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おっさん再会する

 光太郎が出ていった部屋の一室でシャロンはアイリスが入れた紅茶を飲んでいた。

 紅茶のお代わりを入れつつアイリスがシャロンに訊ねる。


「お嬢様、あの奴隷は例のお菓子のことで、嘘を言っております。少なくともどこで手に入れたかわかっている筈です」


 アイリスは光太郎が言ったことなど全く信用してなかった。それはシャロンも同じで


「わかっているです。でも、教えてくれない気がするですね」


 金色の髪が左右に振れる。シャロンは光太郎はお菓子のことは言えない理由があるのだろうと見当をつけていた。

 しかし、アイリスの考えは


「一刻も早く、製法なりどこの街から購入したかを聞き出さないと〈掟〉を果たせません。お嬢様、次期後継者の推薦を受けるためにも我々は金を稼がなくてはならないはずです」


 シャロンが都市シャンバに来た理由には家の〈掟〉を果たし、本家の後継者としての力を証明しなればならない為である。そのために金を稼せがなくてはならなく、シャロンは光太郎の持っていたお菓子に目をつけた。権利を取れば金を稼ぐのは容易と考えていたが、光太郎が話さないので、その手が使えないのだ。

 生活費、予定外の奴隷(光太郎)を買ってしまったために残りの金は増えるどころか減ってしまった。

 〈掟〉に期間は定められていないが、シャロンには早く掟を果たし、後継者としての推薦を受けないといけない理由があった。


「お嬢様の許しがあれば、奴隷の身体に聞きます。あの緊張感のない雰囲気、指の1本も折ればすぐにでも自分から話すでしょう」


 光太郎がその場に居たら卒倒しそうなことを平然と話す。


「アイリスは性急すぎるです。〈掟〉を達成する方法はお菓子以外でもあるですよ」


(それに……今朝見たものは……)


「アイリスは今朝、おじさまを起こした時なにか見えましたか?」


 朝寝ている光太郎の状態を思い返す。誰にも話していないが、シャロンには〝力〟を与えられたモノを視る眼がある。今朝の光太郎にも突如、何らかの〝力〟を持っているのが視えた。

 まだ、〝力〟に気づいてないのか、隠しているのかはわからないが、光太郎自身の価値はもしかしたら、お菓子の権利より上かもしれないと思えた。


「?だらしない顔で寝こけていただけではないでしょうか?」


「そうですか……」


 しばらくの間沈黙が続く。

 黙ってしまったのはシャロンが不安に駆られたためだろうとアイリスは考え、励まそうとする。


「お嬢様!私はどんなことがあってもお嬢様の味方です」


「あの時、お嬢様に救われたこの生命、お嬢様の為に使うと決めています!」


 アイリスは化け物と呼ばれ、迫害された過去を思い出す。目の前の主人(シャロン)はあの時、絶望しかなかった自分に救いの光を与えてくれたのだ。あの時アイリスは決めたのだ。どこまでもシャロンの為に生命を使うと。


「ありがとうです。これからもシャロンに力を貸してくださいですね」


 感動の涙を流し、感激です!と叫んでいるアイリスを尻目にシャロンは幼い姿から考えられない雰囲気を漂わせ思考する。

 アイリスは〝力〟を与えられた者だ。側に置いてるのは、アイリス本人のことを好いていることもあるが、その〝力〟がシャロンにとって必要だからだということもある。

 もしも光太郎も〝力〟を持っていたとしたら……ならば、その真価を見てからでも、お菓子の情報を聞き出すのは遅くないと思ったのだ。


(おじさまがシャロンに必要な人材か証明してみせて下さいです)


 考えをまとめると、窓から町並みを見つめ、アイリスが入れた紅茶を口に含んだのであった。



  ◆



 困った。勢い良く屋敷を出たは良いが、冒険者ギルドの場所がわからん。

 所謂迷子というやつだな。

 昨日は疲れていた上に夜で道がわかりにくかったからな、と自分を擁護する。

 仕方ないので辺にいる人に冒険者ギルドまでの道を聞くしかないか。


「そこの焼き串食べてる人、すいませーん。冒険者ギルドまでの道教えてくれませんかー?」


「……モグモグ……」


 声の代わりに振り向いた人物は、昨日俺を助けてくれてた、魔術士の少女、フレアだった。眠そうな目をしながら口いっぱいに焼き串を頬張っている。


「……焼き豚串を3……4本追加……」


 こちらを確認すると、すぐ屋台に向き直り、追加注文していた。え……無視されてる?


「毎度、4本追加で。代金は銅貨8枚だけど、お嬢ちゃんには銅貨6枚でサービスしちゃうよ」


 美人は得だな。って、いやいや、その小さな体の何処にそんなに食べるスペースあるんだ?

