第5話 戦士の素質とすれ違う正義
自らの勝手な都合で投稿が遅れてしまいました⋯⋯!
自分で定めた投稿時間すら守れない私はどうしようもないクズです!
次からこんなことが起こらないよう、誠心誠意努めさせて頂きます。
「そろそろ現れてもおかしくないな」
ウルスは武器を手に取り、辺りを見渡す。前方には小さい森があり、そこに目星をつけた。その場所は身を隠すには絶好の場所で、俺もそこに盗賊が潜んでいると睨んでいる。もう少しでその森に到達するだろう。リーダー格がどの程度の実力かは分からないが、警戒する必要があるだろう。
馬車を全速力で走らせているため、風を強く感じる。その強い風は俺の心を酷くざわつかせていた。
警戒が強まる馬車内で、カネンがいきなり話しかけてきた。
(さっきの戦いだが⋯⋯。中々に良い腕してるじゃねえか。人間と戦うのに慣れている、そんな感じがしたぞ。)
カネンは「何故だ?」と問い質す。すごい観察力だ。戦争傭兵をやっていたというだけあって、多くの人間を見てきたのだろうか。
(俺は小さい頃から父に鍛えられてきたんだ。俺の夢を叶える為に)
小さい頃の記憶を思い出す。俺は父から徹底的に対人の基礎を叩き込まれてきた。世界を知りたいならば必ず必要になるだろう、と。
元冒険家であった父は、旅先で戦いに巻き込まれることも少なくなかったらしい。故に俺は生き残るための技術として、剣術も習っていたのだ。よく泣かされたのを覚えている。
(旅をするのに、魔獣より人との戦い方ねぇ⋯⋯。おめぇの親父さんは随分と分かってるじゃねぇか)
カネンは感嘆しているようだ。そういえば、この男も大陸を転々としていた、と言っていた。
(人と人ってのは分かり合えねぇものさ。俺達は同じ《ジン》同士でも殺しあってんだ。別の《領域》のヤツらと分かり合うなんて、難しいに決まってらぁ)
カネンが言うことにも納得がいく。俺達の人種である《ジン》が住まう《第一領域》の中ですら、三国が争いを続けている。ましてや、他の領域についてなど、考えも及ばない。
(世界を旅するってのは、簡単じゃないよなぁ)
俺の言葉にカネンは吹き出す。
(あたりめぇだろ!世界ってのはとんでもなく広いんだぜ?楽にいくわきゃねぇ!)
(だよな。でも、そんな俺の夢も今や《使命》となったんだ。難しかろうと成し遂げてみせるさ)
(夢?使命?どういう意味だそりゃ?)
そういえば、まだコイツに教えていなかったか。
(小さい頃からの夢だ。俺は世界を周り、前人未到の《領域踏破》ってのを成し遂げたかったんだ。)
(そりゃとんでもなく大きな夢だな)
カナンは呆れる。しかし、呆れるのも無理はないだろう。
俺達の住む世界には、十の領域が存在していると言い伝えられている。だが、確認されているのは第四領域までであり、それ以降の領域はその存在すら未知なのだ。
そんな十の領域全てを周りきることを《領域踏破》と呼ぶ。まさに夢物語、神話のような話だ。
でも俺は、そんな夢を女神に肯定されたのだ。少なくとも、俺はそう感じている。
俺は《使命》として、夢を成し遂げるのだ。
(カナン。信じないとは思うが、俺は一度死んでいるんだ。そして、女神に甦らせて貰っているんだよ)
(そりゃ突拍子もない話だな⋯⋯)
(そん時に言われたんだ。世界を旅しろってな。最初は幻聴かと思ったが、あの爆発で生き残っているのは不自然だし、現にアンタを呼び出した《力》ってのも、そん時に女神に与えられたものだと思ってる)
(突拍子はねぇが信じるぜ俺は。その方がおもしれぇしな)
楽しそうに笑うカネン。まるで御伽噺を聞かされた子供のようだ。
(なら俺は、おめぇさんの夢の手伝いをしてやるよ。おめぇは夢を叶えて、物語の英雄になりやがれ)
