!!聞いといてなんだが、つまらないビルドだなぁ!」


 「ひどい」

 しょげる海心を尻目に友人はLUKと書かれた部分を大きくマルで囲った。


 「時代はなぁ!幸運なんだよ、こ・う・う・ん!!!」

 「うるさい!」

 「のあっ」


 真横で勉強していた女子がキレて消しゴムを投げつけた。ぶつけられた友人が頭をさすりながら解説する。


 「たとえば今みたいなケース……もしも敏捷があったとしても気づかなければ避けられないが、幸運ビルドなら運良く避けれるか、消しゴムが外れるはずだ」


 「VITに振ればそもそも耐えられるんじゃ」

 「それだけじゃねえぜ!!!」

 「だからうるさいって!」


 今度はシャーペンが飛んできてオタク野郎に突き刺さった。


 「幸運ってのは普遍的に役立つんだよ。何かとラッキーだからな、たとえば運悪く道に迷った時も正解が選べるし、街道を歩いてて盗賊に襲われることも少ないだろう。お前はさっき衛生面の話をしたが、それだってLUKがありゃ、変な物食って腹壊したり、運悪く病気になったりも避けれるはずだぜ」


 「うーん、そういうものかなぁ」

 

 「ちょっとそれって都合よくない?」

 と、横の女子が勉強を諦めたのか話に加わってきた。海心の友人は面倒なオタクなので突っかかってきた女子に徹底抗弁の構えで「ハァ~?俺の完璧なビルドに何の文句があるってんだ!いやない!」と言い返した。海心は(何故反語……?)と思ったが、面倒なのでツッコまなかった。


 

 「いや、まず幸運がそのまま幸運に繋がるのがそもそもおかしくない?」


 「えぇ?」


 女子は彼の手元の紙に書かれたINTを指差した。


 「INTってのは知力の略じゃん?ゲームの話か漫画の話か知らないけど、別にINTが圧倒的に高い人が他人よりめっぽう賢いってことはないんじゃない?一般的にINTで変わるのはあくまで魔法の威力とか詠唱速度とかでしょ」


 「む、むう。それがどうした」


 「LUKもそれと同じでさ、単純なアイテムドロップ率とかが増加するだけで、別に人よりラッキーになるってことはないんじゃない?」


 「な、何ィッ……!?」

 前田はそう言われて吹き飛んだ。言われればそんな気がしたのだ。


 それに、彼が昨日遊んだゲームで主人公を幸運極振りしたところ、ドロップ率とカジノの勝率だけがやたら高いだけのクソザコナメクジが完成したのもまた事実であった。(ちなみにそのゲームはカジノで稼いで得た金で大量の回復薬を買い、仲間にレア装備を持たせて無理矢理ゴリ押しした。)



 「左枝さんってVITとかそういうの分かるんだ、女子にしては珍しくない?」

 「まあ、昔よくネトゲとかしてたからね」

 と、彼女は海心の質問に答えた。


 彼女の名は左枝さえだまみ。身長は普通、趣味はテニス、髪型はテニスの邪魔にならないポニーテール……というプロフィール。いわゆるアウトドア派でサブカルに興味など無さそう、というのが海心からみた印象だったので少し意外に感じた。左枝とは今回の席替えで隣に来た時に2,3回話した程度の付き合いしかなく、知る機会もなかったのだ。




 「くっ、確かに“幸運”がほぼ死にステなら、幸運極振りした所で妙にアイテムドロップが良いだけの雑魚が完成するだけかもしれない……それは認めよう……」

 と、ここで先程吹き飛んだ前田が戻ってきて左枝に指をビシッと突きつけた。


 「だが左枝ァ!確かに幸運極振りはお前の言う通り微妙かもしれないが、大事なのはロマンなんだよロマン!幸運はロマン!極振りもロマン!女子のお前にはわからんだろうなァ!」


