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プロローグ

 気がついたら、真っ暗な空間にいた……

 おかしい。さっきまで田舎の祖父の家で、古いゲーム機と当時、流行ったRPGを見つけて、徹夜でやってたのは覚えているが、その後のことが霞がかかったように思い出せない。


「おーい!誰か!誰かいませんかー!」


 とりあえず、声を出して周りの確認をする。

 声の反響が感じられない。ということはここは結構広いところだろうか?声を吸収する部屋にいるとも考えられるが、わからない場所で急に動いて体力を消耗したら、流石に危ないなと思い、しばらく留まることにする。

 ここで目覚めた理由を考えてみる。こんなところに閉じ込められる理由はないと思う。けど、清廉潔白でこの20数年ちょっと生きてきたわけじゃないから、知らずに誰かの恨みを買っていたこともないわけじゃないだろう。

 でも誰が?正直、俺みたいに大したことない人間に、こんな大掛かりなことはするのだろうか?しばらく考えたけど、これだと思う理由は思いつかなかった。

 このあたりでひとつの答えに気づく。


「夢だ。これ」


 自分が見ている夢と思うと、気持ちが落ち着くのがわかる。明晰夢というやつだろう。夢の中で夢に気づくというやつだ。夢なら、暗闇に閉じ込められている恐怖も感じない、焦らない自分の心情に説明がつく。

 でもどうせ夢なら、こんな真っ暗な空間じゃなくて、もっと夢のある光景にしてくれないものか。夢だけに。なんちって。

 でも、夢ならこれから自分の思い通りになるなと、ちょっと楽しみが出来た。何がいいだろう?やっぱりエロい夢か?美女や美少女に囲まれて干からびるまで楽しむのもありか?それとも魔法や超能力を使うのも悪くない。

 いろんなやりたい事が浮かんでは消えていく。でも、夢の中ならひとつ叶えて欲しいことがある。


「じいちゃんに会いたいなぁ」


 ひと月前に俺を残して逝ってしまった、最後の肉親を思い出す。そういえば遺品の整理のために、祖父の家に来ていたのだった。そこで古いゲーム機を見つけてしまい、遺品整理そっちのけでプレイしてしまったが。


「寝落ちとか懐かしいな」


 起きたら続きをしないと…もちろんゲームの方に決まってる。俺は駄目な大人なのだ。


『夢じゃないんだなぁ♪』


 突然聞こえてきた声に心臓が跳ねるのがはっきりとわかった。


「誰だ!」


 声の方を見ると、そこには光の玉があった。さっきまでは何も無かった場所に突如現れたのだ。というか、夢ならこんなこともありか?明晰夢を見るのは初めてだから、想像してないことが起こると流石にビビる。


『だから、夢じゃないといってるのに』

 

「エンタテインメントに富んでるんだな、俺の夢は」


『夢ではないと認めるのが怖いのかい?』


「俺の無意識の可能性が怖いぜ…」


『はぁ…キミが夢と思っているならそれでかまわないさ』


 光の玉は疲れたような?声で俺の主張を認めてくれた。勝ったな!


『勝ち負けじゃないんだけどね』


「なんだこれ?電球?」


『失礼だね……キミは。これでもとある世界では神と呼ばれたりしてたんだよ』


 今度は神ときたか…俺の夢というか無意識どうなってるのよ?厨二病は既に過去に起き去ってきたよ!思い出したくないんだよ?もしかして、無意識だから出てきたのか?俺の夢は俺を追い詰めるためにこんな得体の知れないモノを生み出してしまったのか……


