第84話
すいませんプライベートが忙しく先週は更新ができませんでした。
「それではお集まりの皆様今回起こった事件についての緊急会議を始めたいと思います。」
宰相エスカ・ルゴンの言葉によって会議室に集まった文官、貴族達が雑談を止め、注目した。
「……それでは始めに国王陛下よりお願いいたします。」
「今回集まってもらったのは先程ルゴンが言ってくれたように、かの水の補佐神が司っていたダンジョン《回遊する水瓶洞窟》の崩落及び神殿の倒壊についてだ。これは由々しき事態だが、我々だけでは情報が足りぬ。何か知っている者は挙手してくれ。」
ハセイン国王がそう言うと、数名手を上げた。
「オーサー卿。何か知っているのか?」
「陛下、私の領地に大図書館があるのは御周知のことです。」
オーサー卿と呼ばれた一人の老人は静かに答えた。
「その中に、神々の迷宮について書かれた物が何冊か在りましてな。今回の事に酷似したものも載っていたことを覚えております。」
「その書物によると『神々の迷宮が倒壊又は無力化されたことは……』」
「ことは……?」
ハセイン国王が続きを求めたが、それ以上聞くことが出来なかった。
「……オーサー卿?オーサー卿?……またか。」
オーサー卿は高いびきを掻いて眠っていた。
彼が国王の前で眠ってしまっても誰も声を荒げたりしない。彼は年なのもあるが、オーサー卿はかつてこの国の為に戦った人間の一人である。
しかし、この前の国政会議では彼は国王と話しているつもりで永遠と壁に向かって話していた程だ。
要はボケているので諦められているのである。
「オーサー卿は疲れてしまったようだ、先に他の者の意見を聞こう。そうだな……レッヘマン卿。」
レッヘマン公爵のことである。
「はい。私は今回の事は神々が関与しているのではないかと愚考します。」
「ほぅ?つまりどういうことだ。」
「水の補佐神、ラクシャータ様が何か粗相を成し他の神から粛清を受けたのではないか。という説です。」
ハセイン国王はそれを聞いて一理あるとは思った。しかし、それならば神々から神託が聖皇国かハセイン王国の司祭達に降りる筈である。
「……それならば既に神々から神託がある筈。可能性はあるとしても限りなく低いでしょうな。」
ルゴンも同じように思ったようで、ハセイン国王に変わって答えた。
「そう……でしたな、申し訳ない。」
レッヘマン公爵はばつの悪そうに答えると国王に頭を下げた。
「さて他に考えのある者は?」
「私からもよろしいですかな?」
会議室にくぐもった声が響いた。皆あたりを見渡し、声の出所を探る。
いち早く気付いたハセイン国王は興味をそそられた。その声の主は、滅多に喋らないと言われていたロバーツ・マーフィー卿だったからだ。
─ロバーツ・マーフィー
爵位は伯爵。レッヘマン公爵領の隣に領地を持ち、二人の家はリールの森の利益と領地を巡って大変な争いを続けていた筈だ。当然レッヘマン公爵とはあまり仲は良くなかった。陰湿で他人を僻みっぽく、酒癖も悪い。
何故こんな男が貴族にいるのかとハセイン国王は何度か思ったものだ。
(レッヘマン卿に恥を晒されてからしばらく大人しくしていると思っていたが…。今回は何を言い出すかな?)
