第二幕 第三場
時刻は午後二時をまわり、テレビを見るのにも飽きはじめたころ、おれは暇つぶしがてらに家の中を散策することにした。
太陽の光が差す昼間の家の中は、夜の時とはちがって明るく、すみずみまでよく見える。そのせいで家の中の飾り気のなさが目立ち、少しものさびしさを感じる。
「こんな立派な家だから、絵でも飾ればいいのに」
どうやら依頼人である佐久間ヨウヘイは、あまりインテリアには興味がないようだ。部屋の家具も内装も地味な暗い色でまとめられているとはわかっていたが、明るいこの時間に見るとそれが顕著に感じられる。地味な家の中だが、そのせいで夜になり暗くなると、暗い色合いの内装が少しばかり不気味に思えてしまう。夜と暗い色の組み合わせは、あまり居心地がよいものではない。
家の中を見てまわるのも飽きたおれは、窓に歩み寄る。外から見られても、そこにだれがいるのかわからないように、レースのカーテンだけは閉めておいてくれ、と佐久間から謎の注意事項を言い渡されていた。その言いつけどおり、レースのカーテンは閉ざされたままになっている。
「レースのカーテンは閉めておいてくれか。それになんの意味があるのやら」おれはつぶやくように言った。「でもまあ、居留守番には都合がいいからべつにいいけど」
おれはレースのカーテンを少し引いて、そこからのぞき込むようにして外の様子をうかがう。目の細かい格子窓のせいで見づらいが、窓の外の景色は森の木々が広がっているだけで、特別に目を引くようなものはない。
場所を代えてふたたび外の景色を見る。やはり特別変わったものはなく、目を引くようなものは皆無だ。二階に移動し上から玄関に面する道路側を見おろしてみるも、やはり何もないし、車や人が通る様子もない。
「何もないへんぴな場所だな」
そう言い終えたその瞬間、おれはあることに気がついた。見てまわった窓がすべて格子窓になっていることに。少し余分にカーテンのレースを引いて、それを観察する。格子窓の目はハニカム状で小さく、人の手すら通りそうにない。
「格子窓か……」
もしやと思いつぎからつぎへと窓を見てまわると、すべての窓が格子窓であることがわかった。例外は鍵のかかった部屋だ。そこが格子窓かどうかは確認できない。
「どうして全部の窓が格子窓なんだろう。まるで刑務所や精神病院みたいじゃないか」
そこまでする理由はなんだ、とおれは思った。わざわざすべての窓を格子窓にする。インテリアに興味がないと思える佐久間が、そうする理由はなんだ。
しばらく窓のそばに立ちながら考えていると、猫のサクラがやってきた。その姿を見た瞬間、悩んでいた答えを見つけた。
「なるほどペット逃亡防止のため格子窓か」そう言っておれはサクラをなでる。「かわいそうに。きみはここから逃げられないぞ」
しばしの間、おれはサクラと戯れて時間を過ごした。