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記憶喪失の裏切り勇者  作者: 風魔
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2話 新しいお母さん

母親を失ったルーカスは、父親と、妹のソフィアと暮らしていた。

ソフィアは母親に会うことを願い、父親はシリウス家との結婚をどうするのか決断する。


 「ルーカス、起きろ、朝だぞ。」


お父さんの声で、目が覚める。昨晩はいつもより遅かったせいか、寝坊してしまったみたいだ。朝食は僕が手伝うまでもなく、既に出来上がっている。


「ごめんなさい、お父さん、寝坊しちゃった。」

「昨日は遅かったからな、たまにはいいだろう。」

「結婚どうするか決まったの?」

「ああ、ソフィアのこともあるし、上級貴族の話を断れるとは思えんからな。受けようと思う。お前たちには苦労を掛けるかもしれないが。」

「大丈夫だよ!ソフィアは僕が守るから!お母さんと約束したもん!」

「そうだな、任せたぞ。」


お父さんはシリウス家との結婚を決めたみたいだ。あの後も1人で考えていたのか、少し眠そうな気がする。いったいどんな人なんだろうな。優しい人だといいけど・・・。


「今日は、シリウス家に行ってくる。仕事は休んだから遅くはならないはずだが、昼食はいつも通り2人で食べてくれ。」

「うん!行ってらっしゃい!」

「ああ、行ってきます。」


そう言って、お父さんは家を出て行った。ソフィアを起こして朝食にしなきゃ。何の変わりも無い、いつもの生活が始まった。




 今日縁談を受けに行くシリウス家は、クロード家より上の上級貴族だ。話はあちらから来たとはいえ、失礼を働けば何をされるかは分からない。この国の階級制度は絶対だ。王族、上級貴族、中級貴族、下級貴族、平民、奴隷に分かれており、上の者に逆らうことは許されない。この縁談もそのうち断れなくなっただろうな。金が無い上に、下級貴族の俺と結婚する意図は分からんが、恐らく元ハンターであることを聞きつけたのだろう。ハンターは魔物を討伐して金を稼ぐため、筋力か魔力に秀でている必要がある。一般的に、魔力は血筋に影響されるが、俺は魔法はからっきしで、剣技を頼りに戦っていたから、特に利点はないはずだが・・・。まあ上級貴族のことだ、細かくは知らんのだろうな。もっとも、30代にもなって結婚出来ないから焦っているというのが大きいだろうが。

 さて、シリウス家の別邸に着いた。別邸とは言っても、俺の家よりは十分大きい。そう考えると少し緊張するな。こちらは下級貴族でなめられているだろうから、堂々とせねば。


「ミリアルド・クロードであります。先日のお話のご相談をしに参りました。」


大扉をノックし、告げる。そう長いこと待たんうちに、大扉が開き、正装をした初老の執事が現れる。先日この話を持ってきた者だ。


「おお、クロード様。お待ちしておりました。お嬢様を読んで参りますので、応接間にてしばしお待ちください。」


そう残して、執事は2階へ上がっていった。言われた通り応接間で待たせてもらおう。それにしても豪華な部屋だ。至る所に金銀、宝石、絵画が散りばめられており、下品さすら感じさせるものだ。上級貴族は金遣いが荒いと聞くが、どうやら本当のようだな。今の収入のまま家計を回すことは厳しそうだ。再びハンターに戻ることも考える必要があるかもしれん。

 今後の生活について考えを巡らしていると、足音が聞こえてきた。念のため身なりを確認しておこう。扉が開かれ、先程の執事に続き、1人の女性が入ってきた。背は一般的な女性と同じぐらいなのだが、横幅がすさまじい。普通の2倍はあるのではないか。我がままを言い、好き勝手食べてきたことが容易に想像できる。・・・まずいな、食費がかなり嵩みそうだ。髪は上級貴族の例に漏れずに金、目は黒い。30代と聞いていたが、もっと老けて見える。


「こちらが、ソレイユ・シリウス様にございます。本日は当方の話についてということで・・・」

「お黙り、セバスチャン。私はこのようなみすぼらしい下級貴族如きと結婚する気はありません。」

「この前も、そのように仰って婚約を破棄されたのではないですか。今回も駄目なら離縁だと奥様が・・・」


・・・非常にまずい、予想以上だ。上級貴族ということ、普段の噂を聞いて覚悟はしていたが、ここまでとは・・・。これでは、ソフィアに母親というものを教えてやれん。しかし、ここまで来てしまった以上、逃げることは出来ない。仮に逃げれば、汚名を着せられて、クロード家は潰されるだろうな。俺がそんなことを考えている間も、お構いなしに言い争っている。


「・・・ですから、奥様と離縁させられてしまえば、贅沢どころか生活すら出来なくなってしまいます。どうか、今回こそは・・・。」

「仕方ありません。今回だけは従うとしましょう。そこの者、シリウス家の娘である、この私を妻にすることを許してやります。光栄に思い、存分に尽くしなさい。」

「お嬢様!そのような発言は慎むようにと・・・。」


本当にこの先が心配だ。上手く交渉して金の支援をしてもらう方向にしたいものだ。


「まあ、落ち着いてください。シリウス家は上級貴族、クロード家は下級貴族ですから致し方ないでしょう。しかし、私も無条件で好き勝手させるわけにはいきません。そこで相談なのですが・・・」


