第0章 プロローグ 1話 ある日の日常
始めて書いた小説なので問題は多いですが、感想など送って頂けると幸いです。
第0章では、主人公が勇者となる前の話をしていきます。
あらすじの内容は第1章から始まりますが、第0章を読んでいる前提で
物語は進んでいくので、第0章から読んで頂くことをお勧めします。
更新は不定期です。
「ルーカス、お母さんがいなくなったら・・・あなたがソフィアを助けるのですよ?・・・あなたは、お兄ちゃん・・・なのです・・・から・・・ね・・・。」
そう言って、僕のお母さんは、静かに目を閉じる。
目を覚ますと、そこは見慣れたリビングだった。
「まただ・・・。」
僕が5歳の時に、お母さんが病気で死んでしまってから、よく見る夢だ。お母さんが、最後に僕に残した言葉。
どうやら、妹のソフィアに読み聞かせをしながら、自分も寝てしまったみたいだ。ソフィアは隣で気持ちよさそうに眠っている。
あの時は、何をすればいいのか良く分からなかったけど、こうして読み聞かせをするぐらいなら、9歳の僕でも十分できる。
「お、起きたかルーカス。ちょっと鍋の火を見ていてくれ。」
お父さんの声だ。お母さんがいない分、お父さんは外で働いて、家事もやっている。僕も手伝ってはいるけど、それでも忙しいことには変わりない。
「はーい!」
お父さんに言われた通り、台所に向かう。上級貴族だと、メイドさんとか執事さんがいて、お料理をしてくれるみたいだけど、僕たちクロード家は下級貴族。
ちょっと大きな家に住んでいるだけで、領地とか税収があるわけではない。お父さんが働いていても、贅沢して暮らすことはできない。
僕が鍋を見ている間も、お父さんはお洗濯したり、お掃除したり頑張っている。僕がもっと大きくなったら、お父さんを助けてあげなきゃ。
そんなことを考えていると、お鍋がグツグツ煮えてきた。にんじんに串を刺すと、軽い力で通る。
「お父さーん!もうできそうだよー!」
「そうか。じゃあソフィアを起こしてやってくれ。」
「うん!」
ソファでぐっすり寝ているソフィアを起こしに行く。気持ちよく寝ているところを起こすのは、ちょっと可哀想だけど。
「ソフィアー、ご飯だよー、起きてー。」
声をかけても起きない。ソフィアは一度寝ちゃうとなかなか起きないんだよね。
「ソフィアー、起きないとお兄ちゃんが全部食べちゃうぞー。」
声をかけながら、少し強く揺さぶってみる。あんまり強いと寝起きの機嫌が悪くなるから、加減が難しい。
「・・・ぅ・・・うぅあ・・・」
「ソフィアー、早くー。」
「・・・う・・・お兄ちゃん・・・?」
「ご飯ができたよ、ソフィア。」
「・・・起きる。」
やっと起きた。今日は上手くいったみたいだ。この間は猫みたいに引っ掻かれたからね。
お父さんも戻ってきたし、3人で食事につく。
「「「いただきまーす!」」」
お昼はお父さんが仕事で、ソフィアと2人で食べているけど、やっぱり3人で食べる方が美味しいな。
「お父さんの作る料理は、やっぱりポトフが一番だね!」
「そうかそうか、また今度作ってやるからな。ソフィア、熱いから気をつけろよ。」
「うん!」
「はい。お父さん。」
そんな他愛ない話をしながら、家族で食べるご飯は楽しい。本当はお母さんがいたらもっと楽しいのかもしれないけど。
「もっとお母さんの料理、食べたかったなー。」
「・・・そうだな。」
お母さんのことを考えていたせいで、つい口に出してしまった。お父さんはお母さんの話をすると、いつも少し寂しそうな顔をする。でも、今日はどこか難しいことを考えているようにも見える。
「お父さん、なんで私にはお母さんがいないの?」
「「・・・・・・。」」
僕とお父さんは黙ってしまう。お母さんが死んでしまった時、3歳年下のソフィアはまだ2歳だったから、お母さんの記憶はほとんどないのだ。
「お母さんは、お前が小さい時に、遠くに行ってしまってな。会うことはできないんだ。」
「嫌だ!私もお母さんに会いたい!」
やってしまった。この話をするのはソフィアにも、お父さんにも良くないことは知ってたのに。
「大丈夫だ。今はお母さんと会うことはできないが、お前がいい子にしていたら、いつかきっと会えるぞ。」
「本当に・・・?」
「ああ。きっと今もお星様になって、お前のことを見守ってくれているさ。」
「わかった!じゃあ私いい子にして待ってる!」
お父さんが何とか誤魔化す。ソフィアに辛い思いはさせたくないけど、ずっと嘘をつくのも辛い。
お父さんはやっぱり何か考えているみたいだ。
「お父さん、何か考え事?」
「ん?ああ・・・ちょっとな。まあ、お前が気にすることではないさ。」
「大丈夫?僕手伝うよ?」
「大丈夫だ。お前はソフィアを見てやってくれ。」
「うん・・・。」
聞いてみても、お父さんは大丈夫だとしか言わない。普段は疲れとかを顔に出すことはないから、心配だけど、大丈夫だと言うなら、そう思うしかない。
