第5話
──石橋side──
光に包まれたかと思うと、俺らは大きな広間に立っていた。壁や天井には様々な細工が施されており、芸術が全く理解できない俺でも価値が高いのだろうと感じた。そして、自分たちが立っている台座のようなものの周りに大勢の人々がいた。変なフードを被ってる奴や派手な全身鎧を付けている奴もいた。物珍しさ、いきなり場所が変わっているのに気付いた奴等は周りの人たちを見ながら好き勝手に騒いでいた。すると、周りにいた奴等の中から一人がこちらに近づいてきた。銀色と青色のローブを身に付けた初老の男だ。顔はやつれてはいたが、強者だと思わせるオーラを纏っておりそのオーラにあてられたのか、皆は黙ってしまった。
「よくぞ来られた、君らが異界からの勇者だな。儂の名前は、エスカ・デン・ハセイン。このハセイン王国の国王にしてこの国最強の魔術師だ。君達には大いに役に立って貰うからな。ああ、聞きたい事が沢山あるだろうが今は止してくれ。一度に沢山の質問は聞けないからな。こちらで話そう。」
「それでは、こちらにどうぞ。」
どうやら王様だったらしい。挨拶が終わると王様の後ろに控えていた執事のような格好をした。男に案内しようとしてきた。俺達のはこれからどうなるかはよく分からない。アニメやラノベではベタな展開だが、だからと言って警戒するに越したことはないだろう。だが、下手をすれば直ぐに殺されるかもしれない。ここはもう相手のフィールドだからな。周りを見ると多くの生徒は異世界召還だと、興奮気味になっている。そのまま何の疑問も持たず付いていこうとしていた。俺は古城もそうなっていたら友達として、一言言っとくかと思って探したが、全く見つからなかった。
(おかしい、あいつ何処に行ったんだ?)
クラスごとに纏まっていたはずなので、先に行ったはずもない………。
まさか何人かは、別の場所に召還されたのか?
「どうした。君は行かないのかね?」
「えっ?」
気づいたらあの王様が目の前にいた。どうやら俺だけ台座の部屋に残っていたようだ。
「いえ、何でもありません。少し考え事をしていましたので。」
「フム、そうか。では私と行くか。」
「えっ?」
「皆が行ってしまったのに一人で行けるのか?この城は通路が多く迷い易いぞ。」
「いえいえ私のような身元もわからない人と行くのは色々とまずいでしょう。」
「・・・・チッ、解った。お前に案内人を付けよう。おいガルボ!ガルボは居らぬか!」
王様が大声をあげると何の変哲も無い壁が回し扉のように開いて、一人の男が出てきた。銀色に輝く全身鎧を身に付けており、さながら物語の騎士のようであった。後、物凄くイケメンだった。
「お呼びでしょうか国王様。」
「うむ。この者は先ほど召還した勇者の内の一人でな、熟考していたせいで出遅れてしまったのだ。すまないが道案内を頼むぞ。」
「かしこまりました。では、はぐれないように付いてきなさい。」
そう言って先導を始めたので後から追っていった。
「あやつ、儂に警戒していたな。」
「その様ですね。国王様自ら張られた結界が効かないとは……」
「うーむ。なかなか面白い奴がきたようだな」
「私共は面白くないですよ。魔法が効かない奴がいるとなると、私共では抑えられないという事ですからね。」
「今は観察といくのが正解だな。」
「はっ。」
石橋が去った後、部屋に残っていた王と宮廷魔術師たちが話していた。だが、彼らの瞳はまるで玩具を貰った子供のよいにキラキラと輝いていた。
(儂の魔法を破ったの奴が出てきたのは久しぶりだなぁ。あやつは絶対誰にも渡さんぞ!!)
