1話
「ねぇメア、私は貴女を奴隷のままにするつもりは無いのよ。私によく似た顔が奴隷だなんて嫌じゃない?」
「は、はい」
ロゼリアはふわりとバラの香りをさせながら柔らかな手で私の頬を撫でた。
「私の妹になりなさい、メア。大丈夫、可愛がってあげるわ」
ロゼリアの父親…アルディアーナ公爵は微笑んでいる。というか微笑ましそうにこちらを見ていた。
「ロゼリアがそう願うなら私も君を家族として受け入れよう。メリッサにも説明しておくよ、そうだねぇ…よく似ているし、歳もほとんど変わらないだろう。義妹よりも本当の双子の妹として迎えた方が自然だろう。ロゼリアが産まれたのは本邸ではなく別邸だ。メアリージュンは病弱だったのでそのままあちらで育てた、ということにしようか。」
それって偽造できるの?仮にも公爵家だし…
「それはいいわね。で、メア、どう?嫌かしら」
「め、滅相もございません!……よろしくお願いします、ロゼリア様」
頭を下げようとすると顎に扇が当てられ顔を上げさせられた。赤い瞳と目が合った。
「今から貴女は私の妹。ロゼリア様なんて言わないで、お姉様とお呼びなさい。」
「…お姉様」
「ふふっ」
呟くとお姉様は嬉しそうに微笑み、私の頭を撫でた。その後小さくリップ音をたて、額にキスが落とされる。それに驚いて目を見開くとお姉様はそれにまた笑みを零し、アルディアーナ公爵に向き直る。
「お父様、早く帰りましょう。メアに可愛いドレスを着せてあげなければいけないわ!」
「ふふ…そうだね、どんな花にしようか」
「白百合なんてどうかしら、きっと似合うわ。メアはきっと赤よりも白の方が似合うと思うの。」
「それはいいね…メアリージュンはどうかな?」
白百合。ヒロインの花。この世界、乙女ゲームの名前は『白百合と5人の花』という名前だ。題名通りヒロインは白百合がモチーフらしくドレスや髪飾りも白百合ばかりだった。貴族もそれぞれ社交界入りした者には花があった。花の描写がモブにもあったから。それを取ってしまえばヒロインはどうなるだろう。
確かルールとして上の身分の者と花が同じになってはいけないという暗黙のルールがあったはずだ。もし公爵家と花が同じになるなんてことがあれば打首ものかもしれない。花は自身を象徴するものだから。…ならば
「…鈴蘭なんて、どうでしょうか。…鈴蘭も白い花で、美しいです」
「……いいわね!それに可憐で病弱設定のメアにはぴったりじゃない。いかにもか弱そうな…あ、悪い意味じゃないのよ」
「そうだな、鈴蘭がいい。では針子にそう伝えよう。」
それに鈴蘭には…毒がある。鈴蘭を生けた水にすら毒があるほど。確か最悪の場合死に至ることも。
ゲームのハッピーエンド…つまりヒロインと攻略対象が結ばれるエンドでは必ずロゼリアが死んでいる。不敬罪や切り伏せられるとか…まぁ色々と。とりあえず死ぬはず。
そこで私は決めた。まだ関わりも浅く、ゲームの通りなら高飛車なロゼリア。でも、私を救ってくれた。生まれてまもなく檻に入れられ、まるで英才教育かのように客を喜ばせる芸と知識だけが詰め込まれていく。好みでもない服を着せられ、見世物小屋のような場所に置かれたことも何度かあった。そんな所から私を連れ出してくれた。そんな彼女を他人の恋路のために殺させやしない。ヒロインを虐めたくらいで死なせてたまるか。
私はヒロインの障害となるだろう。ヒロインと攻略対象が結ばれないように邪魔をするのだから。
「ふふ、鈴蘭…きっととても似合うわ、メア。」
「ありがとうございます、お姉様」
その笑顔を無くすやつらには決して容赦しない。
内容を少し変更しました。