セッション・コーラス「シャッフル」
バカ広い広間に円卓のポーカーテーブルが一つ。
周囲は観客、煙草の煙と酒の匂い。客も煙草も酒も上物。だが、悪趣味だ。巷にあるような刺激じゃ満足できない輩が、ハイエナみたいに嗅ぎつけてこの地下カジノに降りてくる。
本来、俺には到底縁のないブルジョア連中がほとんどだ。
なんの因果か、そんな奴らが、ポーカーテーブルの片側に座る俺「ダニエル=アップルビー」を見に来ている。そして、ケチャップだけのサンドイッチばかり食っていそうな哀れな男が哀れな結末を迎えるのを今か今かと待ち望んでいやがるってわけだ。
ここの観客は、他人の不幸に興奮することに少しも隠そうとしない。どうやらここじゃあ、地上での仮面をつける気はないらしい。
俺は目の前の相手に意識を向けた。
キートンのスーツを着たスカした男、ジャン=ジーノが俺の相手だ。
ジャンはこのカジノのオーナー、ビル=ヘインズの用意したプレイヤーだ。
腕は一流、これまでのゲームの中でも、少しもブレを見せていない。チップは俺とジャンの間を行き来を繰り返している。
俺たちの勝負をジャンの後ろでふんぞり返ったビルが眉一つ動かさず見守っている。
ここまではビルのシナリオ通りってか?
だが、そうそうお前のペースでやらせるつもりはない。
俺は、観客に潜むタイトなドレスを着た女、シェリー=マーキューに目で合図を送る。すると、シェリーは観客の中に溶け込むように姿を消した。
あいつがうまくやってくれるはずだ……。
それまでまだ時間がほしい。
ディーラーによってカードが配られる。
シェリーがもしも失敗したら? そしたら、俺がやるしかない。もしもの時には、俺にも切り札がある……できれば使いたくはないが……。
俺は隠し持った保険の存在を確認しながら、配られたカードを手に取った。
担当
1・ダニエル=アップルビー
2・ジャン=ジーノ
3・ビル=ヘインズ
4・シェリー=マーキュリー