 いやいや、それよりもフレアなら冒険者ギルドの道のりわかるはず。


「ちょうど良かった。冒険者ギルドまで……」


 ギュルルルルゥゥゥ


 凄まじい音が鳴った。なんの音かって?……俺の腹の音です。そういや、異世界来てからまともに食事してなかったわ。

 美味しそうな肉の焼ける匂いで空腹だったことを思い出してしまった。こんなことなら屋敷で何かをもらえばよかったよ。

 しゃがみこんで腹を押さえていると、すっと目の前に串が出された。


「おまけしてもらったから……」


 そこには眠そうな目をして、串を指の間に握り込んでいた、美少女(てんし)がいた。



「ありがとう。美味しかった」


 なかなかボリュームあって食べ応えのある焼き串だった。異世界でも豚の味は変わらないらしい。

 隣では、フレアが4本目の焼き串を口をいっぱいにしてモグモグと食べてる。

 あれを全部食べるとか異世界の人間はすごいな。シャロンもあんな姿で大量に食べるのかな?


 しばらくして食べ終えたフレアは口をハンカチで拭いながら


「……えっと……何?」


 名前を名乗ってなかったことに気づいた。


「俺は光太郎だ。昨日は助けてくれてありがとう。」


「実は冒険者ギルドどこだか教えて欲しいんだ」


 改めて礼を言う。今考えると助けてもらえなかったら、荒野で野垂れ死にも有り得たのだ。……その後売られて奴隷になったけど。


「コウタロ……コウは、ギルドに行きたいの……?」


 俺の名前が長いと小さく言ったの聞こえたぞ。5文字を略されるとは思わなかった。

 しかしなんというか、マイペースな子だな。


「自分買い戻す為に仕事探してるんだよ」


 フレアはコクンと頷いて


「……着いてきて……」


 道を教えて貰えればよかったのに、彼女は案内してくれるようだ。これでようやくギルドに向かえるよ。


 目の前をひょこひょこ動く頭に着いていく。ようやく、落ち着いてきたので昨日は見れなかった異世界を観察することができた。

 都市の中の大通りを歩いているのか、人通りの多い、広い道が真っ直ぐ続いている。道の端には露店が建ち並んでいて色んな匂いが鼻をくすぐった。

 すれ違う人も、腰に剣を吊り下げて歩く冒険者、子供の手を引く母親、重厚な鎧を着た騎士らしき人。様々な人が行き交いしている。

 ふと気になるとがあった。猫耳の少女が歩いていたのだ。南には獣人の国があって、人を攫っているんじゃないのか?


「フレア。あそこに獣人いるけど、大丈夫なのか?」


 フレアは猫耳の少女を見ると


「あの子らは半獣人(なりそこない)。人の要素が強く出て獣人の中では迫害される存在……半獣人は獣人の縄張りではなく、人族の中で暮らす者もいる……」


 さっきの猫耳少女は耳と尻尾以外は人と変わらない容姿をしている。ということは、獣人とはもっと獣らしいということか。二本足で直立する虎や熊を想像する。違和感しかない。


「捕らわれたとき……見なかった?」


 そういえば、捕らえられた設定だった。慌てて誤魔化す。


「気がついたら捕まってたし、逃げる時は無我夢中だったから、よく見てなかった」


「……そう……」


 あまり興味がないらしい。小さく頷き、歩いて行く。深く突っ込まれなくてよかった。この件についてはあまり話さない方が良さそうだな。ボロが出そうだ。

 そう考えながら、フレアの後を着いていこうとしたら、前から走って来た人にぶつかりそうになる。

 危ないな、咄嗟に足を軸にして回転してヒラリと躱す。


「悪ぃな。急いでいるんだ!」


 男はこっちを見ることもなく、他の人にもぶつかりながら逆方向へと走っていった。

 ……ちょっと待てよ……


「フレア、ちょっとごめん。トイレ行ってくるわ。そこで待ってて」


 返事を聞くより早く、走って今来た道を戻る。俺の目が確かなら、先程の走ったきた男はスリだ。

 ぶつかりながら懐から何かを抜き去っているのが見えたのだ。

 俺は正義感に溢れ、犯罪は許さないというほど若くはないし、真面目でもない。が見てしまった以上、ほっとくわけには行かない。

 俺は男を追って人混みを抜け、だんだん狭い路地を奥へ奥へと走っていった。


 ──この時俺は、屋敷を出た時から監視されていたことに、跡を付けられていたことに気づいてなかった──

読んでいただきありがとうございます


次話で呪文解禁!おっさんは異世界で初戦闘を経験します。


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