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おっさん所有者が決まる

 薄暗い部屋の中の中央部に位置した壇上に明かりが集まっている。

 そこでは奴隷を売るために1人ずつ壇上に運ばれ、奴隷の経歴を伝えていた。

 奴隷になる理由は人それぞれみたいだ。経歴を聞くと借金が返せない者、家族に売られた者、自称高貴な血筋で跡目争いで負けた者などいた。

 ただ、犯罪者などは別で、問答無用で鉱山奴隷や農業奴隷などのあまり人が働きたくないキツい仕事に回されるらしい。


「さぁ、続いてはこの男。アックスは皆さんご存知の通り、元冒険者であり、あの大魔熊(デビルベアー)を討伐した実績のある力の持ち主です!いつものように借金で奴隷落ちなので、このアックスを欲しいお客様はアックスの借金の立替と買戻し料、銀貨100枚か金額1枚からになります」


 ギルド職員が奴隷の情報を伝えている。高く売れれば、ギルド側としても買戻し料以上で売れれば差額がギルドに入るから売り込みに熱が入っている。

 聞いたところ、この男は能力の高い冒険者らしいが、金銭感覚が壊滅的らしく、報酬以上に豪遊してギルドからの借金が規定以上になったことで、借金返済のために度々奴隷に落ちているらしい。能力があるから奴隷冒険者となっても金を稼いでは解放されの繰り返しみたいだが。

 案の定、買い手がつかずそのまま裏に運ばれる。堂々とした姿に奴隷らしさは感じられなかった。あんな奴もいるのか。


 さぁ、次は俺の番だ。なるべく堂々と壇上へ向かう。

 俺も買い手がつかないで、奴隷冒険者になろうと考えている。

 冒険者ギルドで仕事すれば自然にこの異世界のことを知ることができるだろうし、元の世界に還るための情報も集めることができるだろう。

 還るための情報が見つからなくても、自分を買い取って冒険者になり、他の都市に向かえばいい。

 俺はアピールしたいことは無いと、ギルド職員に伝えてあるので、俺についての紹介は名前くらいだろう。格好もボロジャージのままなので薄汚い男を買おうとする物好きなど居ないはずだ。


「続いて、この男。名をコウタロウ、獣人族の人狩りにあって、奴隷となったが、逃げ出してギルドに保護されました。銀貨50枚からとなります」


 競売までの待ち時間に受付嬢(ヴェリ)から聞いたのだか、競売にかけられる奴隷にもランクがあり、俺のようにやむ得ない場合の奴隷落ちは買戻し金額が安い配慮がされている。問題が多かったり、借金がある者、身分が高い人がほど買戻し料が高くなるらしい。

 このまま、誰も俺を買い取らなければそのまま冒険者ギルド行きになるなと軽く考えていたら……斜め下にいる厚化粧の妙齢?のケバい奥方の視線に気がついた。

 高価な服装をしているが、カエルのような顔で厚化粧をしてるせいで、化物の1種かと思える。


「ん~いいカラダしてるじゃない~ベットの上で味わうのも悪くなさそうねぇ。その気の抜けた顔も好みだわぁ。果てる時はどんな顔を魅せてくれるのかしらぁ」


 粘度のあるベッタリとした甲高い声で、凄まじく気持ち悪いことを言ってきた。

 待て、ヤメろ!その扱いは俺に効くから!俺は男も性奴隷になる可能性を考慮してなかった。

 助けを求めようと部屋の隅にいるヴェリを見つめるが、ヴェリは両手を挟んで方目を瞑り、「ゴメンねぇ、気に入る人が出るとは思わなくて」と言ったのがわかった。

 おぃぃー!そこは配慮してくれるんじゃないのかよ?チラッと奥方(カエル)を見ると舌舐めずりそのままの意味で、長い舌で唇の周りを舐めていた。


「そうねぇ、この子になら銀60枚出すわぁよ」


 本当に俺を買う気なのかよ!ゾォォォと全身に鳥肌が立つ。

 どうにかならないかと、周りを見渡すが、ザワザワと騒がしくなった部屋の中では「ご愁傷さまだな、あの男」「あの婦人に買われた奴隷は1人も開放されないらしいぜ」「ハハッ案外、具合が良くて離れたくなくなるんじゃないか?」「助けてやりたいがゴウバリ婦人に目をつけられたくないからな」

 などと無責任な会話が聞こえてきた。巫山戯んな!コッチの身になれってんだ!