『いい加減にこっちの話も聞いてほしいんだけどねぇ』


 俺の考えなど無視して光球は話を進めてくる。

 俺の夢なら、このままどこまでいくのか確かめるのもアリか。ヤバくなったら目を覚ませばいいわけだし。


「一体ここはどこ?お前はなんなんだ?」


『とりあえず、話を聞いて進めてくれそうなのはいいね。こっちも時間があるわけじゃないし』


  時間が無いなら出てくるなと言いたい。


『ボクはキミのお爺さんと一緒に、こちらの世界に転移してきた異世界の神様みたいなモノなんだよ』


 ぶっとんだ話が出てきたぞ。


『キミお爺さん、バルカとか言ったか、彼は優秀な術士でね、ボクをこの世界に転移させた上に封印してみせたんだよ』


「はぁ?」


 不味いことに、俺の厨二病は終わってなかったらしい。祖父までその設定に組み込んできた。祖父の名前は雷太だ。バルカとかいう厨二ネームなんかではない。


『まぁ、彼が死んだことで封印が解けた訳だが、このままではボクも消えてしまうんだ』


「消えたらいいんじゃないか?」


 どうせ目が覚めたら消えるだろうし。出来れば記憶も消えてくれると俺の精神衛生上とても助かる。


『酷いことを言うね。でもボクが消えるとバルカ、こっちでは雷太だったか、彼の生きてきたことが無駄になってしまうよ?』


「どういうことだ!?」


 祖父を馬鹿にする口調にこっちも口調が荒くなる。


『雷太は利用された。ボクと一緒にこっちの世界に厄介払いされたんだよ』


「利用された?」

 

『ボクらにとっての世界、キミにとっては異世界か。異世界では変革の周期が来ていた。ボクの他にも神みたいなのがいて、とあるゲームをしていたんだ』


『だが、ボクは負けてしまってね、勇者パーティに邪神として封印されたんだよ』


「邪神じゃないのか?」


『それは人の定義だよ。ボクは世界の特定の種族を依怙贔屓するつもりはなく、あくまで公平に見守るつもりだったのさ』


『だけど、中には人族や獣人、亜人なんかを贔屓したい神様もいてさ、そいつらにとってはボクは邪魔だったんだよ。そして、キミのお爺さんもね。』


「その設定が本当だとして、じいちゃんは唯の人間だろ?実際、じいちゃんは不思議な雰囲気してたけど凄い能力なんかなかったぞ?」


『この世界には魔力はないからね。故にボクはこの世界で封印され続けたのさ。同時にキミのお爺さんもそうさ、魔力がなければそれは普通の人とそう変わらない』


『だからこそ、雷太は元の世界には帰ることは出来なかったのさ。それは彼の才能を羨む人間には都合いいことだった』


「じいちゃんはもういない、お前ももうすぐ消えるんだろ?ならそれで終わり何じゃないか?」


 光球はため息をつくような点滅をしならがら話を続けてきた。


『終わるわけにはいかない。だからボクは元の世界に帰るよ。そのためのキミの力が必要なんだ』


「断る!」


 当たり前だ、そんな怪しい誘いに乗ることなんてできない。


『ちなみにこの空間にいる時点でキミは死んでるようなものだ』


「ちょっ、まっ、え?」


 は?死んでるって、何を言ってるんだ。この光球は?


『目を覚ませばいいとは思わない方がいい。このままでは目を覚ますことで死が確定する』


 いくら夢でも行き過ぎだろう。これは目を覚ますように頬を抓るべきだろう。


『もう一度言う、自分で目を覚まそうなどと考えない方が良いよ』


  今までの軽い声から一変した低く、重圧を感じる声に身体が竦む。


「ひっ」


 声すら上手く出せない。


『失礼、それはボクにもキミにも意味の無い行動になるから、止めさせてもらった』


 自分の夢なのに、思い通りにならないことがこれほど苛立つとは。

 

『キミは雷太の遺品整理でボクの封印を解いた。その余波でキミは死にそかけた。だからわざわざ貴重な魔力を使ってこの空間に来てもらった』


 じゃあ、すぐに安全に目を覚ますことをしてくれと念じる。声が出ないからね!てか、ここにるのは目の前の電球のせいか!


