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エリア10 ~英雄の記憶~  作者: 猫島丸
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第4話 剣の真価

間に合った⋯⋯

「朝ですよ~!」


 ルプスの声で目が覚める。そういえば、ギルドに泊めてもらっていたんだっけか。俺は「おはよう」と返して起き上がる。


「そこにあるパンが朝ごはんだから。食べちゃって!」


 部屋の中央にある丸机にパンが二つほど置かれている。結局昨日は晩飯まで奢ってもらっている。朝ごはんまで頂いてしまって申し訳なく思う。


「ありがとう。いただきます」


 この恩は依頼の時に返そうと思う。

 彼らの引き受けている盗賊討伐の依頼は、最近、オービス周辺で頻発している商人への襲撃事件の原因と思わしき、盗賊の討伐との事であった。

 となると、商人の護衛をしつつ盗賊の出没を待つ、という形になるだろう。ある程度、時間のかかる依頼になるかもしれない。

 どっかで日雇いの仕事を見つけて、飯くらいは自分で確保する必要がありそうだ。


(なぁ坊主。おめぇの得物っつーのは、何だったんだ?)


 昨日急に現れたコイツが話しかけてくる。


(なんだよ急に、ロングソードだけど問題があるのか?)


(あるぜ。戦い方を多少変える必要がある。おめぇが選んだこの剣は、見ての通り普通じゃねぇ)


 なんか事実が改変されているぞ⋯⋯。


(待て、お前が選ばせたんだろ!)


(選んだのはお前だろ? 俺は選ぶように勧めただけだぜ。んで、この剣は普通じゃねぇから扱い方も普通じゃねぇ。俺が教えてやっから、暇がありゃ練習しな)


 ふざけたこと言いやがる。だが、教えを受けられるのは助かる。


(ふーん、わかったよ)


(なんだ、聞き分けがいいじゃねぇか。嫌がるかと思ったぜ)


(この剣が変わってるのは分かっているからな。使い手に教わっておく方がいい事くらい分かるさ)


(よく言った!俺が坊主を立派な鈍器使いにしてやるよ!)


(鈍器!?)


 聞き捨てならない事を言われた気がするが、ルプス達に呼ばれたので泣く泣くスルーする。


「マルク~。そろそろ護衛させて頂く商人の方が来るから降りてきて~」


 俺はウルスが持ってきてくれた古着に袖を通す。鈍の剣を背負い、ギルドホールへと降りていった。




「今回はよろしくお願いします~。カメルといいます~」


 カメルと名乗る男が細い目をより細めながら、ペコペコとお辞儀をする。この男が護衛する商人か。


「俺達が護衛をさせて頂くビジランテのメンバーだ。俺はウルスという、よろしく頼む」


「私はルプス!」


「マルクだ」


 彼らに続いて礼をする。カメルはニコニコ笑いながら、「では早速」と歩き始める。


「既に壁門の傍に荷を止めてあるので、直ぐにでも出発しましょう~」


 俺達は全員でカメルの後に続く。

 門に辿り着くと、そこには一台の馬車が止められていた。


「この荷台に乗っていてください~。盗賊が出たらよろしくお願いしますね~。私としては、出ないでくれると嬉しいのですがね~」


 彼はヘラりと笑いながら運転手に合図を送る。そして馬車は動き出し、俺達はオービスを発った。




(盗賊狩りかぁ。懐かしいな。俺もよく盗賊を潰したもんだぜ)


 ガタガタ揺れる馬車内で、カネンが昔を懐かしんでいた。


(というか、お前って何者なんだ? そもそも人間なのか? 剣の妖精的な存在?)


 今更な疑問が浮かぶ。


(俺か?俺は人間だったぜ。生前は戦争傭兵をしながら大陸を転々としていた。今がいつで、俺がどんくらい昔の人間なのかはよく分かんねぇけどな)


(戦争傭兵ねぇ)


 かつて、この世界のそこら中で戦争が頻発していたと聞く。こいつもその頃の人間なのだろうか。だいぶキマってる話だが。


(おうよ。「猛犬」のカネンって呼ばれててよ。それなりに名の知れた戦士だったんだぜ?)


(野蛮そうな二つ名だなぁ⋯⋯)


 だいぶ凶暴なやつなんだろうなぁ、と想像がつく。


(それだけ強かったってことだ!)


 カネンは得意げな声色で言う。


(つーかお前、どうやって現れたんだ?剣に怨念込めてたとか?)


 呪いの剣疑惑をぶつけてみる。


(ん?おめぇ気づいてねぇのか? 俺を生み出したのはおめぇ自身だぜ?)


