第71話
「わー悪趣味・・・・。」
「・・・・・・・・『なにこれ?』」
「見事に何もかもめちゃくちゃになってますねぇ。」
三階層に行くための通路を進んだだルディ達を待っていたのは広大な霧のかかった湖だった。
ただし、その湖の水は夕焼けに染まったようにオレンジ色に染まり、霧も気持ち悪いショッキングピンク色だ。
その霧が煙幕のように景色を隠しているので、ルディ達のいる場所からは湖の半ばまですら見えなかった。
「うーむ。ここは本来ならば水のダンジョンたる至る所にある水瓶の像からきれいな水がこんこんと溢れ流れる美しい渓谷という話だったんですがねぇ。」
「渓谷のけの字も感じられない場所だな。」
「・・・・・・『神のダンジョンとはこんなに悪趣味なんですかね?』」
「おそらく我々のせいでダンジョンそのものが狂い始めたのかもしれません。」
「それか、俺がいるからかな。神様は悪魔のことが大っ嫌いだからな。」
ルディ達が話していると、バトラーが霧の向こう側に気配を感じた。それはルディとジョーカーも同じだったようでバトラーと同じ方向を向いていた。
「・・・・『何かいます。』」
「だが、この霧が邪魔だな。」
「私が風魔法で吹っ飛ばします。《突風》!」
ルディの風魔法により気持ち悪い霧はきれいに晴れていった。そしてその先に見えた光景にルディ達ははたまた驚かされた。
「これは、これは。」
「手厚い歓迎だなぁ。」
「・・・・・・」
霧の晴れた湖の向こう岸には大量の武装した水性モンスター達が整列し、湖上にも魚のような鎧を纏う人形のモンスター達が隊列を成していた。
それはまるでルディ達に対する最終決戦を臨まんとする軍団であった。
「うひゃー、劣化水竜に水死骨兵、巨大口鯉か。うわっ!?刺痛泥蟹までいるじゃん!」
「ふーむ。これは私が大量に眷属召喚して同じ数まで増やしたほうが楽しいですかね?」
ルディがそんな呑気そうに言うとジョーカーは慌て止めに入った。
「止めてくれ。旦那の眷属はあそこのモンスターよりも強いんだ。可哀想だ。」
「ならそうしましょう。向こうも動くようですよ。」
ルディがそう言うと、ちょうど向こう岸のモンスター達が左右に別れて、中央に道を開けた。奥から現れたモンスターを見てジョーカーとバトラーは顔を歪ませた。
「・・・・・・・『可哀想に。最早自我も残っていまい。』」
「・・・・それは無しだな。センスの欠片すらない。」
「ん?アレがどうしたんです?」
ルディは二人の怒りが理解できず、首をかしげていた。
「旦那、あれは元はおそらくダンジョンボスだった生き物だ。」
「・・・・・『それらは合成され、苦しみと憎しみの中でもがいています。』」
「ふむ。」
ルディは二人の話を聞いて、そのモンスターを改めて見た。
三メルトルはある白い魚の身体から人のような上半身と真っ黒な蟹のような甲殻に覆われた足と鋏を持ち、上半身から生えている三対の人型の手にはそれぞれ槍や盾、剣等の武器を持っていた。人型の顔には目や鼻はなく大きなギラギラと光る牙がある口のみだった。更に魚の身体にも頭が付いており、六つある目と耳は魚の身体に合っておらず、それがまた不気味さを放っていた。
「合成魔獣ですか。」
ルディはその異形な姿を見て判断した。
「・・・・そうだ。俺達のような【魔】に通ずる者達が神や天使を除いて一番嫌悪感を抱く可哀想な生き物の成れの果て・・・。切羽詰まったダンジョンマスターや人間の狂った錬金術師どもが魔物やモンスターを好き勝手にいじくり回してできた生物さ。」
「成る程、あの生き物は私を殺すためだけに生まれたわけですか。それは・・なんとも歓喜で不快なものですね。」
ルディはその話を聞いて内心かなり怒りを感じている自分に驚いていた。もしかしたら自分の中にある魔物としての本能がそう訴えているのだろう。
「わかりました。アレは私を殺すためだけに生まれた生き物です。私が引導を渡します。二人は残りの雑魚を相手してください。」
「了解だ。」
「・・・・『了解。』」
ルディ達はそれぞれの役割を決めると、一斉に仕掛かった。
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その生き物は混ざる思考や自分の身体ではないものが入り込んだような不快感に苛まされながらも向かってくる敵を視認していた。赤いのっぺらぼうのような仮面を付けた謎の男、ふざけた格好をする悪魔、そして────。
「ギュウルルバババババ・・・・・・。」
「はじめまして、化物。そしてさようなら。」
この湖を一瞬にして渡り、己の前に立つ巨大かつ強力な死の匂いを撒き散らすこの狼。その狼の殺気に当てられ少し怯んでしまった。
『そう、その魔物が貴方の宿敵。貴方の苦しみはソイツが原因よ。ソイツを殺して滅茶苦茶にしてやれば、貴方は苦しみから解放されるのよ。』
そんな中その声だけが心に綺麗に響いた。自我さえ怪しいあやふやな精神に語りかけてくれるその声にすがり付くように化物は咆哮をあげた。
「ギュウルルゴバババババ!!!」
自分の苦しみから逃れられる唯一の方法を求めて───。




