第49話
キング・エイプはセイヤとサトシが沢山のレッサー・アースドラゴン達に目の前で苦戦しているのを見て己の嗜虐心を満たしていた。2人はもはや身体中傷だらけになっており、サトシに至っては右足がおかしな方向に曲がっていた。
アースドラゴン達はセイヤ達が満身創痍にそれでも攻撃を止めなかった。土魔法で退路を断ち、猫がネズミをいたぶるように着実に弱らせるつもりなのだ。レッサー・ドラゴン種は仲間意識の高い魔物が多い。その為一体既に倒しているセイヤ達はレッサー・アースドラゴン達にとっては仲間の仇なのだ。
「ぐぅうう!!」
「ち、ちくしょう!」
セイヤとサトシは自分達がわざと生かされているのを解っていた。満身創痍になり移動すらままならない自分らをボールのように蹴飛ばし、叩きつけしかしそれ以上はしない。段々弱っていく自分達を見て笑っているのだ。もはや立つことすら出来ない。セイヤとサトシはついに倒れ伏した。
───嫌だ。死にたくない。俺達はここで死ねない。
既にその感情が2人の心を支配していた。だが、現実は無慈悲である。2人の周りには冷酷な魔物しかいない。いつの間にか日が完全に沈んだようで月に照らされ反射した魔物達の目がセイヤ達の周りを取り囲んでいた。その目はまるで這い寄ってくる死そのものだった。
────諦めろ。今なら楽に死なしてやろう?
不意にそんな声が聞こえてきた。セイヤはその幻聴に必死に訴えた。
「い、いやだ!まだ死にたくない!」
─────諦めろ、お前ごときに何が出来る?
「僕は勇者だ、このまま死んでいいわけない。皆のためにも。」
──────皆?我々からしてみればお前達の方が侵略者だ。
「そんな、そんなことは・・・・・」
───────あるさ。我々は只平和に暮らしていだけで殺された。只生きているのが罪だと、存在が罪だとな。
「っ!?貴方は誰だ?」
────────君にはまだ勇者を名乗る資格がない。知識と経験を高め、冒険しなさい。そして真実を知った上で君の正義を貫け。その時君は本当の勇者になるだろう。
「待ってくれ!貴方は誰なんだ!」
─────────・・・・今は言えん。だか、その内に会うだろう。今回はサービスだ。
急に身体中が温かくなってきた。意識も回復してきたようで、あの幻聴も聞こえなくなっていた。セイヤは起き上がるといつの間にか身体中の傷が回復しているのに気がついた。
「・・・・これはどういう事だ?訳が分からないよ。」
「そんなこと分からなくて良いですよ。それより大丈夫ですか?」
「っ!?なんだハットマンさんか。アースドラゴン達はどうしたんですか?」
「勿論皆殺しにしていますよ。安心してください。」
「サトシは?」
「彼は傷を直したあとに、マナミ達が心配だからと貴方を私に託して先に戻りました。」
それを聞いたセイヤはへたりこむと、空を仰ぎながら先程の声の事を反芻していた。
「まだ勇者とは言えない・・・か。」
「ん?何か言いましたか?」
「いや、何でもな──」
そう言いかけた時に、ハットマンとセイヤの前に一匹の竜が現れた。月の光で反射した銀色の竜鱗がきらびやかに見えるが、その身体から発せられるオーラは只者ではないと理解させられた。
(これが、竜・・・。なんて殺気とオーラだ。居るだけで気圧されてしまうなんて!)
「ちぃ!よりによって不死竜ですか!セイヤ!逃げなさい!こいつは私が全力で戦っても足止めできるかどうか・・・・。早く!」
セイヤは殿になろうとしてくれたハットマンを見捨てる訳にはいかないと、ハットマンの隣に並び、剣を抜いた。
「何しているんですか!早く逃げなさい!」
「いや!僕は逃げたくない!ここで逃げたら、僕の何かが終わってしまう!だから逃げな──!!」
「済まないセイヤ。」
「ぐはっ!」
ハットマンはセイヤの鳩尾にかなりの手加減を込めて殴った。セイヤは一瞬で気絶し、ハットマンは影から影狼を呼び出しセイヤを街の近くにまで運ぶように指示した。そして不死竜の前にでると、仮面を外した。
「さて、最後の戦いだキング対キングのな。ルディ、この暗さだ戻っても誰も見えてないさ。」
「そうですね。私も本来の姿でいかせてもらいますよ。」
ルディが元の巨大狼に戻ると、ヴィヴィアンは満足そうに、いや楽しみで仕方のないと言ったような顔をして、咆哮を上げた。
「よし、いざ尋常に。」
「「勝負!!」」
ルディが先に駆け出し、ヴィヴィアンの首筋に牙をたてようとした。しかし、ヴィヴィアンはこれを軽く躱すとお返しとばかりにルディの横腹を尻尾で薙ぎ払った。
「グルル・・・。一筋縄ではいかないか。」
「ギギ・・・。人型が長過ぎて鈍ったんじゃないか?ほらほら行くぞ。」
ヴィヴィアンは腕と尻尾を巧みに動かし、パンチやキックを繰り出した。ルディはそれを慌てず見極め、綺麗に避けていった。しかし、全ては避けきれずに何発か食らってしまった。