 衝撃の事実を告げられる。コイツは俺の心が生み出した幻聴だったのか⋯⋯。


(勘違いすんなよ? おめぇの「力」が俺を生み出したんだよ。なんの力か知らねぇけど、おもしれぇ力を持ってるよなお前)


 力? 俺の? 

 そして、頭に女神の言葉が浮かぶ。もしかしたら、彼女が言った「力」というのはこの事か⋯⋯。


(俺の指導を受けられるなんて、おめぇはラッキーだよホント)


 コイツはそう言うが、未だに指導は受けてないので何とも言えない。

 しかし直後、コイツの凄さを身を持って知ることになる。




「盗賊出ないですねぇ」


 辺りを警戒していたルプスが唸った。


「出ない方が嬉しいですよぉ~」


 護衛されているカメルは笑いながら言う。

 護衛する道も折り返し地点に到達し、馬車内は若干ではあるが緊張が薄れていた。


「カメルさんの安全が第一だからな。出ねぇなら出ねぇでそれでいいさ」


 ウルスは手持ちのグラディウスを弄りながら呟いた。


 しかし、その数十分後である。


(坊主、気配がするぞ。こりゃ十人はいるな)


 カネンが真面目な声色で言った。


(十人もか? 全く見えないぞ?)


 カネンに言われ、荷台に隠れながら辺りを見渡すが敵影は全く見えない。


(盗賊ってのは奇襲のプロだ。そりゃ見えるわけねぇだろ!)


 カネンが声を荒くする。


(分かったよ。あとどんくらいで出てきそうなんだ?)


(あと数分といったところだな。恐らく、他にも仲間がいるんだろう。後ろから追い立てて、挟み撃ちにするつもりだろうな)


 カネンはそこまで読んでいる。もしかしたら、只者では無いのかもしれない。


(教えてくれてありがとう。皆にも伝えるよ)


 俺は剣を手に取り、立ち上がる。


「つけられている。人数は恐らく十人位だ」


 突然の報告に全員が驚く。


「おいおいマルク。なんで分かるんだよ? しかも、人数まで」


 ウルスは訝しげな顔をする。


「気配を感じるみたいだ。ヤツらが姿を見せた瞬間に迎え撃とう」


「みたい?」


 ルプスは首を傾げる。うっかりしていた。


「いや、言い間違えた。つけてきている気配を感じるんだ」


 全員は半信半疑といった感じで警戒を強める。


「カメルさんは身を隠してな」


 ウルスはそう言って、カメルを隠れさせる。


「様子から見て、あと数分で襲撃してくるだろう。その時はその場で停車して戦おう」


 俺の提案にまたも二人は戸惑う。


「こっちにはルプスがいる。弓で逃げながら戦うべきじゃないのか」


「そうだよ。安全かつ確実に人数を減らした方がいいよ」


 二人の言うことも当然だ。停車するということはカメルさんの身の危険も高まる。


「いや、多分前方にも待ち伏せがいる。合流される前に後方の部隊を殲滅したい」


 二人は三度目の驚きの様子だ。


「なぜ、そう思うんだ?」


「俺らが緊張を解きつつあるのはヤツらも分かっていただろう。それでもその時に襲わなかったのは、多分だけど計画があるからだと思う。襲うタイミングを打ち合わせているんだろう」


「気配を察知したお前が言うんだ。信じてみようじゃねえか」


 ウルスは武器を担ぎあげて頷く。


「私もマルクを信じるよ」


 ルプスも弓を番えて目配せをする。


「ありがとう皆。そろそろ、ヤツらも姿を見せると思う。その瞬間に馬車を停めて迎え撃つぞ」


 そして、運転手に合図を送る準備をする。

 数十秒経過し、カネンが予想していた通り、十人の盗賊が姿を現した。


「今だ!」


 馬車を急停止させる。そして、その勢いのまま馬車を飛び降りる。


「俺が突っ込む!ウルスは馬車を守りながら援護してくれ!ルプスは弓で撹乱を頼む!!」


 武器を構え、敵陣の中央に突っ込む。


(ようし!実戦指導といこうか!)


 カネンが活き活きと叫んだ。


「な!?」


 意表を突かれた盗賊達は統率を乱している。


(この剣は切ったり、貫くために用いるんじゃねぇ! 殴るために使うんだ!!)


 カネンがヒートアップしていく。


(刃こぼれの心配もねぇ! 敵の身体目掛けて思いっきり振り抜け!)


(わかった!!)