その後も、3人で1日の出来事を話したり、聞いたりして楽しいご飯の時は過ぎて行った。
「ルーカス、ソフィアが寝た後、少し話がある。」
「どうしたの?」
「重要な話だ。ソフィアが寝てからにしよう。」
「分かった。」
食器を洗っている最中、お父さんがそんなことを言ってきた。何か僕悪いことしちゃったのかな。怒られるようなことはしてないと思うんだけど・・・。もしかして、ご飯の時に考えていたことかな。色々な考えが浮かぶが、何かは結局分からない。まあ、すぐに分かることだからいいけどね。
お父さんは家に帰ってからも、仕事が少しあるから、ソフィアを寝かしつけるのは僕の役目。
ソフィアは隣で本を読んであげれば、そのうち静かに眠っちゃう。今日はお父さんと話があるから、夕方みたいに僕も寝ないようにしないと。今、ソフィアに読んでいる本は、この国に伝わる有名なユウシャのおとぎ話。僕も小さい時に、お母さんによく読んでもらった本だ。
どこからか現れた、悪いマゾクの王様を倒すために、ユウシャが仲間と旅をして、マオウを倒したユウシャがお姫様と結婚して、幸せになる話。前に、お父さんに聞いたことがあるけど、本当はユウシャはマオウと一緒に、死んじゃったみたい。きっと子供に聞かせるために、誰かが少し話を変えたんだろうって。
僕はお母さんに読んでもらっていたから、この話が大好きだったけど、ソフィアはそこまででもないみたい。お母さんの声で1度でも聞けたら良かったのかもしれないな。
ソフィアの目がだんだん閉じていく。話はまだ半分だけど、そろそろ終わりかな?起きている時は、動き回って、わがまま言ったり、転んで泣いたりしていても、寝る前は凄く静かだ。少しお母さんの顔に似ている気がする。このまま一緒に寝たいところだけど、お父さんとの話があるから行かなくちゃ。ソフィアを起こさないように、静かにベッドを降りて部屋を出る。お父さんのお仕事部屋はすぐ隣だ。
ノックをして、お父さんの返事を待つ。大人になって恥ずかしくないようにって、お父さんは色んなマナーを僕に学ばせる。ノックをしないで勝手に部屋に入ると怒られるのだ。
「ルーカスか、入ってこい。」
そんな声が聞こえて、僕は扉を開ける。この部屋には、お父さんの仕事道具や、お手紙、難しい本がたくさん置いてある。何をしているかは分からないけど、お仕事をしているお父さんはかっこいい。
「そこに座って少し待っていてくれ。」
「うん。」
部屋の真ん中にある椅子に座って、お父さんを待つ。お仕事が落ち着いたら、話をするのだろう。ちょっと緊張してきた。やっぱり怒られるのじゃないかと心配になる。
「待たせたな。お前に1つ聞きたいことがある。」
「何?」
「その・・・なんだ・・・まあ夕飯の時のことなんだが・・・。」
今日のお父さんはちょっと変だ。いつもならハッキリ言うのに、なぜか今日は歯切れが悪い。
「どうしたの?今日の僕、何か悪いことしちゃった?」
「いや、そうじゃない。そうじゃなくてだな・・・。」
「・・・その・・・母さん、欲しいか?」
「え?」
「さっき、ソフィアが母さんに会いたがっていただろ?ルーカスもそうなのかと思ってな。」
「お母さんに会えるの!?」
「そうじゃないんだ。あの母さんに会うことは、もうできない。だが、父さんが結婚すれば、新しい母さんには会える。」
「新しいお母さん・・・?」
「ああ、前のお母さんとは別人だ。」
「そうなんだ・・・。でも、ちょっと欲しいかもしれない。」
「そうか。実はだな、この間、シリウス家と話をしてきてな、結婚しないかと言われたんだ。」
「本当!?お父さん凄いね!」
「いや、好かれているわけではないのだが・・・。ともかく、結婚すれば、新しいお母さんと会うことはできる。だが、金遣いが荒いとか、自分勝手とか、あまりいい噂を聞かなくてな。」
「でも、噂でしょ?」
「そうだな。だが、もし本当なら、お前たちを辛い目に遭わせてしまうかもしれない。一緒にいれる時間も短くなるかもしれないな。」
「そんな!」
「でも、それでもお母さんに会いたいと思うなら、父さんは結婚しようと思う。ソフィアのこともあるしな。ルーカス、お前はどうしたい?」
僕は、お母さんがいてくれるのは嬉しいけど・・・、本当のお母さんじゃないし、お父さんと会いにくくなっちゃうかもしれない。でも、ソフィアはきっと・・・。
「・・・僕は、お父さんがいてくれるなら、このままでいいよ。でも、ソフィアはお母さんに会いたいと思うんだ。何があっても、僕がソフィアを助けるから、お母さんと約束したから・・・。」
「そうか、難しいことを聞いて悪かったな。もう少し、考えてみるとしよう。お前はゆっくり寝なさい。」
「うん・・・。おやすみ、お父さん。」
「おやすみ、ありがとうな。」
「うん。」
新しいお母さんか・・・。お父さんはずっと悩んでいたんだろうな。ソフィアは喜びそうだけど、僕はどうなんだろう・・・。いい人だといいな・・・。
そんなことを考えながら、僕は眠りについた。