黒服の少女
「はぁ...きれーな空だなー」
夜の丘の上の大岩に1人の人型が脚を投げ出して座っていた。闇に溶け込むような黒いパーカー、黒いスカート、黒いブーツ、パーカーのフードを被り、空を見上げていた。
「満天の星空ってこういう空をいうんだろーなー」
数多の星が大空を隙間なく敷き詰めている。そこで彼らを見上げる者を迎えるように輝いている。
そこへ別の人間が現れる。
「失礼。突然すまない。この辺で魔族が現れるという情報があって調査に来た。君は何か知っているか?」
声の方へ黒服は目を向ける。フードを取り、その素顔を露わにした。幼くも整った顔立ちに肩にかかるくらいの金髪、表情なく声の方へ向けられた眼差しは、真紅に輝いていた。
対して声の方は、中年の男性。冒険者なのかマントに身を包み、腰に剣を携えている。警戒しているのかその手を剣の柄頭に置いている。
「...知らないよー」
「...そうか」
黒服の返事を聞き、肩を竦める。聞こえたのは高い声。少女らしい声を聞いて、男性は表情を柔げる。
「こんなところに子どもが1人で来ていてはいけないよ。この辺りは時々魔物も出るからね。私が街まで送ってあげよう」
話しながら黒服の少女に近づき、手を差し伸べる。
「…………」
少女は動かない。しかし、手を差し伸べたまま少女が動くのを待つ。
ふと、男性は少女が笑っていることに気がついた。赤い眼を細めて嬉しそうな笑顔を浮かべている。
(なんだか不思議な笑顔だ...まるでおもちゃを見つけた子どものような...)
大岩の上で少女は立ち上がる。そしてその姿が消えた。
「魔族は知らない。でも、魔人ならあたしのことだよー」
「!?」
少女が後ろから抱きついてくる。それに驚いた男性はすぐに引き離し、距離を取る。警戒しつつ思考。この少女は今なんと言った?魔人なら自分のこと?だとするなら、情報にあった魔族とはこの少女のことなのだろう。とても信じ難い話だが、少女が次に話したことで確信に変わる。
「心配してくれてありがとー。おにーさん、優しいんだねぇ。あたしはフィアラ。ニンゲン達の間では、『フィーニャ』と言えば通じるかな?」
フィーニャ、その名を聞いて男は顔を青褪める。
魔人フィーニャ。冒険者の集まりでは最凶にして最悪の魔人であると伝わっている。色々な姿に変化するが、特に死神の姿を好み、死神の大鎌で数多の生命を刈り取ってきたと言われる。出会ってしまったら最後、行き着く先は「死」あるのみ。
男性は剣を抜き、構えながら後ずさる。こんなところで終わるわけにはいかない。何としてでもこの情報を持ち帰らねば!
「くすくす...そんなに怖がらなくてもいいよぉ。あたしに敵対の意思はないからねぇ」
「だ、黙れ!私も勇者の端くれ、そう簡単にはやられないぞ!!」
「ほほぅ。それはたのしみだねぇ!」
少女ーー魔人の周囲に黒い靄が漂い、魔人を包み込み、その姿を隠す。直後、弾けるように靄が拡散されるとそこには黒い布に包まれた魔物の姿が。脚は消え、顔の部分には真っ赤な眼光がギラギラと燃えている。その手には体格よりも大きな大鎌が握られていた。死神の魔人フィーニャ。噂以上のその存在感は、男性を圧倒していた。
『ならどこまでやれるか、その力、見せてもらうとしようか!!』
「くっ...負けるものかぁっ!うおおおおお!!!」
両者、武器を振りかぶり、戦いの火蓋が切って落とされる!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気がつくと天井を見上げていた。
ベッドで横にされ寝ていたらしい。
「...ここは...私は...いったい.......?」
重たい頭で思考を巡らせる。昨夜、丘の上に魔族の調査に向かったことを覚えている。しかし、丘の上にたどり着いて、そこからが曖昧になってしまってる。どうしてしまったのか...唸りながら考えていると部屋の扉が開かれる。
「あっ!目が覚めたんだね!」
部屋に入ってきたのは少女だった。黒服の少女。肩くらいまでの金髪、真っ赤な瞳。
「君は...?」
「あれ、忘れちゃった?丘の上で一緒に戦った仲なんだけどなぁ」
少女はフィアラと名乗った。旅をしている最中で丘の上にて星を眺めていたところ、私と遭遇。会話中に魔族が襲来し共に戦ったという。魔族の力が強く、なんとか退けることができたが戦闘終了後に私は倒れてしまったという。フィアラが街まで私を運んでくれたらしい。
「ありがとう。重かっただろう?すまなかったな」
「ううん!あたし、こう見えても力強いんだよ!」
笑いながら力こぶを叩く仕草をする。
私も笑顔で返し、ベッドから立ち上がる。
「魔族がいたのなら情報を伝えないとな。...だが問題は魔族の姿を覚えていない事だ。失敗したなぁ。もう一度丘を探索するか」
「あたしもお手伝いしようかなー?」
「いや、君は旅を続けて欲しい。魔族という脅威に積極的に関わっても損をするだけだ。ここから先は私達街の人間に任せてくれ。」
「そう?ならお言葉に甘えちゃうね。おにーさん、気をつけてね!」
荷物を持って宿屋を出る。もう一度装備を整えて丘へと出発しよう。私は一応勇者の端くれ。街の人々や旅人達の安全のために、私は戦おう!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
我ながら天才かと思うほどに上手く話ができたと思う。だって、全く嘘ついてないもん。
記憶を失ってたのは予想外だったけど、おかげで魔人としてのあたしが広まらずに済んだ。つい面白そーなニンゲンが来たから普通に名乗っちゃったんだよね。失敗失敗。
この辺でぶいぶい言ってた生意気な魔族も始末できた。この辺もしばらくは大丈夫でしょう。
それにしても、綺麗な星空だったなぁ。次行く所はどんな景色が見られるのか...楽しみだねぇ...♪
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
男が丘及びその周辺を探索したところ、魔族の死体を発見した。人型の悪魔で、上位の存在ではないかと思われる。死因は出血多量。悪魔のものと思われる血痕が辺りを染めていた。また、その血痕は丘の上から続いており、丘の上には戦闘の痕跡も発見された。
戦闘の痕跡からは闇属性の魔力が感知された。
この世界において闇属性とは、魔物だけが持つ特有の魔力とされており、人間に闇属性の魔力が宿ることはない。ごく稀に闇属性が発現する者もいるが、人間には合わない性質のために短命に終わってしまう。生きながらえる者は魔人と呼ばれる。魔人は人間ではないため討伐対象とされてしまう。
男は闇属性の発現を疑われてしまうが、時間経つことなく疑いは晴れることになる。黒服の少女、フィアラと名乗る存在があったからだ。しかし少女は姿を消し、その動向は掴めない。
この事件の真相は闇の中だった...
つづく
お久しぶりです。
と言ってもはじめましての方の方が多いでしょうからあえてはじめましてと言いましょう。
最近Twitterの方でオリキャラ会話なる遊びをやっていまして、やっぱり彼女たちが活躍する世界を形作って見たいと思ったわけであります。
彼女たちのお話は今もなお続いていますので、長編としての投稿ではなく、短編としてこれから続けて見ようと思います。
拙い文章であり、分かりにくかったりくどかったりなどなど至らない点ばかりだと思いますが、猫人侍の妄想に付き合って頂けたらと思います。
では今回はこの辺で。