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おっさん少女と出会う

「……生きてる……?」


 少女が近づいて来て静かに声を掛けてくれた。


「ありがとう、助かったよ」


 先ずは助けてくれたお礼を彼女に伝える。感謝は大事だ。


「……そう……」


 あまり興味無さげな声が返ってくる。

 さっきは危機迫っていたこともあり、よく分からなかったが、目の前の少女は10人に聞けば8人は美人だと答えるだろう。残りの2人は「まぁまぁだね」とか言いながらチラチラ見るだろう。ただ、感情を感じさせない眠たげな目つきをしてるせいで、その分可愛いらしさを損なっていたが。

 肩まで伸びている青みがかった髪が風で揺れている。年齢は15歳くらいだろうか?身体も華奢で、身長は俺より頭ふたつ分くらい低い。その見た目から先程の魔術を操っていた人物とは思えなかった。

 少女は言葉数少なく、そのまま横を通り過ぎて行く。なんか良い匂いがしたよ……

 

 少女との会話がうまくいっている気がしなくて、翻訳が本当に効いているのか心配になってきた。


「俺の、言っている、言葉は、わかりますか?」


 丁寧に聞いてみる。外国人と意思疎通している気分になる。

 少女は不思議そうに振り返り、


「……?……エッセ語(大陸統一言語)のことなら理解しています……」


 よかった。今の話だと俺の言葉はこの世界の統一言語に自動に翻訳され、相手の言葉も自動に日本語で聞こえるようになっているみたいだ。意思の疎通ができることに安堵する。


 少女は気にした風もなく、そのまま怪鳥の亡骸まで行った。埋葬でもするのだろうか?

 しばらくすると怪鳥の亡骸から黒い煙が立ち上った。そしてそのまま塵となって消えてしまった。異世界では死ぬと塵になるのか?

 ふと気づく。怪鳥のあった場所に光る物体がある。なんだろうと気にしたら、少女はそれを拾うと腰に吊るしてある皮袋に仕舞い込んだ。


「さっき拾ったのは何?」


 少女が不思議そうに見返してくる。なんか不味いこと言ってしまったのだろうか。


「……魔石」


 その魔石が何なのか、わからないのですが。


「魔石とはなんでしょうか?」


 聞かぬは一生の恥。わからないことは確認しよう。実際、仕事でも知ったかぶりすると、後々自分に返ってきて、洒落にならなくなることがある。俺もやってしまった事があり、あの時は周りに迷惑をかけて凹んだことを思い出した。


「魔石は魔物の力の源。魔力が結晶化したものと言われている」


 物語やゲームによくある感じの落し物(ドロップアイテム)みたいなものか。ではその用途はなんだろう?


「魔石は何かに使えるのか?」


「魔石は冒険者ギルドで買い取ってくれる。魔石の魔力は生活に欠かせない……」


 怪訝な目をしながら俺の質問に答えてくれる。間違った情報を伝えている感じはしない。

 互助会(ギルド)があるのか。この世界では魔術、魔物、冒険者ギルドがあることがわかった。ありがたいことに俺の持っている異世界のイメージとの違いは少なそうだ。


「こちらからも質問させて……」


 逆に質問が来た。少し調子に乗ってしまったか。この世界の文化がどれだけ発展してるかを俺は知らないし、元の世界のように通信技術が発達してるかもわからない。なら情報には価値があるということだ。貰ってばかりでは不公平だろう。


「俺にわかることなら」


 実際どれだけ答えられるかわからないが。


「貴方は何処から来たの?」


 探るような目で質問してくる。

 深く、澄んだ瞳に嘘は通じない迫力があった。こちらとしてもようやく巡り会えた情報源なのだから警戒されるのは得策ではない。


「気がついたらさっきの怪鳥に追いかけられていた」


 これは事実。


「どうやってここに来たのかわからない。ここが何処かもわからない」


 これも本当。


「故郷から遠く離れてしまったのは分かる」


 嘘をつかないように答える。


「……そう。故郷はどこなの?……」


 本当のことを話すか。


「日本という国」


「ニホン……聞いたことの無い国の名」


 知ってたらこっちがビックリするよ。


「遠い、あの空の遥か向こうだ」


 抽象的に誤魔化す。少女はそれだけで、何かわかったかのように目を少し見開いた。

 もしかして、異世界転移の情報を持っているのか?それなら、元の世界に還れる足がかりを早々に手に入れられる。


「逃亡奴隷……」


 ちょっとありえない単語が出てきた。


「ちょっ。ちょっとまって」


 さすがにこれは否定しないと!


「安心して……この地方の都市シャンバでは南の獣人国のように人族を奴隷として酷く扱わない」


 よかった。大丈夫そうだ。


「シャンバでは奴隷にも人権が約束されている」


 大丈夫じゃなかった。


「俺は奴隷じゃないから!」


 冗談じゃない、慌てて否定する。


「貴方は自分が奴隷でないと証明するものがあるの……?」


 静かに、そしてはっきりと言い切られた。その通りだ。俺はこの世界での身分を証明できるものが無い。根無し草なのだ。


「南の地方では人族が獣人国の人狩りにあって奴隷として連れ去られることがよくある……」


 よくあることなのか。


「攫われて辛い立場なのは分かる、けど……」


 いつの間にか俺がここにいるストーリーが出来上がっていたみたいだ。


「逃亡奴隷をギルドに連れていき、保護するのも冒険者の役目……」


 逃げないと。そしてなにか別の方法で身分を証明しないと奴隷になってしまう。


「逃亡奴隷をギルドに連れていくと銀貨50枚……」


 売るんかーい!いや、冗談じゃない、このままだと本当にギルドに売られてしまう。

 逃げるために全力で駆け出した。少女相手なら体力の差で逃げ切れるだろう!


「……お願い、花の精霊よ、彼を眠らせて……」


 俺が駆け出すより早く、少女の呪文詠唱?が終わった。直後、地面から黄色い霧が現れ俺の身を包み込む。吸うとヤバイと感じ、口を塞ぐが既に遅く、強い眠気が襲ってくる。

 急に世界が遠くに離れていく感覚に陥る。足の力が抜け、そのまま地面に向かって崩れ落ちるのがわかった。


「ちっ……くしょ……」


 俺の意識は簡単に闇の中に沈んでいった。沈む意識の中で、異世界は俺に厳しくないかと誰かに文句を言いたかった

読んでいただきありがとうございます

未だに補助呪文が使えていない…


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