第一幕 第二場
次の日、頭痛の痛みから目を覚ましてみると、時刻は昼の十二時をまわっていた。おれはベッドから起きあがると、こめかみをさする。
「……飲み過ぎたな」
台所へと向かいコップに冷たい水を注ぐと、それを一気に飲み干した。一息つくと静まり返った部屋を見まわす。テーブルの上にはいくつもの空き缶が転がっていた。
「どんだけ呑んだんだよ」おれはため息まじりに言う。「その結果が二日酔いか。いまごろ山崎は仕事先で苦しんでるのかな——」
スマートフォンの着信音がおれのひとり言をじゃまする。頭痛に響くビープ音に毒づきながら、おれはスマートフォンを手にしてその画面に目を落とす。
「メール。だれからだ?」すぐさま画面を操作し確認する。「採用通知メール。まさかきのうのやつか!」
その文字を目にしたとたん、眠気が一気に吹き飛んだ。きのう申し込んだ仕事に受かっており、どうやらこのメールは採用通知とともに、最終確認も兼ねているようだ。
「この仕事を引き受ける意思があるのならば、メールを受け取ってから二十四時間以内に返信をお願いしております。定められた時間が過ぎると採用資格は失われます。あらかじめご了承ください」
メールを読み進めていくと、あることに気づいた。
「仕事の内容は居留守番となっております……居留守番?」そこで眉根を寄せた。「留守番じゃなくて、居留守番なのか?」
しばし居留守番の文字に目を奪われた。またしても表記ミスか。それとも留守番ではなく、ほんとうに居留守番なのだろうか。
「どうせ変換ミスか、なんかだろうな」
おれは深く考えずにメールに返信をする。そしてそのままスマートフォンでニュースなどをチャックしはじめる。するとおよそ一分後にメールは返ってきた。
「早いな」
その早さに驚きつつも、メールの内容を確認する。そこには指定された日時と場所が記載されていた。ほかにもいくつかの注意事項が書かれており、ある項目が目に留まる。
「この仕事には守秘義務が発生します。この仕事を請け負ったことをだれにも話してはいけません。たとえ友人や家族にもです。もしもその規則が破られた場合には違約となり、報酬はいっさい支払われません」
きびしい条件付きだな、と思った。だが報酬が高額だけに、何か理由があるのだろう。
「なお仕事の内容は事前に通達したとおり、居留守番となっております」おれはその部分を三度読み直す。「居留守番……誤表記じゃないのか?」
留守番と居留守番のちがいを考えてみるも、その明確なちがいはわからない。留守番するように居留守をすればいいのだろうか?
「……まあ、べつにいいや」
こうしておれは居留守番の仕事を引き受けることになった。