第二幕 第二場
居間で食事をしながらテレビを垂れ流していると、テーブルの上に置いてあったスマートフォンが着信を告げる。画面に目を向けると、相手は友人の山崎コウジだった。
おれはスマートフォンを手に取る。「もしもし」
「よお奥村。おまえ暇だろ。これから遊びにでも行かない?」
「すまん山崎、きょうはちょっと都合が悪くて」
「都合が悪い?」山崎は疑うような口調になる。「どうしたんだよ。何かあるのか。まさか留守番でも任されているのか?」
そのことばを聞いて、思わず声を大にする。「えっ! な、何を言っているんだよ」
「だっておまえ、いつまでもおれの家に泊まるのは迷惑だろ、だからほかの友達の家に泊めてもらう、とか言って出て行ったじゃん。だからそいつの家で留守番でもしているのかな、って思ってさ」
「ちがうよ。ちょっと仕事があってさ」
「仕事?」山崎はしばし間を置く。「まさか居留守番か」
脳裏に守秘義務ということばがよぎる。「いや、その、ちがうよ。別の仕事だよ」
「ほんとうにか。怪しいなおまえ。何を隠している奥村」
「何も隠していないって」おれは冷静さを装う。「そういえば山崎、おれたちって子供の頃からよく不幸自慢していたよな。お互いに似た者同士とか言ってさ」
「なんだよ突然。話題が急すぎるぞ。話をそらそうとしているのか」
「そんなわけじゃないけど、けさ昔のことを夢で見たんだよ」
山崎は声の調子を落とす。「へえー以外だな、おまえでも夢を見るんだな」
「あたりまえだろ。だから懐かしくなってさ。おれ馬鹿な事を言っていたよな。幸と不幸のバランスは同じだとか、そんな根拠のない話を信じてさ。そのせいで、いまはこのざまだよ」
山崎からはなんの反応もない。しばし無言の間がつづく。
「もしもし、聞いているのか山崎?」
「……ああ、聞いているよ」
「覚えているだろ、あのときのことをさ」
「そんな子供の頃の話なんて忘れた」
「えっ……忘れた?」おれは少しばかりとまどう。「冗談だろ」
「子供の頃の話なんて、いまはどうだっていいだろ」山崎は語気を強める。「それよりもおまえ忙しいみたいだし、またこんど誘うよ」
言い終えると同時に電話が切られる。
おれは首をかしげながら、スマートフォンに目を落とす。
「覚えていないか……。それとも思い出したくないのか」
おれは居留守番の仕事をごまかせたことに安堵するも、山崎の不自然な態度に少し不安を覚えた。だが食事を再開すると、そんなことは些細な事だと考え、すぐに気にすることをやめた。