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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第二章 邪教徒と生け贄の少女
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火急

 オルセンは下りて来たカイをそのまま家の中に招いた。

 どうやら一仕事した御陰で気を許してくれたようだ。カイは有り難くその好意に甘える事にした。

 濡れた服が乾くよう暖炉の前で暖まりながら、オルセンが出してくれた水で薄めた葡萄酒を口にする。オルセンもカップを手に、親しげな表情で木箱の上に腰を降ろした。

「新しくして貰ったばかりなんだけど、知らずに手抜きされていたようだ。助かったよ。ありがとう」

「いえ。こちらこそ」

「今、村の大半が出払っているんだ。留守番は俺しかいなくてね。どうしても警戒してしまって。すまなかった」

「見知らぬ者が突然来たのだから、当然の事でしょう。しかし村の人達は何故、こんな天気なのに出ているのですか?」

「ああ……それが……」

 

 オルセンは言い淀み、カップを両手で包む様に持って俯く。

「……子供が二人、行方不明なんだ」

「何だって!?」

 カイはカップを乱暴に置いた。薄い葡萄酒が跳ねて床に溢れる。

「兄妹で羊の放牧に行ったっきり、帰って来ない。一人はまだ小さい女の子だから心配でね。だから皆で二人を探しに……」

「いなくなった理由に心当たりは?」

 カイはオルセンに詰め寄った。

「いや、ないと思う。まぁ、もうすぐみんなが帰って来ると思うから……それこそこんな天気だしね……帰って来たら聞いてみるが……その、便利屋さんも探すのを手伝ってくれるのかい?」

 真剣な表情のカイにやや気圧されながら、オルセンがそう聞いた時だった。

 家の外から幾つもの足音と話し声が雨音に混じって聞こえて来た。


「帰って来たようだ」

 オルセンと共に家の外に出ると、雨具を被った集団がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。オルセンが集団に走り寄り声を掛ける。

 やがてオルセンはこの村の村長を連れ、カイと引き合わせた。怪訝そうな顔の村長と(はや)る気持ちのカイは、互いの自己紹介を短く済ませ、オルセンに促されるまま家に入った。

 村長が家に入るや否や、カイは待ちかねた様に話を切り出した。

「子供がいなくなったと聞きました。探す手伝いをさせて下さい」

 共通語だが訛りの強い言葉で、村長はオルセンを咎めた。

「オルセン、なぜ知らない人に話した?」

「すみません……でも、この人は善い人みたいなので……」

 村長は硬い表情でカイに視線を向けた。

「あなたはどこから来た? なぜここにいる?」

「東のアゼラ国から来ました。ここを通りがかって嵐に遭い、オルセンさんに助けて貰いました」

「アゼラは分からないが、助かったならそれでいい」

「村長さん、時間が勿体ない。その二人の特徴を教えて下さい!」

 村長は首を横に振った。

「関係ない人に手伝って貰う気は無い。オルセン、明日までならここに泊めてあげていい」

「お願いです! このままでは二人が危険だ!」

「なぜ危険だと分かるのか? この土地に住んだ事もないのに」

「それは……」

「私達は後でもう一度探しに行く。あなたは余計な事をしないでほしい」

 カイは唇を噛み俯いた。

 

 村長が家を出て見えなくなったのを確認すると、カイは身支度を整えた。

 オルセンが落ち着かない素振りで問い掛ける。

「どこに行く気だい?」

「申し訳ないが俺は帰った事にして下さい。お願いします」

「あんたまさか、二人を捜しに行く気か?」 

 そう、捜しに行く。ブレガモット寺院に。生け贄の少女が目撃された、あの寺院に。捕われているとはまだ決まった訳ではないが、万が一予想通りであれば助け出す事が出来る。どのみち潜入する事に変わりはないのだ。行くのは今しかない。

「オルセンさん、貴方に迷惑はかけない。だから教えて下さい。ブレガモット寺院へ行くのに、どの道を行けば早いですか?」

「ブレガモット……?」

 オルセンはそう呟くとよろめきながら後ろに下がった。その様子を見て、カイは協力が得られそうにないと判断し、背を向けて家を出ようとした。

 だがオルセンは慌ててカイのマントを掴み引き止める。

「待てっ」

「申し訳ないが、ここで足止めされる訳にはいかないんです!」

 力尽くで振り払おうとしたカイを、オルセンは必死の素振りで制した。

「待てって、カイ・ヨハネス(・・・・)。ハイネマン卿の雇われ人!」

 眉をしかめたカイにオルセンは続けた。

「生け贄の少女の話を聞いてここに来た……そうなんだろ?」 

 

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