『封印が解かれたのはキミのせいでもあるけどね。兎も角、ボクとキミは利害が一致してるんだ』


『キミには雷太から魔力を継いで生まれてきた。その魔力を使わせてほしい。無論、それなりの報酬を与える』


 害しかないが、夢とはいえここまでくると厨二感の恥ずかしさより、どこまでいくのか興味が出てきた。話を合わせて、進める方が楽しくなってきた。どうやら俺は魔力を持っているらしい。中高生の頃なら狂喜乱舞するワードだ。


「俺にあるっていう魔力を使うことで、危険はあるのか?」


『ない。だが、このまま元の世界で目を覚ますことはできない』


「危険しかないじゃないか!」


『最後まで話を聞け、ボクはキミの魔力で元の世界に帰る。その世界にキミも連れていく』


「ハァ?何故そっちの都合に合わせて行く必要あるんだ?」


『キミは封印を解いた衝撃で死にかけている。だからボクのいた異世界の魔力で癒す。そしたら元の世界に帰ってくればいい。そうすれば問題ない。お互いwin-winだろう』


「問題しかねーよ!いきなり異世界とかおかしいだろ?」


「さっきの話だと勇者パーティとか言ってたよな!ってことは魔物とかいるだろ?他にも言葉がわかんないだろうし、未知のウィルスに感染すれば軽く死ぬわ!そもそもすぐ帰れるのかよ!?」


『そこは考えてるさ。ボクは本来特定の誰かを優遇はしないけど、今回は特別だ。翻訳や未知のウィルス耐性、おまけにストレス耐性も付けてあげるよ』


『元の世界に還るためには、転移の力を持つ能力者か術士を探せばいい』


「貰える能力しょぼくないか?しかも帰りは他人任せかよ!お前やらんのかい!?」


『元の世界に戻っても、ボクはほぼ全ての力を使い切ってるからね。暫く力を蓄えるために休まなければならない。折り返しでキミを還す力は残ってないよ』


「役に立たねー自称神様だな」


『さっきの能力はなしで頑張ってもらってもボクは構わないんだよ。どっちにしてもボクの元いた世界には連れて行くことに変わりはないし』


「すいません、貰える能力に文句はないのですが、ここはもう一声、特別にチート能力を加えてくれませんか?」


 何も貰えないのはヤバい。それよりも、この手の話の流れだと当然必要になるものがある。所謂チート能力。異世界生活の難易度を格段に下げる、生き抜くには絶対に欲しい能力。


『すまないが、ボクの残りの魔力、キミの魔力使って転移、さっきの能力を与えるとほぼ魔力はスッカラカンだ。先程の特典だけでも相当譲歩しているんだ』


 夢なのにこんなに渋いとは。翻訳と耐性とか必要最低限すぎるだろ。それじゃ無理ゲーだ。何とかチート能力を貰わないと!


「なら、他には何が付け加えられるか教えてくれないか?」


『世界を変えるような強大な能力は無理だ。補助的な能力ならなんとかなるかも知れないな。欲しい補助的な能力を思い浮かべるといい。時間もない、今から翻訳や他のも含めて与えよう』


「補助的ってどんな能力?しかも今からかよ!急すぎるだろ!」


 時間がなくなってきたのか、光球が急かしてきた。補助かと言っても急には思いつかない。そうこうしている間に光球から光が自分に向かってきた。そんな中、思い浮かんだのは何故かじいちゃん家で楽しんだゲームだった。たしか、あのゲームには補助呪文があったはず……


『能力の付与は成功した。今から転移を始める。キミが無事帰還することを祈る』


 もう終わったのかよ!


『前回は負けてしまったが、次はそうはいかん。待っていろよ青、赤、黄の神よ!』


 そして、暗闇が光に包まれていく。そして、この不思議な夢から覚めるんだろうなとぼんやりと考えていた。さて、起きたらどこを片付けようか、いまから考えておかないと。

 なかなか面白い夢だった。目が覚める前に微かに声が届いた。


『キミの望んだ補助呪文はちゃんと能力として与えられた。後はキミ次第だ。無事にこの世界に戻れることを……祈っ……』


 声が遠くなる。きっと夢が終わるのだろう。なかなか濃い夢だったが、目が覚めたら忘れていることを願う。だって、恥ずかしいじゃん。

初投稿です。

読んでいただきありがとうございます


5/15 誤字脱字修正しました

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