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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第一章 消えた村人達
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アルマ村1日目①

 村は荒れ果てていた。

 入り口は背の高い丸太を隙間無く並べた壁と、丈夫な門戸が入る者を拒む様に立ちはだかり、その奥には村を取り囲む立ち木同士に横板や間伐材を打ち付けて繋いだ塀囲いが、延々と続いている。

 

 そうやって村と森との境界線が分けられているが、入り口はびっしりと蔦で覆われていた。

 力尽くで門を抉じ開け村の敷地内に入れば、今度は茨や薮が伸び放題の様相を成している。各家の生け垣が手入れもされず放置されていたからだ。

 

 村人がいなくなってから約十日程でこの有様とは……。

 開拓され日当りが良くなった土地とは言え、緑に飲まれるのが早い気がする。

 カイは膝丈程の雑草を踏み締めながら村の中へと進んで行った。

 ふと、違和感を感じる。

「……静か過ぎる」

 ここは山の中だ。季節は青葉の月の終わり頃—初夏。だが、鳥の鳴き声が聞こえない。カラック村近辺ですら聞こえていたものが、安心して巣を作る筈の場所で何故聞こえない?

 やはり狼が来たのか、それとも何か別の異変か……? カイはこの疑問を心に仕舞い、取り敢えず村の内部を調べる事にした。

 

 アルマ村は小規模ながらきちんと設計された村のようで、入り口から真っ直ぐ、大きな道が村を貫く様に伸びており、横から交差する何本もの細い道がまるで魚の骨の様に配置され、そこに家々が建てられている。

 

 村の一番奥、大きな道の突き当たりに、他の家より大型の建物が見える。恐らくは村長の住まいであろう。今立っている場所からは少しばかり距離がある。真っ先に調べるべきであろうが、足もとの状況から見ても、手前から調査しながら進んだ方が得策だ。日没まではまだ時間がある。カイはすぐ手前に見える四軒の家に向かった。


 この村の家には一軒一軒表札が付けられているらしい。よく見れば家の作り自体も富裕層の多いリルデンの建物に劣らぬ出来だ。カイは表札を確認しながら各家の探索を始めた。


 

バーナード家 

 村の入り口から向かって一番右端の家の表札には、ジョセフ・バーナードとリゼと言う名が刻まれていた。     

 二階建て家屋の東側には切り株をそのまま利用した薪割り台があり、大振りの斧が台に突き刺さったまま放置され、薪はその傍らで積み上げられていた。

 

 幸いな事に家の扉に鍵は付いていない様だ。カイは躊躇無く中へ入った。

 玄関を入ってすぐに台所と食卓が見える。食器や鍋、持ち手の付いた立派な籠。 かなり埃は積もっているが、不潔な感じは全くせず、簡素ながら品良く整えられていた。日の当たらない壁際には幾つも大きな樽が置かれている。

 

 中を確認すると、どの樽も水で満たされていた。きっと井戸が離れているのだろう。

 その後二階も調べたが特に何も見つからなかった。

 村の内部は人が消えてからそのままだと聞いたが、特に乱れている様子は無い。

 領主の調べが入った時に、腐敗する等、放置して困る物は片付けられたのかもしれない。

 

 右から二軒目と三軒目の家(それぞれスミス家とチャック家)はバーナード夫妻の家とほぼ同じ作りで、やはり注目すべき物は出てこなかった。

 左端の家へと向かう。



ヘルマン家

 ハワード・へルマンと妻のキャサリンが住む家には、何故か扉を塞ぐ様に細い丸太が立て掛けられていた。動かそうにも軒と地面の間にはまり込んでびくともしない。斧があれば取り除けない事もない。カイはバーナード家に引き返し、薪割り台から斧を持って来て、邪魔な丸太を取り除いた。

 

 室内はやはり他の三軒と似た作りだ。二階に上がると、寝室の横の小部屋に小さな机と椅子が置いてある。机の上には本が一冊。開いてみると日記だった。


『新緑の月十一日 生け垣を刈っていたら大事な腕輪を無くしてしまった。キャシーの落ち込む顔が辛い』

『同月十二日 朝から必死で探したが、手が血だらけになっただけだった。キャシーが呆れ顔で“もうやめてハワード、腕輪よりあなたの手が心配だわ”と言った。我ながら情けない』

『同月二十二日 森番のローランドさんが来て少し話をした。もう長い事、この村の森番をしているから村長よりも山に詳しい。若い頃はあの南方大都市ベルリッツの冒険者ギルドに所属していたが、数十年前にこの村に戻って来たそうだ。気さくに出自を話してくれる彼をとても尊敬している。一度彼の住処を訪ねてみたい。確か村に入る手前の、左の小径を行けばいい筈』

『青葉の月一日 村長に晩餐に呼ばれた。緊張するが、新参者の私を認めて貰えた様で嬉しい』……後のページは白紙だった。

 

 日記を置いて寝室に目をやる。どうやらこの夫婦はよその場所から移り住んだ者達らしい。不器用なハワード・へルマンとその妻は一体何処に消えたのか。

 ふと思い立ち、カイは家の外に出て辺りを見渡した。ヘルマン家には小さな畑があり、それを取り囲む様に茨植物の生け垣が作られている。

 

 茨は伸び放題で、このままではとても手が付けられない。カイは家の中から一振りの鎌を探し出し、生け垣を丹念に刈り整えて行った。それから少しもしないうちに家の中に戻ると、カイは生け垣から見つけ出した革の腕輪をそっとベッドの枕元に置いた。


「……じいさんからタダ働きするなと言われたが……これくらいはいいよな」

 そんな独り言を呟いたその時、カイの目がある物を捉えた。

 傷……引っ掻いた様な……。

 ベッドの柱に無数の傷がある。所々黒いシミが着いていた。

 血だ。

 カイは眉根を寄せてその柱を睨みながら、無意識に、腰の剣に触れていた。

 


 血痕が見つかった後カイは念の為、先に調べていた三軒の家を再び見て回ったが、やはり何も発見出来ずにいた。あれはただハワード・へルマンが茨で負傷した時の物なのか? 気がかりではあるが、先へ進まねば。

 カイは次に、ヘルマンの日記に書かれていた森番の住処に行ってみる事にした。

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