お祖母ちゃん
「久しぶりねぇ、聲」
目の前に、死んだお祖母ちゃんがいた。
背筋をシャンと伸ばし、正座をして手には湯飲みを持っている。
白く染まった髪を後ろで、お団子で結っていて。
生前のガンで亡くなる前の、凛とした佇まいで微笑んでいる、紗矢お祖母ちゃんだった。
「聲、こちらにお座り。お茶でも飲んで一息つきな」
私は言われるまま、お祖母ちゃんの前に机を挟んで
正面に座った。
湯飲みを持って、お茶をすする。
妙な気分だ。
死んだお祖母ちゃんが出てくるなんて。
やっぱり夢なのかなあ?
「みんな元気にやってるかい?」
「うん。お母さんは相変わらすだけどね」
「久美は変わらないか、仕方ないねえ。聲は、最後に見た時より、なんだか元気になったねえ」
「うん。とっても大事な人が出来たんだ」
「いい笑顔だ。良い人なんだね」
「うん。だいぶ変.......変な所あるけど、変な所しかないけど。それでも一緒にいて安心できる人。今、1番気になる人」
「うん、そうかい。私は、聲の事が気になってたからね。聲の側にいてくれる人が出来てよかった。男前かい?」
「.......男前な時もある」
「いつか、紹介してね。お墓参りでいいからさ」
「お祖母ちゃん、これ私の夢?」
「どうだろうね?自分で夢の中と自覚してるのだとしたら、それはもう現実だけど.......だけど」
「だけど?」
「私達の家系は、いわゆる霊能の力を持った人間が出るからね。聲も、私も。ちょいと普通より感度が高いのさ。久美は無かったけどね」
「じゃあ、これは夢だけど只の夢じゃなくて、お祖母ちゃんも本物?」
「どっちでもいいんじゃないかね?さあ、一息ついたらお行き。久しぶりに顔を見れてよかった。聲の大事な、相方が待ってるよ」
「!!」
お祖母ちゃん、全部お見通しだったんだ!
涼しげに、優しく微笑んでいるお祖母ちゃん。
送り出してくれたけど、七菜さんはどこだ?
いや、会えるのは確定してるけど。
つらつらと廊下を歩いていると、人の気配のする部屋があった。
「な、七菜さ~ん?」
そろそろと、襖を開けた。
誰もいなかった。
誰もいない。
しかし、変だ。
食べかけのお膳があって、湯飲みのお茶からは、湯気がたっている。
つい先ほどまで、誰かいたような?
嫌な感じはしない。
ふと見やると
机の上に鈴があった。
綺麗な綺麗な、鈴が。
見ていると、吸い込まれるような。
心奪われる逸品だった。
見比べるのも分からないけど、いいモノに感じた。
「持っていっていいよ」
どこからか、子供の声が聞こえた。
いや、駄目、駄目。
夢の中とはいえ、泥棒だよ。
凄くいいなと思ったけど。
「その鈴が、大事な人を呼んでくれるよ」
また、子供の声。
んー、まあそーなら仕方ないのかなあ。
んー。
私は、悪い事をした気分で鈴を胸のポケットに、しまった。
チリリン
軽やかな鈴の音色が、誰もいない部屋で響いた。
続く