盛り上がってゆくカネンに俺は内心苦笑いをした。《使命》と言ったが、何をすればいいのかも正直よく分かっていない。旅をするといっても、それだけで《使命》をこなしているとは思えないのだ。
俺の夢は無謀すぎて、想像すらつかないのだから⋯⋯。
「そろそろだな」
ウルスの言葉に意識を戻す。気づけば数分経過し、森は目の前に近づいていた。
盗賊は森に潜んでおり、待ち伏せているのだろう。
そう俺達は考えていた。しかし、森の入口前にて、風を切って矢が飛来する。その矢は馬車の動力である馬に命中した。
動いていた馬車が急停止したことで、俺達は馬車の外へと吹き飛ばされる。
「きゃあ!」
ルプスやカメルの悲鳴が響く。
飛ばされ、転がり、体を傷だらけにしながらも何とか俺は立ち上がる。
真横では、ウルスも腕を負傷しているものの、フラフラと立ち上がっていた。
しかし、ルプスとカメル、そして運転手は気絶しているようで動かない。
ルプスは頭を怪我したらしく、血を流している。急いで救護しなければ危険だろう。
「お!二人も意識があるじゃねぇか。」
姿を見せた盗賊が嬉しそうに笑う。
「怪我だらけじゃねえか。殺して楽にしてやろうぜ!」
剣をユラユラ揺らしながら、ゆっくりと近づいてくる盗賊。
周囲を確認すると、盗賊の集団に包囲されている。その数、八人といった所か。
「逃げ場はないぜ?」
徐々に接近する盗賊。その目は獣が獲物を嬲る時の目をしている。
どうやら、コイツは既に勝ちを確信しているらしい。
「どうするマルク?」
小さく尋ねるウルスであったが、
「どうするもこうするもねぇさ! お前らは完全に詰みだ! お前らは今から死ぬのさ!」
この距離ならば盗賊にも聞こえたのだろう。俺の代わりに盗賊が答えた。
(で、どうすんだ?)
カネンの言葉に俺はニヤリと口角を上げる。
(今盗賊が言ってたじゃないか。どうするもこうするもねぇってさ。だから、)
「こうするんだよ!」
吹き飛ばされようとも手放さずに持っていた剣を真上へと振り抜く。
振り上げられた剣に反応してみせた盗賊は、咄嗟に剣でガードを試みる。
だが、俺の剣は盗賊の剣をへし折り、その勢いのまま盗賊の顎を捉える。
ミシリという音ともに、浮き上がる盗賊。そして包囲していた者達の方へと飛んでいき、数人を巻き込んで崩れ落ちた。
(いいねぇ! 俺を呼び寄せただけあって、いい凶暴性だ!)
カネンが巫山戯た事を言う。人間誰であろうと、追い込まれたらこうするだろう?
「畜生が!」
包囲していた盗賊が一斉に襲いかかる。
「ウルス! ルプス達を守ることに専念しろ!」
「任せな!」
傷つきながらもその身を動かし、盗賊の攻撃を避けるウルス。片腕だが、彼の怪力で振るわれる剣に盗賊は容易に近づけないでいる。
「かかってこいよ!腰抜け共!」
俺の挑発に二人がかかる。
不用意に間合いに近寄ってきた二人に、横薙ぎで打撃を叩き込む。
片方の横腹に命中し、その内臓を揺らす。あまりの痛みに蹲る片割れ。
最初に一人に当たったことで軌道を曲げられる。が、迷いのない一撃は多少軌道が変わろうとも、ものともせず進む。少し跳ね上がった打撃は敵の腕をすり抜け、脇に命中する。
盗賊は骨を砕かれた痛みに耐えきれず倒れ込む。
「次ィ!」
警戒し、距離を取った盗賊の一人に狙いを定める。
本能のままに距離を詰める。
無謀ともいえるその動きに不意をつかれた盗賊は、攻撃を避けることも防ぐこともできず、振り降ろされる剣を肩に受ける。
体制を崩した盗賊は勢いのまま地面へと叩きつけられた。
一瞬にして三人を仕留められた盗賊に、焦りが生まれる。
手負いのウルスを仕留めようとしていた内の二人が、俺の方に視線を向けた。
その瞬間、
