雷也と風夢
「ねえ、バクさんとトドさんはどこに行ったの?」
灰色の涙を流しながら雷也は言った。
「お天道様の所へ行ったんだよ。さあ、雲の端っこから落ちたら危ないから帰ろう。」
静かに風夢は言った。
その日はずーっと雨が降っていた。
「ねえ、あの真っ黒な雲は何?鳥さんが困ってるよ?」
また灰色の涙を流しながら雷也は言った。
「あれは愚かな人間が空に捨てた汚れた空気さ。あれに触れたら僕らはたちまち体が粉々になって消えてしまうんだ。」
「どうして人間さんはそんな事をするの?」
「人間には僕らの声が届かないんだ。だから悪い事をしてるって気づけない。」
雷也の目からは相変わらず灰色涙が零れ落ちていた。その日もずーっと雨だった。
「お水が汚くなって困ってるってお魚さんが言ってるよ。助けてって言ってる。」
雷也の目からは相変わらず灰色の涙が流れている。
「僕らには何も出来ないよ。人間は信仰を捨てたんだ。もうどうしようもない。」
「どうしようもないの?」
「どうしようもないんだ。」
それを聞いた雷也はいっそう激しく泣いた。その日は豪雨と強風が相まってとても荒れた天気となった。
「雷也、今日は動物さんとおしゃべりしないのかい?」
風夢が優しく尋ねた。
「誰もお話してくれないの。お魚さんは汚い水でいなくなって、陸の動物さんたちも居場所が無くなって困り果ててるよ。」
風夢は何も言えずに、ただ雷也を抱きしめた。雷也の目からこぼれるの灰の色が、少し濃くなっていた。雨は降りやまなかった。
その日、風夢が見た時、雷也は雲の端に立っていた。その目からは相変わらず涙がこぼれていた。
「何してるんだ雷也!雲の端は危ないと言っただろう!戻って来い!」
「みんなが言うんだ。お前の涙が僕たちを困らせているって。お前の涙がこの雨を降らせてるんだって。それで僕、涙が止まらないんだ。」
「違う!お前のせいじゃない。お前の涙はこの星の悲しみなんだ。人間に傷つけられた星の悲しみを、お前が受け止めてくれているんだよ!」
風夢は今までに無いほど怖い声を出して言った。けれど、無駄だった。
「そっか。じゃあこの星が笑ってくれると良いね。」
そう言って雷也は軽やかに飛び降りた。その体は、黒い雲に呑まれて粉々になり、地表へと降り注いだ。
その日、温暖化で滅びつつあった地球に、実に50年ぶりに雪が降った。