と魔術師としての性なのだろう。哀れ、石橋はどうやらターゲットにされたようだ。
石橋はガルボと呼ばれていた騎士に連れられて歩いていた。城の中は石造りのためか薄暗く、少し冷たい空気が流れていた。やはり召還された勇者が珍しいのか、巡回中の兵士からじろじろ見られて少し恥ずかしかった。暫くすると、大きな扉の前にやって来た。
「ここだ。では私はこれで失礼する。」
そう言うと、ガルボは立ち去っていこうとした為、俺は急いでお礼を言ってから扉の中に入っていった。
部屋の中は体育館ほどの広さで4つの長テーブルがあり、天井からは幾つものシャンデリアが吊り下がっていた。先に来ていた生徒達は席に着きながら、一番前に立っている男騎士の話を聞いていた。
「君たちはこの世界の創造神であられるサマナ様から神託があっため呼んだ。その神託とは、どうやら近々魔王が復活する、それに対抗するためにサマナ様が異界の勇者を呼び寄せるというものだったのだ。こちらは日時と召還する場所しか判らなかった。だからここまで多くの人が送られてくることは予想外だった。その為、新たな神託が降りるまで基本この部屋ですごしてもらう。すまない、生活しにくいかもしれないが、今はこれが精一杯なんだ。」
とのことだった。当然、文句が沢山でたが一人の声で静かになった。
「静かに!皆よく聴いてくれ、これが今この城にいる人達は僕達に対してやれることが精一杯なんだ。それを悪く言う皆の気持ちもよく分かる。仕方ないかもしれない。僕だっていきなりこの世界に召還されて魔王を倒してくれ、なんて言われて困惑してるんだ。だけど、今は大人しく待つしか方法が無いんだ。」
そう言ったのは生徒会長の竹田 聖也だ。眉目秀麗、容姿端麗、成績優秀と三拍子揃った学校の顔役であり誰にも優しく学年に関係無く皆のリーダーで女子からは絶大な人気を誇っているが、自分の考えた事が絶対に正しいと信じているためたまにとんちんかんなことを言い出すのが悪い癖だ。(尚、本人は善意でやってる。)
そんな竹田がそう言えば、
「そりゃ聖也がそうするなら……。」
「待つしかないか……。」
といった感じで、皆彼に従うのだ。俺も高一の頃は、尊敬していたがあれを見てからむしろ嫌悪感がある。その後も竹田達は騎士と話をしていたが、俺は部屋の隅っこに在る物置部屋に入りこれからの事を考えていた。だが意外に疲れていたのか、そのままいつの間にか寝てしまった。
──犬side───
『──そこから一気に食らい付きます。・・・今です!』
「ガォオオオオン!」
『はい。良くできてました。今日の訓練はここまでにしましょう。』
「ハァハァハァ……あ、ありがとうございました……。」
暗曜犬になってから暫くたった。俺は様々な魔物を狩りながら、自分の眷属である黒い骸骨狼に戦い方を指導してもらっていた。
「なぁ、俺は少し聞きたい事が有るんだが。」
『はい。なんでしょう。』
「俺はいつになったらLv20から上にいけるんだ?」
『それは沢山の魔物を狩るしかないでしょう。最近では創造主にとってこの辺の魔物は、雑魚になってきましたからその分量をこなして経験値を貯めるとしか言えませんね。』
「いや、3日前にステータス紙見たらLv20て、書いてあったんだけどその後からいくら狩っても、力が漲るって感じがしないんだよ。」
『それでしたら、もしかしたら進化できるかもしれませんよ。』
「進化?」
『はい。個体差は有るのですが、魔物はあるレベルから上がらなくなります。これを私共は《成長限度》もしくは《成長限界》と呼んでおります。通常ではそこで終わりなのですが、稀に上位種になる個体がいるのです。それを《進化》と呼びます。進化した個体は同じ種でも一つ抜けた存在になります。その為人間にとって進化した魔物とは、早く駆除すべき対象としていることが多いです。』
「ふーん、じゃ進化ってどうやってするんだ?」
『自分の魂に語りかけるように意識を集中していれば、素質が在るかどうかわかります。』
「そうか。ではやってみるか。」
俺は自分の意識を集中させて、魂に話かけるイメージをした。すると、
【進化先:魂喰狼・冥界種】
と頭に浮かんできた。俺は自分に素質があったことに喜びながら、迷い無くそれを受け入れた。
【進化を開始します】
また頭に文字が浮かんだと思ったら、俺の意識は暗闇の中にに落ちっていった。
─────────
月の光に照らされた黒い骸骨狼は黒い繭に覆われていく自分の創造主を、崇めるように眺めていた。
(私の主はどうやら進化の素質があったようだ。そのまま進化を開始したようだ。しかし、初めて会った時から我が主は見たこともない色をした犬だった。私が緑毛狼の時は余り考えずに襲ってしまった。あれは今考えるとなんと愚かしい行動だったのだろうか。成す術なく殺されてしまった。だか、あの御方は私にチャンスを与えてくださった。私の望みはあの御方が過ごしやすい環境をつくること、ただそれだけだ。)
そんな事を考えていると、主を覆っていた繭が煙のように消えた。そして、自分の主を見て黒い骸骨狼は魂が震えるのを感じた。毛並みは真っ黒な色から美しい青がかった銀色になり、犬のようだった体や顔は逞しい狼と呼ぶべき特徴へと変化を遂げ、体長も80センチ程から2メートル近くまで大きくなっていた。更に身体中に様々な紋様が浮き出たり消えたりするのを絶えず繰り返しており、まるで生きている魔法陣であった。
「これは………凄い、いや素晴らしく美しい!私はこれからもより一層高い忠誠を誓わせていただきます!」
こうして当の本人が知らぬ間に眷属である黒い骸骨狼は忠誠心を心から誓った為魂の繋がりが、強化されたのだが、お互い気付く事はなかった。
犬と勇者は送られた時間が違います。その為犬の方が早く成長しています。