ハセイン国王は小馬鹿にする気持ちで頷き、マーフィー卿に発言を許した。
「はい、今回の事に関して私は魔物による仕業と考えております。」
「ほう?それはまた随分と飛んだ話だな。なんだ、魔物がダンジョンを破壊したと言うのか?」
ハセイン国王は茶化す。それに吊られ何名かからも笑い声が漏れた。
「笑い事では御座いませぬ陛下。これは冒険者ギルドからの情報です。ダンジョンの跡地を調べていた冒険者達の話によれば、地下からの巨大な力によって洞窟と神殿ごとされていたとのこと。これが可能な魔物になるとSランク級、しかも魔王種クラスの魔物になります。」
マーフィー卿の言葉に会議室はしんと静まった。
「……理解して頂けましたか?冒険者ギルドはこれにより街の扉を一時封鎖する事を決定したのですぞ。神すら殺し得る魔物があの周辺にいる可能性があるのです。」
マーフィー卿は一旦言葉を切る。自分の話にどれ程の者が聞いているのか確認しているのだ。
「それで?魔物が原因だという仮説が有力だと言いたいのですかな?」
何かに勘づいたレッヘマン公爵が試すように言った。
「いえいえレッヘマン卿、違いますぞ。もしその魔物がこの王都に近い場所にいる可能性があるというならば………勇者達を呼ぶのも吝かではないかと。」
「それはならん!」
弾かれたように叫ぶレッヘマン公爵。
「おやおや。ならばレッヘマン卿は魔物が現れた暁にはどうされるつもりなのですか?王都が攻められた時に民衆から責任を問われるのは貴方になるんですよ?」
「し、しかし……。」
「何を渋る必要があるのですか?別に貴方のモノではないでしょうに。まさかとは思いますが、己が利益の為に勇者様を使っているとでも言いたいのですかな?」
ニヤニヤと嗤うマーフィー卿にこの野郎、とレッヘマン公爵は殴り掛かりたかった。しかし、周りを見ると数人の文官達はこちらを怪訝な目で見始めている。今反論するのは悪手だった。
「…………。」
「黙ってないで何か言ったらどうです?」
マーフィー卿は更に意地悪く聞いてきたが、ハセイン国王から待ったがかかった。
「……もうよいだろう。そこまでにしておけマーフィー卿。」
「………ハァ。かしこまりました。」
マーフィー卿は残念そうに言うと、席に戻った。
「さて、今マーフィー卿が話してくれた事は既に確認済みでな、冒険者ギルドによるとその可能性はあるにはあるが、今のところ大丈夫だそうだ。」
ハセイン国王の言葉にどよめきが起こる。
本当に大丈夫なのか?もし襲われたら?という声も上がる。
「諸君らの気持ちも解る。しかし、このまま街を封鎖するわけにもいかんのだ。物流が止まっている今、王都の市場には新鮮な野菜や肉が入らない。保存が利くモノばかりだ。商人達からも国民からも不安の声が上がっている。それに、レッヘマン卿領のギルドからも以前起きた魔物暴走の際に少なくとも2体のSランク級魔物が未発見かつ未討伐の状況の為、勇者達を王都に戻すのは止めてくれと哀願書が届いた。」
その言葉に不満を言っていた貴族達は静かになった。彼等にも思う所があったのだろう。文句を言う気満々だったマーフィー卿もギルドが絡んでいる為、何も言えなかった。
「そこでだ。警戒を呼び掛けるという形にしようと思っている。商人達にも冒険者ギルドに協力してもらい、護衛を増やしてもらう、という事だ。諸君らには冒険者が嫌というなら私の騎士団から護衛を出そう。……これ以上質問が無いならば会議は終わりだ。」
◆ ◆ ◆
「いやー、助かりましたよガド。貴方がデントを煽ってくれたお陰で勇者移動を止めることができました。レッヘマン公爵によれば、街の門も開けられるということなのでやっとそちらに帰れますね。」
レッヘマン公爵が会議から戻り、話を聞いたルディ一行は早速魔車に乗り込み、カーブの街に向けて王都内を走しらせていた。ルディは《眷属念話》にてガドと会話していた。
『ありがとうございます。私としても早く帰って来ることを頼みます。主に頼まなければならない仕事が溜まっていますからね。』
「やめてくださいよガド。その問題はカーブに帰ってから伺いますよ。」
『かしこまりました。それにしてもよく国王は直ぐに街の門を開きましたね?意味が無いかと思うのですが。』
ガドの素朴な疑問にルディはケラケラと笑った。
「ハハハハハ。ガド、国王としては最初から街の門を閉める気はありませんよ。国王としては「私は国民の為に考えてますよ」というアピールの為でしょうね。それに加えて政界のいざこざですね。文句を言う輩を黙らせる為でもあるでしょう。今回も、レッヘマン公爵領の隣にあるロバーツ・マーフィー伯爵領を御存知ですか?彼がレッヘマン公爵領に滞在している勇者達による特需を妬み、王都に勇者を呼び戻す理由作りの為に冒険者ギルドの職員に幾らか握らせ門を閉めさせたのでしょうね。ダンジョンが破壊されたことでそれらしい理由もできましたしね。」
『成る程ですね。』
「理解できました?これからは金の流れも見ることをお勧めしますよ。妙な物事や風習には必ずといって良いほど金や権利が絡んでいるものですから。」
『わかりました。旅は3日程ですか?』
「はい。それまでに報告書をまとめておきなさい。」
ルディは念話を切ると、後ろに流れて行く景色を眺めた。