 言われた通り、思いっきり振り抜く。いつもならば刃こぼれをしないように打ち合いは避ける。しかし、この武器にはそもそも刃がない。ならば、刃こぼれのしようがないのだ。


「くそっ!」


 盗賊の一人は突然の攻撃にも何とか反応し、構えていた剣で防ごうとする。


 だが、全力で振りぬかれた剣に盗賊が構えていた剣はへし折られる。


「なんだとぉ!?」


 そして俺の剣は盗賊の身体を捉え、鈍い音とともに数メートルほどその身体を吹き飛ばす。


(やるじゃねぇか!この剣、最高だろ?)


 カネンは嬉々として笑う。


(剣と呼ぶのは癪だけど、中々にいいな!)


 むしろ、いつも使っていたロングソードより扱いやすい気がする。


「やるな⋯⋯」


 後方でウルスが唸る。


「マルク、後ろ!」


 後ろから迫る盗賊の一人の足ににルプスの矢が命中する。

 その盗賊は勢いのまま倒れ込んだ。


「助かる!」


 (よし、坊主!今度は思いっきり踏ん張れ!)


 俺は言われた通りに地面を足で捉え、踏ん張る。


(そしたら、武器を突きの構えにしろ!でもって、敵目がけて飛びかかれ!)


 向かってくる盗賊の一人に狙いを定める。そして、踏ん張っていた足を踏み抜いて突進する。

 リーチの長いこの剣は、敵の剣よりも速く敵の身体に到達する。

 勢いの着いたこの突きは、敵の体は貫かず、力をそのまま伝える。そして再び鈍い音がし、敵は吐血し倒れ込んだ。


(いい突きだ!)


 馬車の周りでは、ウルスが盗賊二人を斬り伏せている。


(坊主!跳べ!)


 カネンの言葉に反射的に反応する。空中で足元を見れば、敵の放った矢が刺さっている。


(丁度いい!その勢いで叩きつけてやれ!)


 俺は迫っていた敵の肩に剣を振り下ろす。

 敵は剣を防ごうとするが、その得物も弾き飛ばし、敵の肩に命中。俺の一撃はその肩を粉砕した。


「ぐぁぁぁぁ!?」


 あまりの激痛に盗賊は転がり回る。


(終わったな⋯⋯)


 カネンの言葉に振り返ると、ルプスが短刀で盗賊を無力化し、ウルスがさらにもう一人を倒していた。


「ひぃ!」


 逃げようとする残りの二人。しかし、


「逃がさないよ!」


 ルプスの放った矢が一人の足を貫く。そして倒れ込む盗賊。


(坊主。トドメだ)


 カネンに言われるまでもなく、俺の体は敵を追っていた。


「喰らえっ!」


 敵の横腹に重い一撃を叩き込む。ノーガードで喰らった盗賊は為す術もなく吹き飛び、転がる。


 こうして、俺達は盗賊の襲撃をほとんど無傷で防ぎきったのであった。




「予想的中だ。やるなマルク」


 感心したようにウルスが頷く。


「役に立てて良かったよ」


 軽く会話を交わしながら、盗賊達を縛り上げていく。怪我をしているがお構い無しだ。


「こんなものかな!」


 ルプスが何重にも縄も結びつけ、可哀想なくらいにガチガチに固める。そして、ウルスと俺で引きづって、荷台へと詰め込んだ。


「皆さんお強いんですねぇ~」


 隠れていたカメルが手を叩く。


「こいつらは目的地の街でお縄になってもらいましょう~」


 カメルはのほほんと笑う。


「油断はまだ禁物だ。待ち伏せを警戒して進もう」


 カネンが言っていた通りなら、この先に待ち伏せが潜んでいるだろう。


「挟撃しようとしているヤツらに不意打ちを仕掛けるっつーことだな」


 ウルスは武器を担ぎ、闘志を燃やす。


「一日で盗賊討伐を完遂しちゃうかもね!」


 ルプスは嬉しそうにガッツポーズをとる。


 俺達はこの先に待ち受けているであろう盗賊を全員捕らえるべく、馬車に乗り込んだ。


(坊主。恐らく、先にいる部隊にはリーダー格がいるだろう。おめぇがそいつを出だしで討ち取りな!)


 カネンは面白そうに笑う。


(わかった。あんたに出会えて?良かったよ)


 今の俺の本当の気持ちだ。


(あたりめぇだ!なんたって「猛犬」のカネン様だぞ?)


 自信満々に名乗るカネン。


(あぁ。よろしく頼むよ、カネン)


 俺は鈍の剣に触れ。静かに微笑んだ。


《鈍の剣》

かつて「猛犬」カネンが好んで使っていた剣。刃が存在せず、本人が言う通り鈍器である。持ち手に何らかの金属の棒がくっついている様な見た目で。剣と呼んでいいのかは定かではない。

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