「銀貨60枚、他にこの男を買い取りたい方はいませんか?」


 しばらく待つが、お互い顔を見合わせるだけで、手を上げるような救世主はいない。現実は無情である。

 嗜虐的な表情でゴウバリ婦人(カエル)は語りかけてきた。


「安心しなさぁい、私は気に入った奴隷には何でもしてあげたくなるの。だから、可愛いがってあ・げ・る♡からぁ」


 気を失ってしまえば、起きたら元の世界にいないだろうか?


「さぁ、今日から教育(かわいがって)あげるわぁ。そこの職員!契約の精霊使いを連れてきなさい!早く奴隷契約するわよ!」


 異世界の神は俺に試練しか与えないのか。ちょっと現状を飲み込めない。

 ゆっくりとそして満面の笑みを浮かべながら婦人(カエル)が歩み寄ってくる。婦人(カエル)の脂ぎった手が俺の顔に迫ってきた……もうダメかと思ったその時。


 バァァァンッ!!


 部屋に光が舞い込んだ。

 後光を纏って、立っている人物が大きな声で


「おじさまは私が買うです!!」


 この声を知っている。馬車で少しだけ交流を持った少女、シャロンだった。

 オレは光を纏ったシャロンが天使に見えた。もしかしたら泣いていたのかもしれない。しかしなんでシャロンがここに?


 静まり返った部屋にシャロンが進むと、彼女の持っている雰囲気に当てられたのか人混みは縦に割れた。モーゼか。彼女は俺を見つめ、ゆっくりと歩いてくる。

 その後ろを


「お嬢様!何をなさっているのですか!」


「あの奴隷のためにゴウバリ婦人に喧嘩売るつもりですかぁ!?」


 と侍女(アイリス)も着いてきた。お前がびびってどうするんだよ。


「おじさまは、ライリー家、息女シャロンが金貨5枚で身請けを致しますです!」


 シャロンがゴウバリ婦人(カエル)の前まで来て力強く宣言する。10歳ほどの少女とは思えない圧力にゴウバリ婦人は後ずさった。

 部屋の中は静寂の後、凄まじい歓声に包まれた。

「き、金貨5枚だと!」「だれだ?あの嬢ちゃんは」「美少女だと……あの男は婦人に買われろ」

 最後に言った奴、顔覚えたからな!

 ゴウバリ婦人は顔を歪ませて、更に化け物じみた顔になり


「な、な、なにこの小娘ぇ!」


「私のモノを奪おうとはいい度胸してるじゃない!私は金額6枚出すわよ!!」


 と、対抗するように言った瞬間


「では私はおじさまに金額8枚出します」


 ノータイムで金額を引き上げた。後ろでは「お嬢様ぁー、お金は大事ですよぉー。旦那様から頂いた支度金も限りあるんですぅー」と叫んでる侍女がいたがシャロンは全く気にしてなかった。

俺にそんな価値はないと言いたいが、状況に委ねるしかない。

 ゴウバリ婦人が更に引き上げようと、口を開けようとした瞬間、


「奥方様、奴隷程度に出してよい金額を超えています」


 音も無く、執事らしき老紳士がゴウバリ人に耳打ちした。

 何かを言いたげに老紳士を睨んだが、老紳士の視線に負けたように。2、3度深呼吸をし、


「まぁ、奴隷程度に金額8枚以上は金の無駄ね。貴方も冴えない奴隷程度に払うなんて無駄なことしたわねぇ」


 シャロンに捨て台詞を吐いた。たしかにその通りだと思う。

 当のシャロンは気にした風もなく


「おじさま、もう大丈夫ですからね」


 とゴウバリ婦人を完全に居ないことにしていたが。


 俺はシャロンの手を取り


「ありがとう、シャロン。天使に見えたよ」


 比喩じゃなく本当に天使に見えたんだよ。

 シャロンは嬉しそうに


「おじさまはお上手です」


 と笑ってくれた。

 側で「なんでぇーなんでぇ、この男に金貨8枚も出すんですか?」「そうだ、この契約解除しましょう!」「お嬢様と私の間に誰も入れないでくださぁぁい」と情けない声も聞こえたが。

 俺も後で聞かなきゃ行けないことがある。なぜこのタイミングで、俺を買おうとしたのか。正直、そこまでして買う価値も理由もないと思う。やったことは馬車で飴をあげたくらいだ。