「隙ありだぜ!」
チャンスを見逃さず、ウルスはその二人を斬りつける。怪力によって勢いのついた一撃により、二人は体を斜めに斬りつけられ、気を失って倒れ込んだ。
八人の内、五人を倒された盗賊はゆっくりと後退する。
そして、その内一人がパチンッと指を鳴らした。
「動くんじゃねぇ!」
茂みから現れる一人の男。そして、そいつの腕には、捕らえられた女の姿。
「動けばこの女を殺す」
ナイフを女の首に宛てがい睨む男。
「マルク⋯⋯!」
ウルスは既に武器を手放し、手を挙げていた。
「お前も武器を捨てな!」
大声で叫ぶ男。
(用意周到なこった)
カネンは呆れたように笑う。
「早くしろ!」
武器を手放さない俺に慌てる盗賊。
地面を強く蹴る。
思いっきり剣を突き出す。
勢いのついた突きは捕らえられていた女性の腹部に命中する。
「なっ!?」
その場にいた全員が戦慄する。
「な⋯⋯ぜ⋯⋯?どう⋯⋯やって⋯⋯見破った⋯⋯?」
倒れ伏す女が声を絞り出して聞いてくる。
「勘」
「嘘だろ?」と声を震わす盗賊。
倒れた女は「イカレてやがる」と吐き捨てて、意識を手放した。
「あとはお前ら四人だけだ。武器を捨てて投降しろ!」
人数差は相変わらずであるが、気迫で脅す。
「畜生⋯⋯!」
諦めず突っ込んでくる一人に剣を振り下ろす。
なりふり構わず突っ込んできた盗賊には当然防ぐことはできず、背中に重く命中し、意識を刈り取った。
その様子を見た残りの三人は武器を捨て、手を挙げる。
「大人しくお縄につけば攻撃は加えない」
そう囁き、その場に倒れていたもの全員をかき集めて縄で縛り付けた。
「ウルス! 全員捕らえたぞ!」
振り返って声をかける。俺が盗賊を縛り上げる間にルプスに応急処置を施していたウルスは、俺に向けて質問を投げかけてきた。
「何故? 何故あの時攻撃したんだ?」
ウルスは俺の目を見て離さない。
「何故って⋯⋯。怪しいと感じたから? ヤツらの作戦の慎重さから、あれくらいしてもおかしくないと思ったんだ」
「それだけで攻撃したのか?」
信じられないといった顔だ。
「事実、敵だったじゃないか」
「だが! もし間違えれば、罪なき者に被害が及んでいた!」
ウルスは心から怒鳴った。
「攻撃しなけりゃ俺らがやられてたじゃないか。ルプスもカメルさんも」
「それはそれだ⋯⋯! ⋯⋯このことは街に着いてからしっかりと問い質させてもらうぞ!」
納得がいかない様子のウルスはルプスたちを馬車に乗せた後、俺に背を向け馬の足を手当し始めた。
ウルスが手当を終えると、直ぐに運転手も目覚めたので、状況を伝える。
再度動き出す馬車、未だに目覚めぬルプスとカメルを寝かせ、できるだけの最高速度で街を目指した。
その車内ではウルスは口を開くことは無く、静寂がそこを支配していた。
(坊主! お前、戦士の素質あるよ!)
静かな車内に対し、カネンは嬉しそうに騒ぐ。
(急になんだよ⋯⋯)
ウルスに怒鳴られ、意気消沈している俺は正直、静かにしていて欲しいと思う。
(いい勘と判断だったぜ! ウルスとかいう奴は納得いってねぇみてぇだが、おめぇはあれでいい! 戦士ならば自らが生き残ってこそだ。時には無慈悲な判断も必要になる! それに、勘の強さも大事な要素だ。 おめぇ、戦士向いてるよ!)
褒めちぎるカネン。
ウルスの怒りとカネンの賞賛。二人の意見の違いに混乱する俺を尻目に馬車は街へと走り続けていた。
《盗賊》
生まれつき貧困な者、敗残兵、ビジネス。
様々な理由で盗賊になる者がいる。この世界においても盗賊とは普通に犯罪者であり、捕らえられた盗賊は街の法によって裁かれる。その裁量は街ごとに委ねられている。
今回襲ってきた盗賊は、それをビジネスとしている類の者達であった。