無論、ルディも《闇の衣》という触れた者に持続ダメージと自分に対する防御力を高める魔法でヴィヴィアンの連打を耐久し、ダメージを与えた。しかし、ヴィヴィアンには反則級の自動回復がある。《闇の衣》での魔法による反撃は只の嫌がらせに止まってしまった。
「フフフフ。どうした?お前の訓練の賜物はそんなものか?」
「グルル!!この堕竜め!痛い目見せてあげますよ。」
ルディはここで《疾風迅雷》を発動させた。ルディの葵い体毛は身体中を走る帯電により逆立ち、周りには風の渦が立ち込める。ヴィヴィアンはその姿に警戒しながらも尻尾による薙ぎ払いを行った。ルディはそれを避けもせずに真正面からそれを受け止めた。
「ふん!見た目だけのコケオドシか。・・・・何っ!?」
ヴィヴィアンはルディの愚行に呆れ返ったが、自分の尻尾が戻ってこないことに気がついた。まさかと思い、ヴィヴィアンがルディの方を見ると、土煙の向こう側からルディがヴィヴィアンの尻尾を咥えていた。ルディは身体を捻るとヴィヴィアンごと地面に叩き付けた。
「ちぃ!少しお前を舐めていたようだ!」
ヴィヴィアンは土煙の中からルディに向けて、ブレスを飛ばしてきた。ルディは目にも止まらぬ速さでそれを避けるとヴィヴィアンに向けて《魔爪斬擊》を放つ。5つの斬擊がヴィヴィアンに迫るが、ヴィヴィアンは首を捻るだけで全て避けた。
「ふふ。こんな子供騙し、効きはせんぞ?」
「そうですか?よくみたらどうです?」
「うん?」
ルディの言うとおりヴィヴィアンが後ろを見ると避けた筈の《魔爪斬擊》がヴィヴィアン目掛けて飛んできていた。
「追跡か!?」
「さぁ?どうでしょうね?御代わりはいかがで?」
「そんな、も、ものは、いらん!」
ヴィヴィアンは避けても避けても襲ってくる斬擊を避けようと、跳ねたり転がったりしていた。無論そんなチャンスを逃すルディではない。
「《土石流》!」
ルディの目の前から大量の泥と岩の混じった水が表れ濁流となり、ヴィヴィアンごと大地を洗い流していった。
「ハハハ!私の勝ちですよ!ハーハッハッハッハ!」
「それはどうかな?」
「何!?」
濁流の中から声がしたかと思うと、泥を掻き分けてヴィヴィアンが飛び出し、そのままルディに食らい付いた。
「グハっ!」
ルディは血を吐いたが、ヴィヴィアンの噛む力はどんどん強くなっていく。肋骨からはミシミシと嫌な音が聴こえ、傷口からはダラダラと血が滴り落ちていた。ルディはなんとか逃げ出そうとジタバタ暴れたが、ヴィヴィアンに更に腕で押さえつけられてしまい、更に抜け出せなくなってしまった。
(このままでは不味いですね。こうなったら・・・・・。)
「止めておけ、今回はもはや貴様の負けだ。」
(ッチ、うるさい爺ですね。)
「どうせあの魔法だろ。止めておけ、確かにあれらは儂を倒すことは出来る。だが、この街を壊滅させる気かお前は?」
(!そうでしたね。しかし、確かにこれでは・・・。まぁ今後の課題が分かっただけでも良しとしますかね。)
「わかりました。今回は私の負けです。」
「ふん。これで分かったろう。これからは儂をもっと敬えよ。」
「分かりました。お祖父様。」
「なんか・・・お前に言われるとムカつくな。」
「ハハハ、よく言われますよ。」
「そうだな────ちょっと待て・・・・避けろ!」
「ハッ!」
ルディとヴィヴィアンの先程までいた場所には大量のワイヤーと魔法と衝撃が走った。ルディとヴィヴィアンは気配をギリギリまで消して様子を伺うと、3人の例の勇者達が現れた。
「どうだ?殺ったか?」
「分からない。こんなに暗くちゃね。」
「・・・・・・・。」
「ん?どうした?古城。」
「ん?あっいや。なんかの視線を感じたからな。誰だろって。」
「例の銀色の竜じゃないか?さっきの戦闘音もそれっぽかったし。」
「うーんやっぱりいくらかの血と鱗と毛ぐらいしかないよ。」
「じゃあ、それもって報告しようぜ。」
「そうだな。」
3人はヴィヴィアンとルディの戦闘後に残っていたヴィヴィアンの鱗とルディの毛を集めて、行ってしまった。
「ふぅ。やっといきましたか。」
「そうじゃな。」
「あれ、口調戻したんですか?」
「まぁな。こっちの方がよかろぅ?」
「・・・・好きにしてください。私は帰りますよ。」
「儂も行くぞ。」
「ハァ、勝者特権ってやつですね。どーぞ後勝手に。」
「ハハハ、相変わらずキツいのぅ!」
「後処理も手伝ってくださいよ。」
「嫌だ。儂、孫と遊ぶんじゃ。」
「・・・・・駄目だこりゃ。」
ルディとヴィヴィアンは《人化》すると、談笑しながら街を目指した。夜はいつの間にか白み初め朝日が上り、防衛壁は朝露でキラキラと輝いていた。
至る場所から歓声が上がり皆疲れたことも忘れて生き延びたことや、街を守りきったことに歓喜していた。
これにて第二章終了です。