こうして、俺はシャロンの奴隷となった。


 その後、俺は冒険者ギルドの中で制約の精霊使いという術士に、所有の契約の儀式を受けることになった。

 なんでも精霊に頼んで奴隷は所有者に逆らえなくし、誰の物かを分かるようにした紋を首に記す術らしい。

 俺としてはシャロンが所有者であれば逆らう気はないけど。

 儀式自体は体になんか変化が起きることもなく、首の周りに紋様が刻まれたらしい。鏡がなくて確認はできなかったけど。



 儀式が終わり、夜道をシャロン、侍女のアイリスと共にシャロンの父が持っているという別宅に向かっていた。


「改めてありがとう。シャロン。でも何で俺を買うことにしたんだ?正直、そこまでしてもらう理由が思いつかないんだ」


 気になったことを聞く。


「馬車でお話しを聞いたのを元に、この都市で奴隷競売がある日を調べたら今日だとわかって、慌てておじさまのところに向かったです」


「間に合って本当に良かったです。おじさまからもらったお菓子は価値を感じたです。そのためでもおじさまを他には渡すわけにはいかなかったですよ」


 嬉しそうに答えてくれた。……すいません、飴はシャロンに渡したもので最後なんです……

つまり、珍しいお菓子の情報が欲しかったのか!この世界じゃ出回ってない菓子だ。利用価値はいくらでもある。俺の価値と云うより飴の価値だったのかー。そういう事だったのかー。


「おい、奴隷!奴隷の分際でお嬢様のことを呼び捨てにするんじゃない!お前はライリー家の所有物となったんだ。奴隷としての態度があるだろ!逆らったらどうなるか教えてやるか?あぁ!?」


 飴はもう無いし、作り方もよく分からない。このままだと本当にどうなるか教わってしまうことになる。


「アイリス、勘違いはダメです。おじさまはシャロンの所有ですよ?アイリスにはなんの権限もないです」


 アイリスの顔が絶望の色に染まる。


「お嬢様、私はもうそこの奴隷以下なのですか?……もう私は必要ないのですか……?」


 シャロンは何を言っているのかという顔で


「アイリスはシャロンにとって誰にも変え難い侍女です。だからアイリスとおじさまは仲良くして欲しいです」


 シャロンは優しいなぁ。が、俺が飴の情報を知らないとしても優しくしてくれるだろうか?


「おじょぉぉぉざまぁぁぁ」


 アイリスはシャロンを抱きしめ、必要とされている事に感動して涙を滝のように流している。


「ですので、おじさまもこれからよろしくお願いしますです」


 アイリスを撫でながら、俺を見上げて見つめてくる。可愛いと思ったが、飴のことについては知らないとは言い出しづらくなってしまった。


「ハハハ、こちらこそよろしく頼むよ」


 何にせよ、助けて貰ったのは事実なのだ。これからの事はこれから考えればいい。受けた恩に報いるためにも別のことで頑張らないと。


「それにしても長い1日だった。今日は早く寝たいわ」


 異世界転移して今ここまで、密度の高い時間だった。突然荒野にいて、怪鳥に追われ、奴隷として売られる。そろそろ体も限界だ。眠くてしょうがない。


「屋敷に戻ったら部屋を用意させるですよ」


「はぁ?お嬢様!何を言っているん出すか!奴隷は外に寝かせればいいです。こいつは危険です。きっとお嬢様の寝所に行くに違いない!!その後こいつはきっと……あ゛ぁ、お嬢様が汚されるー!!」


「私だって、毎日侵入したいと考えているけど、踏み留まっていることなのにぃぃぃ!」


 正直この女の方が危険だろ。よくもまあ今まで無事だったものだ。

 まぁ、とりあえず今は眠ることが出来ればそれでいいや。その後のことは明日起きてから考えよう。ふと夜空を見上げるとそこには3つの月が見えた。

地球じゃ絶対に見れない光景だな。もう、驚くことにも慣れてしまい、異世界だなぁとしか感じなかった。


 「さぁ、早く行きましょう」


 シャロンに急かされ、3人で屋敷に向かう道をこうして騒がしく、歩いたのだった。

読んでいただきありがとうございます。


おっさんを助けに少女が!あれ?おっさんヒロインのほうがみたいじゃないか?といった内容の5話いかがでしたでしょうか。

これからも頑張って投稿しますので読んでいただけると嬉しいです。

5/19修正しました。

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