第四幕 第五場
夜になっても留守電で女が語った不穏な内容のせいで、いまだに気持ちが落ち着かない。もはや奇妙な偶然の一致では、すまされない。松下アヤカなる人物は、いったい何を知り、何をしようとしているのだろうか?
それが知りたくて友人である山崎コウジの連絡を、居間で待っている状態だ。テーブルにはスマートフォンが置かれ、いつ着信が着てもすぐに出れるよう準備している。
やがてスマートフォンが振動する。電話の相手は山崎だ。すぐさま電話に出る。
「もしもし山崎か」おれは興奮気味に言う。「頼んでいた件、何かわかったか?」
「おいおい奥村、まずは礼が最初だろ」山崎は少しばかり疲れた声音だった。「まったく、調べるのに大変だったよ」
「ああ、すまない。いや、ありがとう山崎」おれははやる気持ちを抑えて、冷静になろうとつとめる。「ほんとうに持つべきものは友達だよ。それでさっそくで悪いんだが、何がわかったのか教えてくれ」
「えーとだな……」山崎はまるでメモを探して読むかのように間を置く。「松下アヤカは二年前の事故で両親を亡くしている。事件当時二十二歳、いまは二十四歳になるな」
「それで彼女はいまどこに?」
「現在は行方不明だ」
「へっ?」おれは思わず素っ頓狂な声を漏らした。「行方不明?」
「そう、行方不明。だから松下アヤカがいまどこにいるのかわからないんだ」
「行方不明なのか……」だとしたらあの電話はどういうことだ?
「一応その件についても調べてみた。どうやら松下はある日突然、住んでいたマンションからいなくなったそうだ。いついなくなったのか、その日時はわからない。くわしくはわからないが、事故の後、松下は仕事もせずその事故で得た多額の賠償金を頼りに生活していたようだ。だから仕事関係者もおらず、さらには松下には兄弟や親戚などもいないため、そのせいで行方不明になったことをだれにも気がつかれなかったようだ。最初に気づいたのがマンションのオーナーらしいって話だぜ。それ以上のことはわからない」
「そうか……」
松下アヤカは事故の後は、仕事もせずに賠償金で生活をしていた。おそらくは幽霊なるものが、あるいは幻覚が見えるようになってしまったため、仕事をするなんてことは無理だったのだろう。そして突然失踪し、行方不明。
……もしや失踪後、松下は過去にこの家にいたのではないだろうか。先生と呼ばれる謎の人物とともに。
仮にそうだとして、どうしていまさらこの家に電話をかけてくる。しかも自分もこの家にいると主張して。考えれば、考えるほど意味がわからなくなる。
「報告は以上だ」山崎が言った。「これでいいだろ奥村」
「ああ、ありがとう山崎。ほんと助かったよ」
通話を終えると、おれは渋い顔になる。知れば知るほど、松下アヤカなる人物の行動がますます奇異に思えてしかたがない。いったい何を考えているんだ?