 「男子の俺にも良くわからないが……?」


 「んー、わたし極振りは結構好きだけどなぁ」


 「何だ~?適当なこと言ってんじゃねぇぞ~?」


 「適当って……中学生の時やってたネトゲで魔力極振りで遊んでたよ?」


 「へー、無茶なことやるんだなぁ、意外」

 と海心が言うと、左枝は珍しいことでもないと答えた。


 「いや、ネトゲによっては極振りって当たり前なこともあるわよ?DPSが大事な世界だから、上位クランとかだと極振り以外お断りなんて普通にあるし」


 「あ、そうなんだ」


 「そうよ。事前にサイトで調べて極振りしたから私は上位クランに入れたけど、周りの同レベルの一般プレイヤーたちは課金して振り直さないとどうにもならない状況になっててかわいそうだったもの」


 「ネットリテラシー?ってのは大事だね」


 「ちなみにそのクランだけど、当時はネトゲで女子ってバレるのがあんま良くないって知らなかったから私がJCバレしちゃって、それが原因でクランリーダーが粘着してきて、最後は垢BANされてクランは崩壊したわ」


 「……ネットリテラシーってのは大事だね」





 「……ンじゃあ、結局左枝は仮に異世界転移すんなら魔力に極振りすんのか?」

 そう前田が聞くと左枝は首を横に振った。


 「いやー絶対したくないわ。ネトゲならルーチンが分かりきった同じモンスターを短時間で何周もするだけだからDPSさえあれば良かったけど、パターン化できない相手と殺し合って、しかもタンクがミスればワンパンで人生終了のパーティープレイなんて怖すぎるでしょ」


 「それもそうか」


 「まあ魔法を使ってみたい!って理由で多少魔力を振ることはあるかもしれないけど」


 「たしかに俺も使ってみたいな」


 「海心は騎士だから使えなくねえか?あーでも聖騎士みたいなジョブの選択肢もあるのか」


 「あとは……暗黒騎士とかカッコイイんじゃないかしら?」


 「なんだよ左枝ァ……わかってんじゃねえか~!」

 前田はガシッと両手で左枝と握手した。

 「ああもうウザい!さわんな!」

 左枝はパンっと手を払うと、前田の頭に定規を突き刺した。


 「いてェ~!」

 (この前田とかいう男、何故こんなキャラで嫌われずに人気者なんだろう……謎だ……)


 海心が畏怖の目で前田を見ていると、左枝がさらに質問をしてきた。


 「全くもう……ちなみに海心くんは聖騎士にするの?暗黒騎士にするの?」


 「この話続けるの……?」

 と海心が言うが、前田は頭から血を吹き出しながらやれやれ、と否定した。


 「あのな海心、妄想を楽しんで許されるのは高校生までなんだ。高3の俺たちゃここで一生分の妄想をしとかなきゃ勿体ねえだろう?」


 (このレベルの妄想が許されるのは中学生くらいまでだと思うが……)

 「まあ一応答えるなら聖騎士だろ」


 「嘘だろ、海心は闇に魅せられてないのか?」


 「いやかっこいいとは思うけど社会的な立場は聖騎士が結構高そうだなって」


 「たしかに……世界観によっては闇属性な職とかは弾圧されてそうだわ」


 「く、聖騎士は教会直属のエリート兵的な立ち位置なことも多いしな、月給も良さそうだぜ。やるじゃねえか海心」


 二人は悔しそうな顔をしながらも勝手に敗北を認めた。適当に言っただけなのに……なんなんだこいつらは、と海心は心の中でちょっと引いた。


 それよりも海心はいくら休み時間とはいえ受験勉強で忙しそうな教室でこの下らない会話を続けるのがなんだか恥ずかしくなって来たので、「俺もそろそろ勉強に戻るから……」と言うと、前田は「えェ~つまんねえなぁ」と渋ったものの引き留めることなく椅子を戻した。


 「だがな海心、男児たるものいつ足元に召喚陣が出てきて異世界に飛ばされても問題ないように準備できてないといけないからな。勉強で遊ぶのもほどほどにしとけよ」

 「どういう忠告だよ」


 「ねえ二人とも、召喚陣ってこういうの?」


 「「え?」」


 左枝は足元を指差した。いつの間にか巨大な魔法陣が教室全体に展開され、まばゆい光を放っていた。周りのクラスメートたちも気づいたのか声を上げている。


 「おっおい前田!お前のイタズラにしちゃあ手が混んでるじゃないか!」


 「ばっバカ!これは俺の仕業じゃな――――」




  ――そして光が、教室を飲み込んだ。




              

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