表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居留守番  作者: 又吉大吉
7/49

第二幕 第一場

 電話の音が鳴り響き、おれを夢の世界から現実へと引きもどそうとする。その音は頭痛を刺激し、否応なくおれを目覚めさせる。目をあけてみると、部屋の窓からは朝日が差し込んでいた。


「……幸と不幸のバランスは同じ」おれはつぶやいた。「やっぱり嘘だったよ。そんなの少し考えればわかるのに。だからだまされやすいんだ、おれは」


 鳴り止まない電話に毒づきながら、ベッドから体を起こす。眠たい目をこすりながらあたりを見まわし、そこが友人である山崎コウジのマンションではないと知り、思わずはっとする。


「ここはどこだ?」


 一瞬、狐に化かされた気分になるも、すぐに記憶がよみがえる。ここは仕事の依頼人である佐久間ヨウヘイの家だ。いま自分はその家の二階の個室にいる。


「……そうだった。自分は留守番をしていたんだ」


 おれは二日酔いのせいで痛む頭を手で押さえながら、この家の固定電話のある一階へと向かう。


「二日酔いか……、そんなに飲み過ぎたつもりはないんだけどな。酒に弱くなったのか。それともあれか、やっぱ生ビールだからか。生だから、偽物とはちがうのか。こう……がつん、とくるものがあるのかな」


 そんなわけのわからないことを言いながら、寝ぼけた頭で家の中を進んでいく。そうこうしているうちに、電話の前へとやってきた。


 電話は依然として鳴りつづけている。それが二日酔いの頭に響き、気分を不快にさせる。すぐにでも止めようと電話に手を伸ばした。そして受話器に手が触れた瞬間、あることばが脳裏をよぎった。


「留守番じゃない……居留守番だ」


 おれが受話器から手を離すと、ほどなくして電話は切れた。


「そうだった。仕事は居留守番だった。電話に出る必要なかったんだよ。逆に電話に出たらだめだったんだよな。危うく電話に出るところだった。気をつけないと」


 おれはほっと息をつくと、眠気覚ましにその場で軽く背伸びをして体をほぐす。すると猫のサクラがやってきて、おれの足下でじゃれはじめる。


「おはようサクラ」

 サクラが鳴いて返事を返した。


「お腹すいているかい?」

 サクラはふたたび鳴いて返事をする。


「おれもだよ。それじゃあ準備するか」


 おれはサクラにエサをやると、自分の食事の準備に取りかかる。キッチンにある冷蔵庫は大きく、依頼人の言うとおり食材は豊富だ。さらには缶詰やレトルトをはじめとする、保存食も大量にそろっている。

 おれは適当にメニューを考えると、さっそく料理をはじめることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