第13話
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私は何時まで生き続けなければいけないのだろうか。私は何時からここに居るのだろうか。私は一体何がしたかったのだろうか。いや、そんなことはもはやどうでもいい事か・・・。この忌々しい結界のせいでここから出られず、自分の体すら満足に動かせない。こんな事になるのならあの勇者の手助けなどしなければ良かったと過去の自分を責める日々には閉口する。自分の種族の特性上死ぬことも出来ず、結界の副次効果で気を狂うことも出来ない。最近時間が止まってしまったような感覚を覚えてから、益々自虐的な考えが私を蝕んでいく。あぁ誰か来てくれないものか、誰か私をここから出してくれないか、そんなことを考えながら私は今日も夢みる。もう一度自由に空を飛び回る夢を。
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「ふぁああ・・・」
変な夢を見たものだ。どんな夢かはぼんやりとして、余り覚えていないが楽しい夢では無かった。まぁ、どうでもいいか。
俺はベッドから体を起こすと大きく伸びをしてから、厨房へ赴き食糧を食い漁った。別に食事は必要無いが、今日の朝食は昨日の残り物である干し肉の塊と、チーズ、キャベツもどきとスイカもどきをサラダのようにしたものだった。サラダは冷蔵庫らしき大型の魔道具の中で見つけたものだ。
腹を満たしてから探索を再開しようと考えながら、朝食をとった。今日は昨日見つけておいた階段を降りていく予定だ。その階段はここより更に地下へと続いているようで、材質もこの建物とは全く違ったようであった。この建物は主に石やレンガをベースに木材で内装を暖かな印象を与えられるように考慮されて作られている。人が住む上での様々な利便性を感じさせる作りだ。一方その階段はこれまでのような暖かな印象は一切無く、むしろ離れたくなるような冷たいオーラを発してしていた。
俺は一瞬行くのを躊躇ったが他の場所は昨日で既に探索済みだ。仕方がないので、俺はどうにでもなれと腹を括り階段を下り始めた。
ヒタヒタヒタ───と俺が階段を下っていく音だけが響き、他には何も聞こえない。また上に湖があった為か、所々から水が染み出ている。その為空気中の湿度が高いのだろう。下れば下るほど肌寒く感じた。
暫く下っていると入り口から感じていた威圧感を更に強く感じた。ここにあるなにかを守る為に配置された守護者かそれそのものからか・・・。よく分からないが今の俺では全く歯が立たない相手であることは確かだ。もしかしたら俺はここで死ぬかもしれない。そんな思いが頭の中に浮かんでから、中々離れなかった。
しかし、ここで引き返す訳にはいかない。上のダンジョンでは多分俺の眷属達が俺の居場所へ行こうと、破竹の勢いで攻略しているだろう。部下が頑張っているのに自分は何の成果を上げない、これはボスとしてこれ程情けない事はない。
俺はそう自分に言い聞かせて、一気に階段を下っていった。坂道で一度走り出したら中々止まりにくい。そんな感覚を感じながら暫く行くと、ついに階段の終わりにたどり着いた。
地下室?だろうか。壁や天井は苔むした石で作られており時折水の滴る音が辺りに響いている。壁には等間隔でランプが吊るされていたが、どれもこれも壊れているようでとても暗かった。俺の目は暗いところでも余り問題なく見ることが出来るが、この地下室は全体的にボヤけて見える。恐らく魔法的な効果で見えにくくしているのだろう。何時かは忘れたが森の中に住んでた頃、木に擬態していた魔樹から強い衝撃を与えると《視界不良》や《麻痺》の効果を持つ煙を出す煙実を、投げつけられてその煙を吸ってしまった時と似ている。あの時にガドから聞いておいて良かった。
「さて、こんな罠が仕掛けてあるんだ、益々この先のお宝に興味が沸くな。」
俺は警戒を強めながらどんどん進んでいった。地下室はまるで大きな教会のような構造をしており、沢山の長椅子が並べてあり、豪華な祭壇が最奥にあった。だが、長椅子は木製だったためか、もはや椅子としては使えない程に朽ち果てており、祭壇もよく見れば汚ならしいタペストリーがあるだけで何の飾り気も失われていた。
俺はまず、祭壇以外を所々調べたが何も見つけられなかった。よって一番気になっていた祭壇に置いてあるタペストリーを見てみる事にした。タペストリーには一匹の龍が身体中を鎖で身動き取れないように拘束している絵が描かれていた。
「なんだよこれ?ここまで来て汚い絵だけかよ!あーあ期待して損した。」
そう言ってタペストリーを地面に叩き付けた。叩き付けられたタペストリーは意外と丈夫だったようで破れたりはしなかった。それがまた癪に触って、今度は龍の絵に向かって前足ではっしと殴り付けた。
『痛っ!』
急に何かの声が聞こえた為俺は敵襲かと思い、さっとその場から飛び退いた。何処からかわからなかったが・・・。はて?この空間には何か居るのだろうか?
『おい、そこの犬っころ。』
またさっきと同じ声だ。一体何処からだ?
『おい!まさか何処から声が出てるか解らないのか?ここだ!』
「うっせーよ!さっきから!ここってどこだよ!」
『絵だ!絵!お前さんが叩き付けた絵だよ』
「は?」
俺は疑いながらもタペストリーに近づいた。そこには頭を痛そうに擦っていた龍がいた。いや正確にはタペストリーに描かれた龍だ。龍はこちらに気が付くと、ふんっと鼻を鳴らしたかのような仕草をした後、口を開き
『全く、いきなり叩いてくるとは・・・。老龍は労れと教えられなかったのか?これだから最近のは・・・・。』
といきなりお説教をはじめた。
(なんだよこいつ・・・。只の老害龍じゃねーかよ。ハァー面倒くさ・・・。)
「あーそれはどうでもいいからさお前なんなんだよ。」
『そりゃ勿論、儂は嘗て多くの人間や魔族から恐れられた不死竜───ってお主儂の話をきちんと聞いておらんのかーー!!』
「うん☆聞いてない。興味ないし。」
『なんじゃとー!!お主其処に座れ!説教じゃ!!』
そんなやり取りが、この先長い付き合いとなる不死竜との初めての出会いだった。