 2時間ほどが経っただろうか、途中でソレイユは退出してしまったが、何とか支援をしてもらえることになった。あとはルーカスとソフィアについてだが、何とかするしかあるまい。式は行わず、約1週間後に我が家に来るようだから、帰ってからじっくり話すとしよう。本当にあいつらには苦労を掛ける。



 お昼ご飯を食べてしばらくしてから、お父さんが帰ってきた。


「ルーカス、ソフィア、帰ったぞー。」

「お帰りー、お父さん!」

「お帰りなさい!」

「ああ、ただいま。」

「お話、どうだった?」

「そのことだが、2人には色々話すことがある。リビングでじっくり話そう。」

「はーい!」

「僕、お茶淹れてくるね。」

「よろしく頼む。」


ソフィアにも聞かせるなら結婚は決まったみたいだけど、色々ってことは他にも何かあるのかな。悪い知らせじゃないといいな・・・。3人分のお茶を注いで、リビングに向かう。お父さんは何か重要なことがあるときは、必ず家族に報告する。隠し事はしない、真面目な人だからね。


「お父さん、お待たせ。」

「ああ、ありがとう。じゃあ話そうか。ルーカスは知っているだろうが、父さんはシリウス家のご令嬢と結婚することになった。1週間後ぐらいに来るらしい。お前たちにとって、新しい母さんができるということだ。」

「お母さんに会えるの!やった!」

「落ち着いてよ、ソフィア。まずはお父さんの話を聞こう。」

「分かった。」

「そこまでは良いのだが、残念ながら前の母さんのように優しい人では無さそうだ。自分勝手に振る舞ってくるだろう。何とかシリウス家から支援してもらえることになったが、それだけでは厳しいかもしれないし、お前たちが苦労することも増えるかもしれない。本当にすまない。」

「やっぱり噂通りの人だったんだ・・・。」


お金を使ってばっかりで、自分勝手。そんな噂が本当な人がお母さんになるなんて、心配だ。


「そうだな。だが、父さんたちは下級貴族だ。断った時に家ごと潰される可能性を考えると、受けるしかなかったかもしれない。」

「階級制度って嫌だね。」

「仕方のない話だ。それでも断れなかったのは、父さんの責任だ。すまないな。」

「大丈夫だよ、お父さんは悪くないよ!」

「ありがとう。取り敢えず、金のことは解決しておきたい。少しでも給料が上がるように、父さんはハンターに戻ることにする。」


父さんは僕が生まれるちょっと前まで、ハンターをやっていた。マモノを倒す危険な仕事な分、お給料は他の仕事より高い。


「ハンターって危険なんでしょ?お父さんが怪我したら大変だよ。」

「それでも、金が尽きるよりはマシだろう。大丈夫だ。父さんも昔は結構強かったからな。それに、ハンターになれば、家にいる時間は今とあまり変わらないだろうが、家で仕事をすることはなくなる。そうすれば、お前たちとも少しは遊んでやれるだろう。」

「本当!やったね、ソフィア!」

「うん!楽しみ!」

「あまりお金は使えないけどな。まあ、楽しみにしててくれ。話は終わりだ。何か聞きたいことはあるか?」


聞きたいことは、特に無いかな。お父さんがしっかり説明してくれたし。家で時間が取れるなら、前から考えてたことを頼んでみようかな。


「僕は無いけど、後でお父さんと2人で話したい。」

「私は大丈夫。お兄ちゃん、話って?。」

「ちょっとね。ソフィアには関係ないから大丈夫だよ。」

「うん、分かった。」

「じゃあ、この後仕事部屋に来い。もう、あの部屋で仕事はしないか。」

「分かった。」


お父さんがあの部屋で仕事をしているのは、結構かっこよかったんだけどな。もう見れないのは、少し寂しいかも。

 お父さんと一緒に、お仕事部屋に入って、昨夜話をしたのと同じように座る。


「それで、話ってなんだ?」

「あのね、お父さん、僕に剣を教えて。」

「剣を?」

「うん。僕も大きくなってきたし、ソフィアを守れるようにしたいのと、いつか僕もハンターになって、お父さんを手伝いたいんだ。」

「そうだな・・・。いいか、ルーカス?ハンターっていうのは、魔物と戦う仕事だ。それなりの危険はあるし、絶対に上手くいくとは限らない。一歩間違えれば、自分だけじゃなく、仲間を怪我させることにもなるかもしれないんだ。その覚悟はあるのか?」

「今は、まだ分からない。でも、覚悟ができた時に、戦わなきゃいけない時に、何も出来ないのは嫌なんだ。それじゃ駄目かな?」

「なら、父さんはお前にハンターになることは許せない。覚悟が出来てないのに戦っても、いい結果は出ない。」

「やっぱりそうだよね・・・。」

「だが、剣を教えて欲しいというのは分かった。父さんが家にいる時は、稽古をつけてやろう。ただし、厳しくいくぞ?」

「いいの!ありがとう、お父さん!僕、頑張るよ!」


父さんが許してくれるかは心配だったけど、教えてくれることになって良かった。これから、頑張って力をつけていくんだ。


「じゃあ、父さんはハンター組合に行ってくる。ついでに、稽古用の木剣も買ってくるとしよう。夕方には戻るから、ソフィアと待っていてくれ。」

「はーい!。」


剣を上手く使えれば、ユウシャみたいにマオウを倒せるのかな?かっこいいけど、欲張っちゃいけないね。お母さんと約束した通り、ソフィアを守れる強さは欲しいな。僕はそう決意したのだった。

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