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落涙花〜生還率0%からの起死回生  作者: 末富遊(ゆう)
第一章:流される人生を送ってきた奴らへ
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円盤爆撃

 紛争は起きなかった。


 それ以上の大惨事が廃墟ジャングルを襲った。

 まず、音がした。

 異質な音だった。

 青年と少女の幸せな一時は唐突に終わりを迎えた。そして、時間は奔流のごとく動き出した。悪い方向へと向かって。


「お、お兄ちゃん、この音……」


 青年は立ち上がり、耳を澄ませた。

 武装団であらゆる機械類の音を耳にしてきたが、このような音は聞いたことがない。地上のあらゆる機械類との格の違いを直感させるような響きがあった。神聖な気配すら感じる。地上に生きる人間には想像も及ばないような力を宿した何かが、この廃墟ジャングルに接近しつつある。


 ぞくり、と肌が粟立った。


 さっきまで胸の内にあった、紛争に対する恐怖すらも馬鹿らしくなるような怖気が、劇薬の作用のように頭を真っ白にさせた。

 青年は少女とともに、半ば無意識に、武装団の天幕へと駆け出した。


 廃墟の狭間を抜ける。

 大通りが見えた。

 その向こうの、彼方の空に、青い光の煌めきを見つけたとき、悪い夢のなかに迷い込んだ心持ちになった。


「お、お兄ちゃん……あれって……」

「ああ……間違いない」


 それは、まるで地上の万物を嘲笑うかのように、遠くの廃墟街の上空で、雷雲のように空中浮遊していた。


 円盤型飛行体。

 単に『円盤』と呼ばれているそれは、人類に災いを齎す悪魔である。


 控えめな艶を帯びたダークグレーの装甲。流麗な曲面形状。数十もの中層廃墟を覆うほどの大きさ。地上のいかなる機械よりも美しいそのフォルムは、宇宙に高度な文明が存在することを、誇示しているかのようだった。


 バチバチ、という不穏な音が響いた。それと同時に、円盤の底面に青い光が滞留しはじめる。


『円盤の爆撃は青光線って呼ばれていてな。かなり特殊なんだ。あれは……例えるなら青い稲妻だ』

 先輩の体験談が脳裏を擦過する。

『いや、稲妻って表現じゃ、少し足りねぇか。もっとすごい威力だ。稲妻を数本束ねたような光だった』

 

 青年の目には、巨大な青い光柱が、突然地上に立ち上がったように映った。


 爆発音が廃墟街一帯に響く。まばゆい光が、まるで大洪水のように、廃墟街に広がった。

 たまらず二の腕で目を覆う。熱風が流れてくる。大地の鳴動が、両足を介して、心臓にまで伝わってきた。

 次に目を開けると、

「……!」

 彼方の廃墟街の一領域が灰燼に帰していた。


「総員退避〜!」

「各自、車両に乗り込め!」

「森林地帯に避難せよ!」


 上官たちの撤退命令が交錯し始める。

 大通りは、蜂の巣を突っついたかのような騒ぎになった。誰も彼もが、我先にと車両の荷台に乗り込み、『早く出せ!』としきりに運転手を急き立てる。もはや武装団の秩序は崩壊していた。


「お、お兄ちゃん、わたしたちも」


 青年も少女とともに、乗れそうな車両を探しまわった。

 大通りの中央道路では、幾台もの車両が、肉食獣に追われる草食動物の群さながらに爆走しはじめている。もはや向こう側に渡り、分隊に合流するのは不可能だろう。道沿いに停車している車両を探していると、運良く発車間際のピックアップトラックに乗り込むことができた。


 既に多くの兵士が乗っていた。当然ながら、顔見知りは一人もいない。皆無事に逃避手段を確保できただろうか、と仲間のことが心配になる。

 ガガガ、とタイヤが荒々しく地面を削る音を伴い、トラックは急発進した。


 トラックは、スムーズに車両群の流れに乗ることができた。

 ……逃げ切れるだろうか。

 震える少女を慰撫しながら、青年は今後の行動を思案した。


 円盤爆撃から生還できるかどうかは運次第だと言われている。遭遇したら、神に祈りつつ、走り続けるしか手段はない。


 それでも何か打てる手はないか。少しでも生存率を上げる為にできることはないか。


 青年は考え続けた。


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